“心地よい疲労感”

アニマル・コレクティヴ『センティピード・ヘルツ』
2012年08月28日発売
ALBUM
アニマル・コレクティヴ センティピード・ヘルツ
別にアニマル・コレクティヴが枠にはまった音楽をやることは誰も期待していないし、前作『メリウェザー・ポスト・パヴィリオン』が、これまでアニコレが追求してきた、実験音楽とポップの融合のジャストライトなバランスを実現し、彼らの名前をより幅広いオーディエンスに知らしめた作品だったとしても、その延長線上にあるサウンドを鳴らすとも思っていない。にしてもだ。やや悪趣味なアートワークがその象徴だとも言えるだろうが、これは暴走と言えるだろう。地元ボルチモアで4人集まって曲作りをした成果か、わりとまとまった前作とは違い、ジャムの要素が格段と強くなり、基本、反復するリズムというキャンヴァスの上、それぞれの個性がまるでアクション・ペインティングされたかのようにぶち撒かれている曲がずらりと並ぶ。一貫性とかはとりあえず無視された目眩くアルバムを聴くのはまさに“トリップ”である。そして、その旅は決して楽なものではないが、それだけに最後に辿り着いたときの報いは大きい。本人たちの言葉を借りるが、聴き終えて残るのは“心地よい疲労感”である。

さらにインタヴューで「アニマル・コレクティヴらしさっていうのは、聴き手を選ぶところ」だと話しているのが興味深い。確かに万人受けするのが想像できた前作とは違い、今作のハードルは高くなっているかもしれない。でも、以前はついて来れない輩を嘲笑うアニコレがいたと思うが、ここでは笑顔で手を差し伸ばしてくれている。つまり難解だが、開けた作品なのだ。だから怯むことなく、挑むべし。絶対にその体験は楽しめるものだから。(内田亮)
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