20周年記念の第3弾シングル“かげろう”。爪弾かれるアコースティックギターを主軸に、穏やかに揺らぎながら展開するアンサンブル。物憂げながらも情熱的なエモーションを湛えた歌声が猛烈にグッと来る。そして歌詞も絶品だ。自然も人波も生命力と活気に溢れる夏。その燃え盛る熱量と対照的に悲しみと孤独ばかりを募らせ、心の扉を閉ざしてしまっていることが窺われる主人公。彼(あるいは彼女)が恐る恐るながらも蘇ろうとしている様が静かに映し出される。そんな魂の動きを象徴するモチーフが「かげろう」と「蝉」。《夜明けに揺れてる陽炎》《蝉が鳴いているね 道にはぬけがら》といったフレーズが、とても印象に残る。気温がまだ低いはずの夜明けに立ち上る陽炎、生を謳歌している真っ只中の成虫と幼虫時代の残滓である脱け殻……不思議な違和感とコントラストを帯びた描写が、傷つくことを恐れながらも誰かを求めずにはいられない主人公の葛藤と鮮やかに重なる。決して派手ではないのだが、心に甘美に絡みついて止まないこんな世界を物語れる斉藤和義は、やはり卓越した「歌うたい」だ。(田中大)