今年の6月に公開された是枝裕和監督の映画『奇跡』のサウンドトラック盤。主題歌“奇跡”、挿入歌“最終列車”“鹿児島おはら節”の他、劇中で使用された14曲のインストゥルメンタルが収録されている。両親の離婚によって離れ離れになってしまった兄弟が、家族の再生を目指して計画を立て、ささやかな冒険を繰り広げるのが『奇跡』。この物語を彩った曲たちは、ほのぼのと温かいひと時を届けてくれる。のびやかなカントリー風味、何処か郷愁を誘う日本的な風景を喚起するアコギサウンド、スパイものっぽいハードボイルドな響きを帯びつつも、コミカルな音色を添加することによって微笑ましさを醸し出している曲……などなど。あらゆるサウンドが素敵だ。くるりの音楽が元々抜群に持っている鮮やかな描写力を、改めて体感させられる。映画『奇跡』を観た人は様々なシーンを思い出しながら聴くだろうし、映画を観たことがない人も、その曲が流れた時に起こる出来事、風景などを自分なりに想像して楽しめると思う。そして、何と言っても“奇跡”が文句なしの名曲であるという実感で胸が一杯になるはずだ。（田中大）