【インタビュー】常に心を揺さぶり続けるPK shampoo。純粋だからこそ時に破天荒なヤマトパンクスがその真摯なスタンスと新作『Pencil Rocket Opera E.P』について語る

人間がすごく好きなんです。だからこそ、ちゃんと考えてる人やと思ってガーッと言ってみたら期待ハズレでケンカになったりとか(笑)

――いきなりなんですけど、ヤマトさんってその破天荒な振る舞いや率直な物言いが注目されたりもしてるじゃないですか。ご自身としてはどう感じてます?

「別に意識してやってるわけじゃないし、衝動的にやっちゃってるわけでもなく、このまま喋ってるだけというか。『左利きなのはどう思う?』みたいな話に近いんですよね(笑)」

――そういう中で周りに人が集まっている気もしてて。

「僕、人間がすごく好きなんです。だからこそ、ちゃんと考えてる人やと思ってガーッと言ってみたら期待ハズレでケンカになったりとか(笑)。で、それが偉い人やったりする時もあって。そういう時に『アイツ、破天荒やな』ってなったりもするんですけど、ちゃんと後輩とかにもめちゃめちゃ酔っ払って説教してますから(笑)」

――そういうヤマトさんの愛されっぷりもありつつ(笑)、ここ数年はバンドにもちゃんとフォーカスが当たってるように見えたんですけど、昨年から今年にかけてはいろいろと大変だったそうですね。

「マネージャーがいなくなっちゃったり、売り上げとかも持ってかれて、借金も残されて、みたいな。まあ、大変やったんですけど、別にそのマネージャーと普通に飲んだとしたら『お前、アホか〜!』ってぐらいで終わる感じかなと思ったりもしてて。心配してくれた友達から連絡をもらったりしたけど、そんなに落ち込んでもないし、走り回ってたら終わっちゃった、みたいな」

――初登場なので少しバンドの流れを振り返りたいんですけど、前身バンドを経て2018年に大学の音楽サークルでPK shampooを結成したということですが、当初はガッツリと活動する感じでもなかったそうですね。

「もともと、大学に入った時は落語がやりたかったんです。立川談志とか、大きい声で何言うてるかわからんおっさんがすごく好きで(笑)。でも、落研にいる人たちって、あんまりそうじゃない人が多いんですよね。で、軽音サークルにも勧誘されて行ったら、大きい声で何言うてるかわからん人がそっちにいた、みたいな(笑)。そういうところから入り、留年をめっちゃしてたんで暇やからバンドでもやろうかなと思って」

――それが前身バンドの結成という。

「最初、ハードコアバンドみたいなのがやりたかったんですけど、その時のドラムが下手くそすぎて(笑)、全然ハードコアにならなかったんです。だから、スタジオの真ん中に日本酒を置いて、めちゃめちゃ轟音でハードコアをかけながら一気飲みをするっていう活動をしてて(笑)。そこで簡単っていうわけじゃないんですけど、できる範囲でやろうと思った時、歌モノみたいなノリで曲を書いてみたら意外と評判がよかったんです」

――そこから今のPK shampooにつながっていくんですね。

「そのバンドが解散したあと、もうちょっと上手い奴らをサークルから連れてきたのと、僕自身がちょっとは上手くなってたっていうのもあり、PK shampooではもうちょっと歌モノに寄った、みたいな感じですね」

バンドのことを好きやったり、大切に思ったり、自分の中心を占めてるからこそ、どうでもええわっていう態度をとってるのかなって

――ヤマトさんが影響を受けたアーティストをいくつか挙げるとすれば、どのあたりになりますか?

「サークルでメロコアみたいなのが流行ってたんで、Hi-STANDARDBBQ CHICKENSとか。あと、なんとなくオルタナも流行ってて、NUMBER GIRLから始まって、みたいな部分も先輩たちから教わったり。そこに青春パンクっぽいアプローチの、GOING STEADYとか、そのあたりですかね。あと、個人的にはエイフェックス・ツインとかアインシュテュルツェンデ・ノイバウテンとかも好きで、そういうのを聴きながら焼酎を飲んでました(笑)」

――音楽以外で世界観に何かしら影響を与えてるモノはありますか?

「90年代のアニメとかゲームとかはひと通りめちゃめちゃ好きやったんで、ベタなところだと『新世紀エヴァンゲリオン』とか『FINAL FANTASY Ⅶ』的な、SFと宗教の間みたいな空気感。『攻殻機動隊』とか、そういうのは好きですね」

――バンド名の由来にもなってますけど、RPGゲーム『MOTHER2』の世界観はPK shampooにも通ずるところがあるのかなと思ってまして。ノスタルジックやリアリティを感じさせつつ、日常とは一線を画すファンタジー感に没入させてくれる物語性があるという。

「嬉しいですね。そういのが雛形になってるのかな、っていう感覚は今もありますね」

――実際、PK shampooとして活動を始めるとメディアからも注目を集め、すごく順調だったようにも思います。

「PK shampooって、そんなに長く続けるつもりもなかったし、売れようともまったく思ってなくて。なんとなくゆるりと、それこそ大学を卒業しても楽しくやれる感じみたいなところから始まってて。それに伴って(前身バンドからは)曲調も変えて、BPMもズドンと落としたし。そうしたら、『すごくいい曲を歌ってるね』みたいなことを言われ始め(笑)、テレビでも特集してもらったり、雑誌とかで絶賛してもらえることが増えて、みたいな感じですかね」

――2021年には東名阪ワンマンツアーもやり、1stフルアルバム『PK shampoo.wav』もリリースして、いい手応えがあったかと思います。

「意外とポンポンといってくれたというか」

――ただ、ヤマトさんってどこかバンドに対してドライに接してるというか、飄々としてるようにも見えたんですよね。

「どう見えてるのかわからないですけど……今はバンドが好きなんやなって気づき始めたというか。(バンドを)家族って言うと気持ち悪いですけど、友達とか、それこそ自分の親や兄弟に対してだからこそ、めっちゃタメ口でワーッと言ってしまったり、ツンケンした態度になってしまったりするじゃないですか。バンドのことを好きやったり、大切に思ったり、自分の中心を占めてるからこそ、どうでもええわっていう態度をとってるのかなって、やっと自分の中でもわかってきたところはありますね」

photo by 吉岡來美

何かを歌にして人に聴かせようとする時、自分の中でいちばんじゃないモノを出すのって、ちょっと違和感があるというか

――そして、久々の新作が完成しました。

「1年半以上、経ちましたね。僕、全然曲を書かないんで」

――それは書きたくない? 書けない?

「書こうともしてない、ですね」

――スタートラインにも立ってない(笑)。

「そこが根本にあります(笑)。大学のレポートでも夏休みの宿題でも期限が過ぎてから『なんとかなりませんか?』って言いに行くタイプなんで」

――となると、今回の曲たちはどういった段階で生まれたんですか?

「この曲たちは、前のマネージャーが飛んでリリースできひんかったとか、いろいろあっただけで、わりと結構前からあったんですよ。“SSME”もそうだし、“新世界望遠圧縮”は再録、“S区宗教音楽公論”も上京したタイミングに作ったんで1年ぐらい前にはあって。(リリースとしては)1年半かかってるけど、純粋に新しく書いたのは“落空”だけなんで」

――冒頭を飾る“SSME”は音像もメロディもPK shampooらしい1曲ですけど、具体的なイメージがあって作り始めたんですか?

「作ったのが前すぎて覚えてないんですけど、確か七夕の曲にしようと思って。意外と七夕って雨じゃないですか。織姫と彦星も会えたかわからんみたいな部分もあるし、その前日の話にしよう、っていうところから書いたんやと」

――内容としてはロマンティックなラブソングだなと。

「でも、ダメでもええやん、みたいな曲なんですよね。“SSME”という言葉はスペースシャトルメインエンジンのことなんですけど、ロケットの打ち上げって、大体が失敗じゃないですか」

――すごく悲しいことをサラッと言いますね(笑)。

「僕は月に着いてどうのこうのっていうのも好きなんですけど、どっちかと言うと、そこへ向かうまでの熱意みたいな部分に惹かれるというか。それこそ、宇宙飛行士さんのトレーニングとか、技術者たちの失敗、ネジ1本からいろいろあるわけじゃないですか。宇宙とか星とか、それは対比として置いとくのはいいんですけど、下町の工場の話のほうが惹かれるし。何かに向かって走っていくことの素晴らしさというか、飛んでみようとすることの尊さですかね、言いたかったのは、たぶん」

――“S区宗教音楽公論”は《西武新宿、死のうと思った》という強烈なフレーズから始まりますけど、上京のタイミングで生まれた曲なんですね。

「結構、(曲に)地名を使うんですけど、東京へ行っていきなり渋谷とか言い出すと『ガチか、コイツ?』ってなるじゃないですか(笑)」

――いきなり染まったのか、と(笑)。

「だから、僕とかバンドで上京してきた人が行くところって、渋谷区か新宿区、下北沢がある世田谷区、高円寺とかの杉並区、そこらへんをSで括って、S区としたらそこは避けられるし、まがまがしい雰囲気も出るかなと思ってやってみましたね」

――都会をモチーフに曲を作る場合、街に対しての苛立ちや戸惑いをぶつけがちじゃないですか。でも、この曲は郷愁の念を感じさせつつ、すごく自分自身を問い詰める感じがするんですよ。

「まだ東京のことはそんな知らないんで、『東京』って曲を書くんなら(大阪へ)帰る時でいいかなと思うし。それに、何かを歌にして人に聴かせようとする時、自分の中でいちばんじゃないモノを出すのって、ちょっと違和感があるというか。たとえば、僕はゲームが好きやから詳しいです、って言えるかもしれんけど、自分自身のことのほうが絶対に詳しいはず。だから、自分の話にならざるを得ないというか、なるべきやなっていう僕の考えなんですけど」

ここまできたら全員続けてるだけでええ感じになってるよね、みたいな部分があって。よくも悪くも、そういうギラギラ感はなくなったかもしれない

――実際、PK shampooは世の中や社会へじゃなく、自身の想いを歌いますよね。

「それに世の中のことや社会問題とかを、これは誰かを批判してるわけじゃないんですけど、歌にするのってズルやと思うんですよね。正当な手続きを踏んで社会には訴えかけるべきやと思ってて」

――なんでそこだけ大真面目なんですか?(笑)

「ハハハハ(笑)。なんか、政治とかを訴える時に自分の才能で誤魔化すのは違う気がしてて。ズルじゃないですか、そんなん、って(笑)。だから、それを言いたいなら僕は選挙に出る、っていうタイプ。そうやってる人が悪いっていうわけじゃなくて、僕はそうしない、っていうだけですけど」

――ヤマトさん、選挙に出たいって思ったことあります?

「僕は40歳になったら出るって言ってますけどね。僕は権力がほしいんで(笑)」

――そんな展開も期待したいところですけど(笑)、権力がほしいと言いながらこの曲のタイトルにも公論ってつけてるじゃないですか。公論って、ザックリと言えば「みんなの意見を取り入れましょう」ってことですし。

「宗教と公論って相対してていいなと思うんですけど、僕はどっちも好きで。閉ざされた熱狂も開かれた議論も。で、“SSME”の時の話ともつながりますが、どっちにしようかなって考えてる時間が僕は好きなんです。そういう話を最大の極限値にしたら宗教と公論なんかな、って。揺れ動く悩みの極限を歌ってみたら、それが上京するタイミングやったんで、東京の話みたくなってしまいましたけど」

――“落空”は酒を飲みまくってクダを巻いてる人が作ったとは思えないほど、ロマンティックなスローナンバーです。

「そうですね(笑)。歌い方が歌謡曲っぽいって言われることが多くて、極限まで歌謡曲っぽくしてみようかな、っていう感じで。京都にいる友達のジャズギタリストと一緒にアレンジやって、ジャズやブルースのノリを取り込みつつ、オルタナっぽいロックバンドに落とし込むっていうテーマで作り始めました」

――メロディの動きだったり、ちょっとズレただけで破綻しそうなアレンジだったり、バランスがものすごく繊細な曲ですよね。実験的な気持ちもあったり?

「そう言ってしまえば、実験的なのかもしれないです。ただ、あんまりイキってるわけじゃないんですけど、あんまりロックバンドの歴史とか知らないし、洋楽もほとんど聴いてないんで、これが実験なのか車輪の再発明なのか、よくわかってなくて。だから、ちゃんと音楽の歴史もさらいつつ、実験的なモノも作ってみたいなと思いましたね。これは実験の実験というか、実験にはこういう楽しさもあるんだよっていう、キッザニアみたいな意味合いでやった感覚に近いです」

――“新世界望遠圧縮”を再録した理由はなんだったんですか?

「3年前にリリースした当時、バンドとして勢いが出てきて、お客さんも倍々で増えていってたんですけど、その発売日に緊急事態宣言でタワレコが全部閉まったんですよね。悔しい部分もあったし、ツアーも延期とかキャパ半分とかでやりはしましたけど、そこをちゃんとやり直したいという意味合いを込めました」

――ツアーを繰り返す中で生まれた曲だと思うんですけど、ツアーやライブの意味合いは当時と今で変わってきてます?

「あのころって、多少なりとも『掴みに行くぞ!』っていうか、どっかにそういう気持ちがあって。あと、ちょっと人気があるバンドや世の中の音楽シーンに対して『なんで、あんなバンドが売れんねん』みたいなことを友達と言い合ってたり。それはそれで悪いことやとは思わないんですけどね、若さの特権というか。そこからコロナとかを越えて、今となってはここまできたら全員続けてるだけでええ感じになってるよね、みたいな部分があって。よくも悪くも、そういうギラギラ感はなくなったかもしれないです」

――それこそ、バンドをやってる意味合いにも変化が生まれたようなところも?

「最初にも言ったかもしれないですけど、バンドメンバーって、始めた当初はちょっと他人行儀というか、そんなに仲よくない奴やったんですけど。今となっては、ホンマに親友とか兄弟とか、そういうモノにだんだんなってきて、どうでもよくなったというか。諦めたとか捨て鉢になってるわけでも嫌いになったわけでもなく、本当の意味で純粋にやれてる。いい意味でどうでもよくなってますね」

――そういった中で、目標みたいなモノはありますか?

「政治家ですね」

――そうきますか(笑)。バンドとして単純に売れたいとか、大きな会場でやりたいとかは?

「そんなんは全然ないです。まあ、必要なんやろうなっていうのはありますけど、続けていくためには。やってて楽しいがとにかく第一優先で、あとは結果がついてくればいいかな、みたいなところですね」

“SSME”MV


●リリース情報

『Pencil Rocket Opera E.P』

発売中
収録曲:
M-1 SSME
M-2 S区宗教音楽公論
M-3 落空
M-4 新世界望遠圧縮(再録音)
品番:FWWW-007
価格:¥1,320(税込)
仕様:12cm CD
発売元:From World Wide Web.

●ツアー情報

PK shampoo New EP『Pencil Rocket Opera E.P』Release One Man Tour “Pencil Rocket Opera”

2023年7月7日(金) 福岡 DRUM Be-1
OPEN/START:18:30/19:00
2023年7月8日(土) 岡山 ペパーランド
OPEN/START:17:30/18:00
2023年7月16日(日) 仙台 CLUB JUNK BOX
OPEN/START:17:30/18:00
2023年7月17日(月・祝) 下北沢 シャングリラ
OPEN/START:17:15/18:00
2023年7月27日(木) 名古屋 CLUB QUATTRO
OPEN/START:18:00/19:00
2023年7月29日(土) 札幌 ベッシーホール
OPEN/START:17:30/18:00

PK shampoo New EP 『Pencil Rocket Opera E.P』 Release One Man Tour “Pencil Rocket Opera” THE FINAL

2023年8月6日(日) 大阪城音楽堂
OPEN/START:16:30/17:30



提供:From World Wide Web.
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部