感覚ピエロは、多彩な面を持ったロックバンドだ。シリアスなテーマを描いたり、エモーショナルなサウンドを鳴らすだけではなく、時には激しくエロス路線を表現したり、ウィットに富んだ異色作を放ったりもする。最新作となるシングル『#HAL』も、3曲それぞれが独自の世界を示す1枚となった。そして、自分たち自身の手でレーベルを運営し、マネージメントを行い、今年4月には株式会社を設立した点も、このバンドに関する特筆すべきところだ。彼らはどのような想いを抱きながら唯一無二のスタイルを貫き続けているのか? 最新作について訊きつつ、感覚ピエロの活動の背景にある精神性を横山直弘(Vo・G)、秋月琢登(G)に語ってもらった。
インタビュー=田中大
振り幅という点で、周りのバンドにはできないことをやっている(秋月)
――初のシングルなんですね。
秋月 はい。「一周回って、こういうオーソドックスなことをやってみるのもいいかな」という感じでした。僕らは手売りをしていた期間が長くて、配信でリリースすることも多かったバンドなので。この前、配信した“A BANANA”も、まだ盤にはなってないですし。
――“A BANANA”は衝撃作でしたね。YouTubeでMVを観ようとしたら、年齢確認の画面が出ました。
横山 まさかの18禁です。
秋月 MVというかAV(笑)。アホなこともしたいんです。
横山 その通りだね(笑)。
秋月 「YouTubeで18禁になったら、そりゃ再生回数増えんわ」って思いました(笑)。
――(笑)。あの曲の次に世に出るのが“ハルカミライ”であるというギャップは、感覚ピエロならではだと思います。
横山 「18禁になるような曲を作ってるバンドが、どういうかっこいい曲を出しますか?」という勝負をするような感じもありました。
秋月 振り幅という点で、周りのバンドにはできひんことをやってるんじゃないかなと思います。「この曲とこの曲、やってるバンド、同じなの?」ということがよくありますからね。去年の『ゆとりですがなにか』の時も、“拝啓、いつかの君へ”と“O・P・P・A・I”の両方が流れましたし。
横山 とはいえ“O・P・P・A・I”だけで終わられると困るんですけど(笑)。
秋月 そういう両方が、僕らの根っこですからね。「主題歌になると、この人たちはエモくなる」が、感覚ピエロあるあるらしいですけど、どちらの面も持ってるバンドなんです。
横山 僕らはもともとエモいんです。自分たちの内面にあるエモさを自然に出してるというだけなんですよね。
――真面目な気持ちからエッチな感情まで、いろんなエモさを持っているというのが、人間の自然な姿ではないでしょうか。
横山 その通りですね。“O・P・P・A・I”だって、エモの塊なんですよ。
秋月 「エモい」って万能な言葉やな。
横山 ほんまに(笑)。でも、誰もがいつもシリアスに何かを考えているわけではなくて、いろいろな揺らぎがあるもんじゃないですか。そういう意味で感覚ピエロは人間らしいバンドという感じがします。
――“ハルカミライ”で描かれている、「どう生きるのか?」という課題も、生きている中で誰もが向き合うことですよね。
秋月 そうですね。僕らも「自分で決めた道を行きたいな」というのは、ずっと変わらずあるんです。感覚ピエロは音楽をやってるんですけど、活動に関しても曲げれへん芯があるので。
――「ロックバンドは活動の仕方もかっこよくあるべきだ」という信念があるということですかね?
横山 「ロックバンドとして」という以前に「人として」という感じですね。「自分たちのことをロックバンドと思ってるか?」といえば、あまりそうでもないですし。
秋月 もちろんロックバンドなんですけど(笑)。
横山 うん。でも、自分たちをもうちょっと大きいところにハメていきたいというのがあるんです。もっと大きな枠組みで「音楽」っていうものを携えて生きていくためにどうしたいのかといえば、今の僕らがやってるようなスタイルだったんですよね。
秋月 やりたいことがいっぱいあるんです。音楽以外のところともどんどん関わっていきたいと思ってますし。
子供の頃に聴いたアニメの曲はずっと覚えている(横山)
――今回は“ハルカミライ”が、オープニングテーマという形でテレビアニメ『ブラッククローバー』とリンクしたわけですが。
秋月 そういうことなんだと思います。僕らはドラマとか映画の曲とか、いろいろやらせて頂いているんですけど、感覚ピエロとして作品にハマるようなものでありたいなと思ってました。アニメに寄せようとすることはなかったです。アニメの世界をそのまま綴ったというよりは、前向きなエールソングというところに行ったかなと感じています。
――サウンドに関しては、展開がドラマチックですね。
秋月 尺としては3分ないですし、サラっと終わりつつも、聴き応えはすごくあるものになりました。演奏は難しいんですけど。
横山 ライブでプレッシャーを感じながらやるタイプの新曲です(笑)。この曲をアニメで聴いた小学生とかがチケットを買ってお母さんと一緒にライブに来てくれるかもしれないと思うと楽しみですね。そういう子たちに、「アニメで流れてたあの曲の本物や!」という感覚を渡したいです。
秋月 アニメの曲って、音楽に興味を持つきっかけになりますからね。
横山 子供の頃に聴いたアニメの曲って、ずっと覚えていますし。
秋月 “ハルカミライ”も、何年後かに聴き返してもらって、響くものになってたら嬉しいです。僕の書く歌詞は人生に対するものが多いので、この曲も聴いてもらって、それぞれの人生を切り拓いてほしいなと思います。僕らもそうやって生きてますから。
――『ブラッククローバー』は週刊少年ジャンプの連載漫画ですけど、日本の男子としては、ジャンプの作品に携われたというのも、独特な感慨があるんじゃないでしょうか?
横山 そうですね。『NARUTO-ナルト-』や『テニスの王子様』とか、子供の頃に観てましたから。
秋月 『シャーマンキング』も。
横山 うん。そういうのを観てた頃は、自分が将来、何らかの形でアニメに関わるなんて思ってなかったです。僕、これから綺麗にまとめた発言をしますよ。そういうハルカミライだったわけです!
秋月 得意そうな顔で言うな(笑)。
横山 でも、僕らは現に今、こうなってるわけですよ。僕、『ブラッククローバー』の第1話の放送の日に、ワクワクしながら間に合うように家に帰ったんです。テレビの前に座りながら、ちびっ子たちの気持ちにもちょっとなっちゃいました。「こういうワクワクした気持ちでちびっ子たちも観てんのや。俺が今、こういう仕事に携わっていられるんやったら、今、この番組を観てるちびっ子の誰かも、この曲を聴いて影響を受けて、何年後かにこういう道に進んどるかもしれん」と思いました。