最近のアルバムの中では最もアジカンらしいタイプの曲が揃っているが、これまでのアジカンとは違う、新しいアジカンが鳴っている。
まず、外部の作曲者が書いた曲が収録されている。そして、サウンドが変わり、低音がしっかりと出て全体のバランスがゆったりとして、脱J-POPしている。そして、10曲入りのアルバムと5曲入りのEPという形でのリリースで、内容に合わせた自由な発想を形にしている。
つまり、このアルバムは、自由で新しいのだ。曲はむしろオーソドックスすぎるぐらいにアジカン的なパワーポップ集なのに、それを放つアジカンの姿勢とやり方が自由で軽やかで新しいのだ。
聴いていると、リヴァース・クオモ(ウィーザー)やグラント・ニコラス(フィーダー)やザ・チャーム・パークが書いた曲もアジカンの曲として聴こえてくるし(ホリエアツシの曲だけはどう聴いてもホリエだわ)、音が抜本的に良くなってるから曲が王道でもフレッシュに聴こえるし、アルバムの10曲とEPの5曲の区別もなんかよくわかんないけどいい感じに聴こえるし、まあ要するにいつものアジカンなのに、いろんな工夫が効いてるせいでなぜか新鮮なのです。そういうことがとても2018年だと僕は思う。今、ロックにも工夫がないとね。
アジカンから、未来へのいろんなアイデアとビジョンが提示された素敵なロック・アルバムだ。
なお、このインタビューの完全版は、発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』1月号に掲載されているので、ぜひそちらも併せて読んでほしい。
インタビュー=山崎洋一郎 撮影=Patrick
今までで一番聴いちゃうアルバムだなって。ポップなんだけど、今聴きたいロックの感じにフィットしてる(山田貴洋)
――いやー、素晴らしいアルバム! 最高傑作だと思います。まず、それぞれ「こんなアルバムができたぞ!」という個々人の思いを述べていただければなと。
喜多建介(G・Vo) まあ、どうまとまっていくのか、最初は不安もありつつ。でも、ほんとにいい形で、2枚組というか1.5枚組に分けられて。素敵な形に落ち着いたなと思ってます。
――特に「今回のアルバムはここだ!」っていうところは?
喜多 ギターも今までになく気持ち良く鳴ってるんじゃないですかね。スコーンと抜けたというか、喜んでやってる感じ。
――聴いた人は、それすごくわかると思います。ヤマちゃんは、どうですか?
山田貴洋(B・Vo) 最初はいろんなタイプの曲が散らばってる感じだったけど、ゴッチが曲を一気に持ってきてから、だんだんまとまってきて。自分も今までのなかでも一番聴いちゃうアルバムだなって感じてます。曲調もポップなんだけど、今聴きたいロックの感じっていうか、自分にフィットしてて。
――そこはほんとに今作のポイントだよね。潔、どうですか?
伊地知潔(Dr) ベストが出る直前くらいまでは、コラボシリーズというか、いろんな人に書いてもらった楽曲をアレンジし直すっていう作業をずっとやってた時期で。その時は今のこの状態はまったく想像できてなくて。そして、その期間が終わってから、ゴッチが急にいっぱい曲を書いてくれたんですよ。
――ほーう。
伊地知 そこでまた新たなコンセプトができて。前から作りたいとは言ってたんですけど、『サーフ ブンガク カマクラ』の続きみたいな、ああいうアルバムを一緒に作っていこうって。そこから急に走り出して。後半戦の1年間の制作はかなり楽しかったですね。前作よりもはるかに手応えのあるものができたと思います。
――なるほどね。ゴッチはどうですか?
後藤正文(Vo・G) いいと思います、いろんな意味で。ここ何年も、どうやったらロックバンドの音ってもっと良くなるのか、ずっと考えてやってきたから。それがここに来て間に合ったのがすごく嬉しくて、今はほっとしてます。
リヴァースとかグラントとかホリエくんとか、各球団のエースピッチャーだから作る曲いいに決まってる(笑)。そりゃいいアルバムできるでしょって(後藤正文)
――このアルバムは、いろんなテーマに挑戦していて。まず、「サウンド」。海外と差があると言われているなかでどういうサウンドを打ち出していけばいいのか。そして、いわゆる「オリジナル信仰からの脱却」。ロックバンドは自分で曲を書かなければいけない――っていう考えは今の世界の流れから言うと、ガラパゴス的な思想で。そこにも裂け目を入れてる。今回、いろんな人が曲を提供してるけど、“ソラニン”の作詞以外ではこんなことはありえなかったアジカンにおいて、画期的かつ衝撃的なことなんだけども。
後藤 『ソルファ』を再録してわかったんですけど、バンドって体、ボディが大事で。だから、ソフトはなんでもいいんじゃないか、何から何まで自分たちで作んなくてもいいんじゃないかと思って。トリビュート盤とかに参加してもそうなんですけど、同じフレーズで弾いても、アジカンでやったら笑っちゃうぐらいアジカンのトーンになるんですよ。バンドの魅力ってそこなんで。だったら自分たちがどんなバンドか一回調べてみようっていう。
――なるほど。でやってみて、自分たちのボディを確認するというか、何をやっても自分たちなんだっていう感じにはなれた?
山田 まあ、ベスト盤があってゴッチのスイッチが切り替わったのを感じたし。そこからは発想が変わっていったかな。最終的にいい分け方も編み出せましたし。
――アルバムとEPっていう。
山田 うん。この分け方は美しいなと思って。なるようになったなと、しっくりきました。
後藤 でも言わなきゃ人の曲だってわかんないよね、絶対。俺、友達になんにも言わずに聴かせたけど、「違う人とやったんだ」って一言も言われなかったよ。
――リヴァースが書いたやつよりウィーザーっぽい曲があったりするもんね。
喜多 確かにそれはあるかも (笑)。
――他のソングライターに発注して、アルバムとEPって形で分けるっていう今回のやり方は、どういう考えのもとにこうなったの?
後藤 やっぱアルバムとしては、トータル的なバランスで、一色塗りのほうが俺は好きなんで。今、配信だったらたぶんみんな5、6曲でぽんぽん次にいくから、10曲聴いちゃいたくなるような、バラエティに富んでないアルバムのほうがいいだろうって。だからアルバム然としたものを1枚と、そこに入らないバラエティに富んだものは外してもう1枚にまとめたほうがおもしろいかなと。