ザ・プロディジーの6年ぶりの新作『ザ・デイ・イズ・マイ・エネミー』がついにリリースされる。レイヴ全盛期の90年に結成され、以来25年でアルバムはわずか6枚と、決して多作とは言えない彼らだが、ファンの熱い期待に応えながらも、そのつどの時代状況を睨み自分たちの表現をリニューアルし、プログレスさせ続けてきた。ダンスとロック、あるいはテクノとロックの融合という命題に挑んだのは彼らだけではないが、彼らほどのスケールと強度とエネルギーで、彼らほどの緻密さと誠実さで、彼らほどの破天荒でトリッキーなやり方で、彼らほど禍々しく刺激的に、彼らほどの強い刺激とカタルシスと沸騰するテンションで実現した人たちはいない。キース・フリントに代表されるエキセントリックなトリックスターとしての一面と、クラシックの英才教育を受け、ヒップホップDJとしてクラブの現場も知り尽くしたリアム・ハウレットのトラックメイカーとしての緻密なスキルと才覚が合致することで、彼らは唯一無二の存在となった。『ザ・デイ・イズ・マイ・エネミー』は、その最新・最高の成果なのである。

ザ・プロディジーの中心人物リアム・ハウレットは1971年生まれ。幼いころから音楽の正規教育を受け、やがてヒップホップのDJとして頭角をあらわし、各地のDJコンテストを荒らしまくる有名人だった。そしてレイヴ全盛の1990年に地元エセックスのクラブでキース・フリントらと出会いプロディジーを結成。バンド名はリアムが最初に買ったモーグ社のシンセサイザーの名からとっている。

リアムがローランドのサンプラーW-30一台で作った10曲のデモテープが、気鋭のダンス・レーベルとして頭角をあらわしていたXLレコーディングスに認められ、91年2月にシングル“What Evil Lurks”でデビュー。リアムはまだ19歳だった。以下、9の代表曲でプロディジーの歴史を振り返っていく。

(文=小野島大)

24年に及ぶキャリアを彩る代表曲

“Charly” (1991)

1991年8月に発表されたセカンド・シングル。これがいきなりUKチャート3位に入る大ヒットになり、続く“Everybody in the Place”もトップ3ヒットとなって、一躍プロディジーの名は英国中に轟き渡ることになる。BBCの子供向け番組「Charley Says」やジェイムス・ブラウン、ミート・ビート・マニフェストなどを自在にサンプリングして構成したブレイクビーツ・テクノ。まさしくレイヴ全盛期ならではのクラブ・アンセムで、うねりまくるシンセ・ベースから子供のヴォイス・サンプル、特徴的なシンセのリフレインで一気にブチあがってしまう向きも多いだろう。ヒップホップの英国流解釈であるブレイクビーツ・テクノは、テクノ版のガレージ・パンクとも言える荒々しく生々しいストリート感覚で当時の英国を席巻したが、プロディジーはその代表格だった。ジャンクなカオス感あふれるMVも、いかにもこの時代らしい。ファースト・アルバム『エクスペリエンス』に別テイクを収録。

“Out Of Space” (1992)

5枚目のシングルで、ファースト・アルバム『エクスペリエンス』からのシングル・カットとしてチャート5位を記録する大ヒット。マックス・ロメオのレゲエ・クラシックを軸にウルトラマグネティックMCズ、ランDMCからシェイメンまでサンプリング、レイヴとテクノとレゲエを自在に往還するフレキシブルな音楽性、シンプルなループ1本ではなく、転調とテンポ・チェンジを多用し多くの音源をレイヤーし一曲にいくつものアイディアを投入して変化を付け、聴き手を決して飽きさせない。トラックメイカーとしてのリアム・ハウレットの才能のほどを示す初期の大傑作だろう。我が日本の電気グルーヴもこの時代のプロディジーに大きな影響を受けているはず。MVの躁病的なテンションの高さもこの時代の彼ららしい。

“Voodoo People” (1994)

初の全英アルバム・チャート1位を記録した出世作『ミュージック・フォー・ザ・ジルテッド・ジェネレーション』からのシングル・カット。チャート13位。この時期のプロディジーのかっこよさを凝縮したような一大キラー・チューンだ。レイヴからブリットポップへと移行していた英国シーンの動向を反映、ニルヴァーナのギター・リフをサンプルしたイントロからしてロック色を強めつつあったことがわかる。ソウル・ファンクのレア・グルーヴからのブレイクビーツを巧みにエディットして、ポスト・レイヴ時代に相応しいダイナミックでグルーヴィでトライバルなダンス・トラックを作り出している。すでに大バコで鳴らすことを明確に意識した音響空間構成になっているのも興味深い。個人的にはこの年に2度目の来日を果たした彼らを六本木の小さなクラブで初めて体験してガン上がりしたこともあって、この時期のプロディジーが一番印象深い。

“Poison” (1995)

『ミュージック・フォー・ザ・ジルテッド・ジェネレーション』からの4枚目のシングル・カットだが、アルバム・ヴァージョンよりこのシングル・ヴァージョンの方がキャッチーでいい。ソウル/ファンク系のレア・グルーヴ、それもドラムネタを中心にエディットして、遅めのBPMで重心の低い粘り気のあるグルーヴを作り出している。リアムのヒップホップ好きがよく出たトラックで、ハードボイルドな雰囲気といいリズム・パターンといいヴォイス・サンプルの使い方といい、はっきり言ってめちゃくちゃかっこいい大傑作。

“Firestarter” (1996)

ロックに大幅に接近し、米英はじめ世界22カ国のチャートにて初登場1位に輝き、全世界で1,000万枚以上を売り上げたメガ・ヒット・アルバム『ザ・ファット・オブ・ザ・ランド(通称・蟹盤)』。一介のインディ・ダンス・レーベルだったXLレコーディングスが、アメリカのポップ・チャートで1位になるようなアルバムを送り出したのは、ポップ・ミュージック史上画期的なことだった。
この曲はそこからの最初のシングル・カットで、全英チャート1位を記録した彼らの代表曲である。相変わらずサンプルは数多く使われているが、キース・フリントが初めてリード・ヴォーカルをとったという意味で、バンド史上最重要曲のひとつと言える。それまでプロディジーの曲のヴォーカル部分はすべてサンプリングで、キースやマキシムはライヴでのMC/ダンサーとしてのパフォーマンスに徹していたから、音源は実質的にトラックメイカーであるリアムのソロだった。その意味でこの曲はプロディジーが真の意味での「バンド」になったことを告げるメルクマールだったと言える。プロディジー第二章の始まりである。ロンドン地下鉄トンネルでロケされ、逆モヒカンのトリックスター、キースの異形のカリスマぶりをアピールするMVも印象的だ。

“Breathe” (1996)

ケミカル・ブラザーズの『ディグ・ユア・オウン・ホール』やアンダーワールドの『弐番目のタフガキ』と並び、ダンスとロックの融合の象徴となった蟹盤からの第2弾シングル。またも英国を始めヨーロッパ各国で1位を記録した。ロック・ファンにテクノの重低音とダンスの快楽を教え、テクノ・ファンにロックのカタルシスと狂気を教えた必殺の一曲。前作に引き続きキースがヴォーカルをとり、分厚くヘヴィで攻撃的なサウンドが挑発的で暴力的で危険なムードを漂わす。MVの毒々しい異形ぶりも相当にヤバく刺激的。
蟹盤リリースの1997年にはダンス系アクトとして初めてグラストンベリー・フェスティヴァルのトリとして出演。この年第1回を迎えた天神山フジロックに出演する予定だったが、台風でフェスが中止となり、翌年東京で開催された第2回にヘッドライナーで出演した。

“Girls” (2004)

モンスター・ヒットとなった蟹盤から7年ぶりにリリースされた4枚目のアルバム『オールウェイズ・アウトナンバード、ネヴァー・アウトガンド』からの第1弾シングル・カット。長期のツアー、各人のソロ活動などを経てアルバムの準備を進めていたものの、シングル“Baby's Got a Temper”(2002)が蟹盤の2番煎じとメディアに叩かれ、それまでのマテリアルをすべて破棄して制作方針を根本から見直さざるを得なくなった。キースとマキシムはあえて不参加、代わりにジュリエット・ルイス、オアシスのギャラガー兄弟、クール・キースなどが参加し完成した。前作のストレートなロック色は後退し、リアムならではの、複雑にプログラミングされたサンプリングとブレイクビーツで緻密に構成された作品であり、リアムのソロに近いアルバムになっている。前作でファンになったロック・ファンからは戸惑いの声もあがり、特にアメリカでは大幅にセールスが落ち込んだが、前作を乗り越えバンドをなんとかネクスト・レベルに進めようとしたリアムの熱意と才気が光る。この曲は同作からの最初のシングル・カットで、CGを駆使したシュールでエクスペリメンタルなMVが面白い。

“Take Me To The Hospital” (2009)

5年のブランクを置いてリリースされた5枚目のアルバムが『インヴェイダーズ・マスト・ダイ』。ついにXLを離れ、自らの設立したレーベル「テイク・ミー・トゥ・ザ・ホスピタル」からのリリースとなった。デビューから17年、ひとまわりして原点回帰したようなレイヴ色濃いダンス・アルバムだが、単なる懐古趣味ではもちろんなく、初期のイケイケなダンス・トラックの勢いを、『ザ・ファット・オブ・ザ・ランド』以降の分厚くへヴィな音像で再現したようなエネルギッシュなサウンドで、自らの表現を確実に更新しているのがさすがだ。もちろんキースとマキシムもアルバムに参加、希代のテクノ・ロック・バンドとしてのプロディジーをたっぷりと聴かせてくれる。
この曲はアルバムからの第4弾シングル・カットで、チャート上の動きは振るわなかったが、レイヴ全盛期のけたたましいテンションと、ロック的なエネルギーが衝突炎上したような喧噪さがプロディジーらしい。キースとマキシムの禍々しいヴィジュアルと危険な存在感を打ち出したMVも最高。

“Nasty” (2015)

6年ぶりの最新6作目『ザ・デイ・イズ・マイ・エネミー』。6年間待たせ、高ぶりまくったファンの欲望に120%応えるようなアルバムを見事に作り上げた。『ザ・ファット・オブ・ザ・ランド』を少し思わせるロック色濃いエネルギッシュな音楽性だが、6年かけて緻密に作り込んだトラックの完成度は凄まじい。それでいて巨大会場でガンガン盛り上がるようなロック的カタルシスは失われていない。さらに音響感覚はダブステップ以降のものに更新され、大音量で聴くと重低音の押し出しが圧倒的。これを聴いたあとで『ザ・ファット・オブ・ザ・ランド』を聴くと物足りなく聴こえるのは、その差18年という時差を彼らが埋め、確実に2015年の表現としてアップデートしている証拠だ。
ザ・プロディジーの活動とは、今も昔も音楽のパワーやエネルギーを、初期衝動のまま減衰させず磨耗もさせず、どこまで緻密に拡大・強化できるかという勝負だが、彼らはそのために自分たちの表現をつねに進化させ続けているのである。本作もまた例外ではない。

サマーソニックでの来日も決定。またプロディジーの季節がやってくる。

提供:JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント

企画・制作:RO69編集部

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