【インタビュー】クボタカイ、2ヶ月連続ドラマ主題歌リリース! 「人の心を深く突き刺すポップスとは何か」──探り見つけた答えを語る

【インタビュー】クボタカイ、2ヶ月連続ドラマ主題歌リリース! 「人の心を深く突き刺すポップスとは何か」──探り見つけた答えを語る

日常の「これ、ちょっと面白いかも」とか、くだらないことをあまり無下にしちゃいけないような気がして。「人」が見えるものが大事なんだなって気づきだした

──《秒針を刻むように バラバラになったあのストーリーは》という詞も、様々な想像が広がるいい1行です。

これは締切が近くなった時に、《秒針》ってワードを入れようと思って(笑)。ふざけ半分、スピード感がテーマの曲なので合うと思って使った言葉です。

──切羽詰まったところから来てたとは(笑)。ドラマのストーリーから浮かんだ言葉もあれば、制作中のリアルな自分から落とし込まれた言葉もあるんですね。

はい。僕の主観ですけど、日常の「これ、ちょっと面白いかも」とか、くだらないことをあまり無下にしちゃいけないような気がしていて。もちろん真面目なのがいちばんいいんですけど、「人」が見えるものが大事なんだなって最近改めて気づきだして。そういうものも捨てずに曲作りにトライできたことが、僕の中ですごく意味があったと思います。

──今の話は、ポップスとは何かという話でもあるし、クボタさんにとっても大切な話だと思うからもう少し聞いてみたいんですけど、そう思うようになったきっかけはあるんですか。

うーん、なんでしょうね……歌モノにトライした数年間だったんですけど、ちょっとふざけていたりドラマがあったりしたほうが、曲を愛せるし、自分の話になるというか。言葉選びが難しいんですけど……よりクボタカイらしいというか。「その人らしい」って大事だと思っていて。どの職業においてもそうだけど、音楽ってよりそうで、しかも自分の名前で活動している以上、いちばん大事なところかなと思ってます。もちろん「いい作品を作る」という軸はブレないんですけど、自分から出たものとか「これが僕だ」と思うものを、いいところも悪いところも含めて落とし込んだり、日常のちょっとした「ふざけ」を入れたりするのが大事だなって。振り返れば、昔から僕の音楽はそういうものからできていたなとも思ったんですよね。失恋して自転車を立ち漕ぎして帰って、そのまま作っちゃった……っていう物語も、バカバカしいけどピュアだなと思うし。“Wakakusa Night.”で曲名にピリオドをつけたのは「あの夜に終止符を打ちたかったから」っていう理由で、すげえ中二病臭いけど(笑)、そういうのもなんかいいなと思って。そういうふざけ、ひねくれ、ひねりとかは、これから制作するうえでもっと比率を増やしていこうと思いました。ありがたいことにそれをドラマのタイアップの作品でできたことに、意味があったと思ってます。


【インタビュー】クボタカイ、2ヶ月連続ドラマ主題歌リリース! 「人の心を深く突き刺すポップスとは何か」──探り見つけた答えを語る

やっぱり「楽しい」っていうグルーヴは伝わると思うんですよ。「楽しい」は作るものじゃなく、もともとあるもので、それをそのまま出すということだから

──続く“フラッシュバックメモリーズ”は、ドラマ『マイストロベリーフィルム』への書き下ろしですが、これはドラマの台本からどんな着想を得て書き始めたのでしょう。

ドラマが高校生の青春を描いた物語で。主人公の光と千花が学校で8mmフィルムを見つけて、その映像を再生するんですけど、映像の中に美しい少女がいて、光がその子に恋しちゃうんですよ。フィルムを軸にいろんな物語が展開されるというドラマで、映像の奥にいる大切な人を描きたいなと思って書いた曲です。たとえば、もう会えない人とか全然会ってない人がスマホの写真フォルダの中にいて、見返した時に「懐かしいな」「あの時好きだったな」ってなることがあると思うんですけど、それをこの音に合うような温かい歌詞で書きましたね。

──確かにありますよね、昔の写真が急に目に入って胸がグーッとなる瞬間。

そうそう。その感覚がちょうどあったので。ドラマではそれが8mmフィルムで描かれていて、現代ではスマホで起こることだと思うけど、そのどちらにも寄らないように書きましたね。

──この曲も自分から出てくるものを入れることを意識していたんですね。この曲も一つひとつの音に、そこで鳴らなきゃいけない意味が明確にあるような作りになっていると思いました。サビ前にジリジリというアナログ的な音を入れて、サビでキラキラした音が入ってくるのも、ドラマの内容や「記憶」というテーマから必然的なことだったんだろうし、メロディにおいても、たとえばサビの後半で同じメロがリフレインするところは記憶が巻き戻っていく描写をそのまま表現しているように感じて。

これは歌モノでラップはないんですけど、やっぱり韻を踏みたくなっちゃうというか。《君がいない》《僕もいない》《知らない》《会いたい》《まだ痛い》とか、韻とリフレインが生むグルーヴが好きで。昔の曲でいうと“せいかつ”のような。そういうグルーヴを作りたいなと思っていたんですけど、「巻き戻す」「フィルムを巻く」というテーマの曲でそれができたのは、偶然の産物だから嬉しいですね。ドラマにMIDIコントローラーを持ち歩く、音楽を作っているキャラクターがいるんですけど──自分も高校生になったような気持ちで、あまり作り込みすぎずに、音数をシンプルにしました。キーボードの(中村)圭作さんが、2サビ終わりとかアウトロのキーボードのエフェクトを「これ違うな……」ってずっと研究していたのが面白くて(笑)。それこそドラマのキャラクターみたいに、圭作さんが音楽少年になっていたのがめっちゃ面白かったです。キーボードの音、めちゃくちゃかわいくて。


──そうやってミュージシャン同士で笑い合いながら作っていったような雰囲気が音に出てますよね。

それがすごく大事だなと思っていて。さっきの話の通りなんですけど、やっぱり「楽しい」っていうグルーヴは伝わると思うんですよ。それはSNSにおいても、何においてもそうだと思う。自分が美味しいと思ったものじゃないと提供しちゃいけないと思うし──「楽しい」というグルーヴは作るものじゃなく、もともとあるもので、それをそのまま出すということだから。今回の2曲は特に楽しかったですね。「楽しい」は絶対に伝わる……「楽しい」というより、「面白い」かな。「面白い」って伝わるから、その嗅覚を研ぎ澄ませたり、ちゃんと信じたりすることが今年の目標ですね。

──今回はまったく違う曲調の2作が連続リリースされましたけど、「何をやってもクボタカイになる」みたいな、クボタカイのポップスとしてできるサウンドの範囲が広がっている実感もありますか?

そうですね。その中でも、今は「ギターの音が全部聴こえるようにしよう」みたいな縦の軸をちゃんと決めているので、バラバラなサウンドにはなっていないのかなと。(サウンドの)横幅よりも、「その1曲がどれだけ刺さるか」ということを考えてます。ラップもできて、歌も歌えて……みたいなことは重要ではなくて。それはただの手法だから、そのラップで感動させられるか、どういう歌を歌うか、それがひとりの人にどれだけ刺さるのか、何人に刺さるのか──そういうことにこだわりたいですね。

──取材前にクボタさんの曲を初期から振り返って聴いていたんですけど、良質なポップスを作るということにおいて、どこかで明らかにギアが変わってる気がしました。その意識として、大きなターニングポイントとなった時期や作品は何かありますか?

それはまさに今だと思いますね。それこそ車で喩えると、ギアを上げる時期やハンドリングを上手くする時期みたいなものがあって、今はその両方というか。「歌モノと向き合ってみる」とか、いろんなチャレンジをやったうえで、「今の自分が出せる最高の曲ってなんだろうな」というところから、改めて原点に立ち返っている時期で。だから……うん、いい曲を作りたいですね。そのうえで、毎回「今が転換期だ」って思えるような気持ちで頑張ります。嗅覚鋭めで曲を作っていきたいです。

【インタビュー】クボタカイ、2ヶ月連続ドラマ主題歌リリース! 「人の心を深く突き刺すポップスとは何か」──探り見つけた答えを語る
ヘア&メイク=竹内未夢
スタイリング=渕上カン

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