人生の意外性がすべてここにある

ボブ・ディラン『テンペスト』
2012年09月26日発売
ALBUM
ボブ・ディラン テンペスト
1997年に発表された『タイム・アウト・オブ・マインド』以来、届けられるオリジナル作品が常にロックンロールの原点に向き合う傑作となり続けているボブ・ディランの3年ぶりの新作。『モダン・タイムズ』以降定番となってきているロックンロール前史路線も健在で冒頭はジャンプ・ブルースを思わせるスウィング・ジャズ風の“デューケイン・ホイッスル”で裏稼業の流れ者の心境が吐露され、このアルバムのエキゾチックな幕開けを飾っている。ボブがこうした演出でなにをやりたいのかというと、自身のブルース体験やロックンロール体験がいかに異質で猥雑だったかということを再体験として伝えたいということで、お祭りやカーニヴァルの興奮の中に我を忘れていくような心地をいったん作り出していくことなのだ。それに続く楽曲については今回は基本的にどれもオーソドックスなブルースをベースにした楽曲ばかりが揃い、本当に久しぶりのボブのソングブックという体裁になっていて本当に嬉しい。ツアー・バンドとの息もぴったりでどのトラックも最高だとはいえ、“ロング・アンド・ウェイステッド・イヤーズ”の粘っこいリフのリフレインに乗せて「おまえの寝言/聞き捨てならないよ/おまえはいつか/ムショ行きかもな」などと歌い上げるくだりはこの人の芸域の最高潮と底なしの凄味を垣間見せてもらっている気がして本当にすごいものを聴いているという実感が押し寄せる。『欲望』の“ブラック・ダイアモンド湾”以来となる久々の破滅的状況大叙事詩となるタイトル曲もまたすごいが、ジョン・レノンに捧げる最終曲も格別だった。(高見展)
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