【インタビュー】アーバンギャルドが初めて手掛けたアニメソング“愛、アムネシア”──活動17年目、 「アニソン、やってそうだよね」と言われ続けた3人の革新作に迫る

【インタビュー】アーバンギャルドが初めて手掛けたアニメソング“愛、アムネシア”──活動17年目、 「アニソン、やってそうだよね」と言われ続けた3人の革新作に迫る
TVアニメ『なぜ僕の世界を誰も覚えていないのか?』のEDテーマ“愛、アムネシア”。甘美でメランコリックなメロディを響かせるこの曲は、「アムネシア=記憶喪失」を主題としながら「忘れる」「忘れられる」ことについて向き合っている。世界から忘れられた少年の姿を描く『なぜ僕の世界を誰も覚えていないのか?』の余韻を一際切なく噛み締めさせてくれる曲だ。

活動17年目に突入しているアーバンギャルドだが、アニメソングを手掛けるのは今回が初めてなのだという。どのようなことをイメージしながら楽曲制作に取り組んだのだろうか? そして改めて浮き彫りになったアーバンギャルドならではの作風とは? そのすべてを語ってもらった。

インタビュー=田中大 撮影=三川キミ


誰も自分のことを覚えていなくて、今まで積み上げてきたものを否定されてしまうのを想像した時に思い浮かんだのは、こういう切ない感じのバラードでした(浜崎)

──アニメソングを手掛けるのは、初めてなんですね。

松永天馬(Vo) そうなんです。「アニソン、やってそうだよね」って言われ続けてきたんですが、実はやったことがなかったんですよ。

──昔の曲から挙げるならば“大破壊交響楽”とかも聴きながら映像がイメージできますし、アーバンギャルドの音楽にはアニメ的なところがもともとすごくあると思います。

松永 “大破壊交響楽”は、MVをガチガチに作るとしたらフルアニメでめちゃくちゃ動く映像にしたかったんです。予算の関係で、ラフに撮影したものになったんですけど。

おおくぼけい(Key) 多分「アーバンギャルド」っていう世界観ができすぎているから、アニメの世界と合うのが難しいと思われていた部分もあるのかもしれない。

松永 なるほど。そういう面は、あったのかもしれないね。

──タイアップのために書き下ろした曲も、意外と少ないですよね? 『Let’s天才てれびくん』の挿入歌“キスミーきれいみー”くらいですか?

松永 そうなんです。

──番組にも出演していましたね。天馬さんは係長。容子さんはぱぺらぴ子ちゃんでしたっけ?

松永 はい。プロデューサーさんがアーバンギャルドを好きでいてくださって、出演させていただくことになって。その流れで「挿入歌もお願いします」というお話になったんです。

──“愛、アムネシア”は『なぜ僕の世界を誰も覚えていないのか?』のEDテーマですが、どういう経緯で手掛けることになったのでしょうか?

松永 お世話になっている音楽レーベルのFABTONEさんを通じてのお話でした。FABTONEさんが、アニメの製作に携わるようになっていったので、一昨年くらいからキャラソンやリミックスみたいなお話をいただけるようになっていたんです。「アニソンをやらせてください」とお伝えしていて、去年『なぜ僕の世界を誰も覚えていないのか?』のコンペに曲を出すことになりました。

──“愛、アムネシア”の作曲は、容子さんですね。

浜崎容子(Vo) はい。先方が提示してくださっていたリファレンスがあったんですけど、「孤独を抱えている」というキーワードのイメージだけで作った感じでした。できた時に「これは勝てるな。採用されるわ、多分」って(笑)。いい曲ができたというのが自分の中であったので、確信があったんです。

松永 コンペのためにメンバーそれぞれが2曲ずつ書いたんです。浜崎さんの曲は、僕もピンとくるものがありました。デモを聴いて30分くらいでワンコーラスの歌詞を書けちゃったので。

浜崎 曲を作る際に原作も読みました。誰も自分のことを知らないというパラレルワールドみたいなお話が私は好きなんですよね。自分がもしそうなっちゃった時に、どういう気持ちになるのかを想像して、「悲しいし、切ないだろうな」と。誰も自分のことを覚えていなくて、今まで積み上げてきたものを否定されてしまうのを想像した時に思い浮かんだのは、こういう切ない感じのバラードでした。アニメの放送を観て、切ない気持ちになっているところでエンディングとして流れるのは、やはり明るい曲ではないだろうなというのも思いました。

──「忘れられてしまう」という孤独、「忘れる」という切なさや悲しみが描かれている曲だと思います。

松永 「忘れたほうが幸せ」みたいなことも歌詞にしました。浜崎さんのデモのメロディは、悲しさの中に甘い感じがあったんですよね。優しい部分と冷たい部分が混在しているような歌メロだったので。

浜崎 サビはマイナー調なのかなと思いました。「忘れられちゃう」って「死」とイコールじゃないですか? アーバンギャルドはこれまでも「生」と「死」について描いてきましたけど、決定的に「死」について考えると、それはやはりとても悲しすぎること。だからサビで明るくなるのは、絶対に違うのかなと。

松永 忘れられてしまう悲しさもあるし、忘れることの悲しみもあるけど、忘れることによって楽になる部分もあると思うんですよね。

浜崎 どっちがいいんですかね? 私は「思わぬことで死にたくない」というのがあって、「自ら選びたい」って思うんです。たとえばお風呂に何日も入っていない状態で思わぬところで死ぬのは、本当に嫌なんです。ちゃんときれいな状態で、お化粧とかもしていて、好きな服を着て旅立ちたいです。「死」というものがもっと選べるようになったほうがいいんじゃないかなと思うんですよね。

松永 「死」は、「自分の中にある記憶を忘れる」であると同時に「自分のことも忘れられる」というのもありますよね。

浜崎 うん。「忘れられる」ということを受け入れる部分が、「自ら死を選ぶ」ということだと思います。「自分が消えてなくなる」ということにもっと前向きに向き合ってほしいというのを、私は常々感じているんですよね。

松永 「忘れられない」ということを求めがちだけどということ?

浜崎 うん。忘れられてしまうことを受け入れないと、死の恐怖はつきまとうんだと思います。そこら辺のことが、この曲で表現できていたらいいですね。

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アーバンギャルドは、テクノ、ニューウェイブだから、「テクノなんだけどレトロな感じ」というのを出したくて、それは昔からやりたかったことのひとつ(おおくぼ)

──作詞は天馬さんですが、どのようなことを考えながら書いたんですか?

松永 冒頭のAメロの甘くて優しいこの感じは、今までのアーバンギャルドにはあまりないんですよね。キリコの絵みたいに静謐で、部屋の中で人が止まっていて動かなくて影になっている──というようなイメージを抱きました。そして、それがサビで崩れ去るんです。《わたしは ケーキの箱のなか/目醒めて 悪魔に おはよう》って書きましたけど、ケーキの箱のような小さな箱の中で、女の人が毎日目覚める度に新しい自分になるというか、目覚める度に記憶を失っているんです。「記憶を失う」という意味ではネガティブかもしれないけど、それは「新しい自分になれている」「新しい人生を生きることができている」ということでもあるんです。2月にリリースしたアルバム『メトロスペクティブ』の“歌舞伎ブギウギ”の歌詞で、《今夜は眠りましょ/起きたら新品/新しい女の子になるの》と書いたんですけど、その世界と少し繋がるものもあるのかなと思います。僕自身もそうなんです。「41歳。今までやってきたミュージシャンとしての人生、これでよかったのだろうか?」とかいうことを毎晩考えるんですけど、「明日になれば新しい気持ちになれるぞ」という気持ちで寝るので。

浜崎 結構前向きなんだね。

松永 そうなんです。でも、寝れなかったりもするから、お酒を飲みます。

浜崎 私は「新しい自分になるぞ」という気持ちはない。「寝てすべてを忘れてしまえ」という感じなので。

松永 “愛、アムネシア”の歌詞の世界じゃないですか。

浜崎 そう。だからこの歌詞でいちばん好きなのは、《キャンドルを吹き消したら》なんです。キャンドルを吹き消して「はい、終わり!」みたいなところでサビに行くのが好き。そういうような感じで寝ています。嫌なことがあったら寝て忘れて、絶望で目が覚めるんですよね。「なんで目が覚めちゃったんだろう? もっと寝ていたい。できれば永遠に目覚めたくなかった」みたいな感じでがっかりします。

松永 二度寝はするんですか?

浜崎 二度寝もしますし、「今週は寝る期間です」というのを決めて冬眠みたいな感じになる時もありますね。起きているのが嫌なので。起きているとノイズがすごいから。「ライブはこれでよかったんだろうか?」「曲はこれでよかったんだろうか?」「将来大丈夫だろうか?」「積立NISAを早く始めないと」とか(笑)。

松永 僕は毎日記憶を失ったら、毎日が生まれた日になるから、毎日バースデーだなっていう感じですね。

浜崎 おめでたいですなあ。

松永 めでたいことが何よりでございます(笑)。人間の三大欲求の中で睡眠欲がありますけど、「死にたい」という気持ちはある意味、睡眠欲なのかもしれないと思うことがあります。脳、心、人生を休めたいということですから。

おおくぼ 僕は、必ず深夜の1時には寝るようにしています。楽しいことがあっても、辛いことがあっても、そうしていますね。

松永 ツアー中の移動車でもシートで小さくなって寝ていますからね。

おおくぼ 朝は8時に目が覚めます。

松永 制作に悩んだりすることはないの?

おおくぼ 悩むことはあるけど、悩んでも仕方ないから寝る。眠くなってるから考えても仕方ない。寝ないで考えてもいいものができるわけないと思うから。

松永 僕は、歌詞のことを考えて深夜になっても悩んでいたりします。1時間くらいでフルコーラス書けたりすることもあるんですけど、そこに至るまでが長いんですよね。言葉が溜まるまでの時間があるので。サウンド面では、そういうのはないですか?

おおくぼ 音では、「こういうのがやりたい」というのが子供の頃から溜まっているんです。“愛、アムネシア”でも、そういうことをやりました。浜崎さんがこの曲を持ってきた時に、浜崎さんのソロの音楽的なものも感じたんです。それをどうアーバンギャルドに落とし込むのかを考えました。アーバンギャルドは、テクノ、ニューウェイブだから、「テクノなんだけどレトロな感じ」というのを出したくて、それは昔からやりたかったことのひとつだったんです。

──アニメソングならではの作り方は意識しましたか? アニメのOPとEDは90秒、厳密には最初と最後に0.5秒の空白を作って、89秒の尺の中に展開を作って収めるという基本フォーマットがあるじゃないですか。

松永 尺に関しては、コンペのために曲を作る時点で全員が考えていました。

おおくぼ でも、アーバンギャルドの曲は、今までもなぜか大体1分30秒で最初のサビが終わるんです。

松永 もともとアニメ向きだったんだね。

おおくぼ うん。でも、“愛、アムネシア”の場合、問題なのは、約90秒の1コーラスの中で松永さんが出てこないんですよね。一応ボーカルなのに。

松永 2コーラス目から歌い始めるからね。全然いいんです。私は言葉を書いているので。

浜崎 先方からの「女性ボーカルで」というお話があったから、1番はお休みいただきました(笑)。

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