届くものって、どういう状況でも届くから。どんな状況でも届くような楽曲になればいいなって、すごく思ってた
――この2年で出してきた曲については、どう? このアルバムにも収録されている6曲については。「なんやろ……どうか無事に、この楽曲たちが、パンパンのお客さんの前で歌えますようにとか。でも、こういう状況だからっていうことは、制作の時は考えてなかったですね。届くものって、どういう状況でも届くから。どんな状況でも届くような楽曲になればいいなって、すごく思ってましたし。あと、やっぱりシングル出すの好きやなって(笑)。人に会えないとか――もちろん会いたいって思ったりもしましたけど――もしかしたらそこまで苦じゃなかったかもしれないです。いつかは大丈夫って思っていたので。もちろん、ファンのみんなの前で歌いたい、早く会いたいとは思ってましたけど、その時までのエネルギーを溜めてるから大丈夫って思っている自分もいました」
――この期間にあいみょんがリリースした曲って、過去に作った曲もあったと思うんだけど、51対49で、聴き手のことを考えている気がしていて。
「ほお、はいはい」
――今まで、もしかすると、51対49で自分の作りたいものを優先する時もあったのかもしれない。でも、アルバムに先駆けて、この2年の間に発表されてきた6曲からは、今、聴き手が欲しい言葉、メロディ、歌ってなんだろうっていう目線が感じられる気がしてね。
「へえー。基本的に楽曲作りする時に、背中を押したいとか、こういう人に届けとか、あまり考えてはいないんですけど、もしかしたら、焦りはあったのかもしれないですね。活動が止まってしまうんじゃないか、ファンが減っちゃうんじゃないか、忘れられちゃうんじゃないかっていう。それが知らず知らず楽曲に影響した部分はあるのかなって思います。相変わらず自由に楽しく、こんな状況なんかに左右されないみたいな気持ちではいましたけど、もちろん不安はあったので」
――その不安を、堂々とした名曲を作ることで越えていった感じがする。
「(笑)届いてほしいとは思っていますね。届くべきところに届けばそれでいいなっていう気持ちもありますし、作るからには聴いてほしいなっていう気持ちもあります。5年たっても、まだまだ、どうしたら音楽って広がるんやろ、届くんやろって考えますし」
――そして、このアルバムのための新曲たちには、もうひとつの誠実さがあると思って。それは、あいみょん自身が、今、音楽に向き合うテーマや興奮の材料をつぶさに刻み込んでいるところ。さっきこの13曲じゃないと、なんか足りない気がするって言ったのは、あいみょんにとって「今、音楽に向き合う楽しさとか興奮はこういうことです」って言う時に、やっぱり12曲じゃ足りなかったんだと思ったからなんだよね。
「ああ、そうですね。もしかしたら、13曲入れたいなあっていうのも、焦りの表れかなって思った時もありました。やっぱり、いつかは自分っていうものはいなくなってしまうんじゃないかって思って活動しているので、だったら今のうちにアルバムに新しい曲をたくさん入れたいっていう焦りもあったのかなと思いますね。聴いてもらえるうちに、自分がいいと思っている楽曲をたくさん入れたいって思ったっていう」
『瞳へ落ちるよレコード』を思いついたきっかけは、生き物すべての黒目がレコード盤に見えるから。コンタクトみたいに、目の中にレコードを落として体の中に響く――その感覚って素敵やなって
――フルアルバムは4枚目だけど、特に『瞬間的シックスセンス』から、アルバムとしての完成度にひとつの型ができたように感じていて。実は『パスタ』のインタビューの時に、あいみょんはこのバランスのアルバムをこれから何枚も作れるんじゃないかなと言わせてもらったけど、まさにそうなんだなと。「そうです。『パスタ』を基準に作っていたところがあったので」
――そういう、アルバムの黄金比みたいなものが、すでにあいみょんの中で見つかっているんだなと思った。
「もしかしたら、『瞬間的シックスセンス』の時に見つけたかもしれないですね。『おいしいパスタがあると聞いて』も、『瞬間的シックスセンス』と並べながら曲を考えたりしたので。面白かったのは、今回の曲のタイトルをバッと出した時に、ファンのみんなに、たぶん“神秘の領域へ”は“マシマロ”みたいな曲やなって言われたんですよ。この比率バレてる!って思いました(笑)」
――なるほど(笑)。あいみょんのアルバムがすごいのは、このバランスの中で、各ポジションの曲が見事に濃くなっているという。系統に分けて、それぞれの曲で書き込めること、歌に込められている思い、情念の強さがどんどん濃くなっている。
「今回も様々な年代に作った曲が入ってはいるんですけど、わりと、ここ1〜2年の曲が多いので。いちばん古い“神秘の領域へ”が2018年だったりするんですけど、2021年の楽曲もあったりするので。今に近い自分の楽曲が入っていて、それは面白いって思いますね。前作と比べても」
――『瞳へ落ちるよレコード』というタイトルは、音もきれいだし、ビジュアルイメージもきれいじゃない?
「ふと思いついたんですけど、きっかけとしては、生き物すべての黒目がレコード盤に見えて。だから、コンタクトを入れるみたいに、目の中にレコードを落として体の中で響けば、自分自身がレコードプレイヤーみたいな感覚になって素敵やな、面白いなって思って。あと、言葉の響きも自分の中でしっくりきた感じはありましたね。だいたい響きですよ、私。リズム感と響きがよければいいなって思う」
――あいみょんには、いつも大事なことを教えられます。
「いやいやいや、楽しいだけです」
――まだツアーもあるし、甲子園の弾き語りライブ「サーチライト」があり。
「はい。来てくださいね! 西宮、ちょっと遠いかもしれないですけど」
――では、引き続いて、新曲を1曲ずつ解説してもらえればと思います。
「よろしくお願いします!」