──そして、Disc2も興味深いですよね。15人の縁の深い音楽仲間がセレクトした15曲。(“ボクらの歴史”は)あの時代にしか歌えない、フレッシュな可愛らしい曲なんですけど、今でも好きで、たまにライブで歌うとファンの方にもめちゃくちゃ喜ばれるんです
この人これを選ぶんだ?っていう驚きもあって。マニアックすぎるものも(笑)。でもこれがDisc1と補完しあっていい具合になっていると思います。
──まず、CLAMP(創作集団)さんが選んだのが“ボクらの歴史”で。
CLAMPさん作品の楽曲というとアニメ『カードキャプターさくら』の“プラチナ”が最初の出会いだと思う人も多いかもしれないけれど、確かに“ボクらの歴史”が最初の出会いだったんですよね。こっちが先だったねっていうのを、私も思い出しました。この曲はほんとにあの時代にしか歌えない、フレッシュな可愛らしい曲なんですけど、今でも好きで、たまにライブで歌うとファンの方にもめちゃくちゃ喜ばれるんです。このアルバムで知る人もいたら嬉しいなという曲を選んでくれましたね。
──そしてやはり菅野さんのセレクトに注目したファンも多いと思います。“birds”というチョイスは真綾さんはどう感じましたか?
これまで菅野さんにどの曲が好きかって聞いたことがなかったんですよ。なので私も想像できなかったんですけど、“birds”は少し不思議な感じでした。「なるほど。確かに」っていう気持ちと、「え? そうなんだ」という、納得と意外が半分ずつみたいな。
──『イージーリスニング』というコンセプチュアルなミニアルバム作品に入っていた楽曲でしたよね。作詞がサカモトマーヤ、作曲がカンノヨウコと、カタカナ表記で。
当時、『Lucy』という3rdアルバムの制作とほぼ同時進行に近いくらいの感じでこのミニアルバムを作っていたんですけど、『Lucy』が王道の坂本真綾路線にあるとしたら、『イージーリスニング』はタイアップも何もなく、全然違う観点から作った、実験的な作品だったんですよね。なので「サカモトマーヤ」として、ちょっとワンクッション置くことでいつもと違う歌詞も書けたのかな。自分のアルバムではここまで情熱的な、愛の歌みたいなのってちょっと恥ずかしくて書けなかったけど、カタカナ表記がいわば仮面みたいな役割になって、いいほうに作用したアルバムだったんです。面と向かって聞いてはいないけど、菅野さんもこのアルバムではより自由に表現できていたのかなと思うし、当時も『イージーリスニング』が好きって言ってたような記憶が、朧げながらあります。菅野さんは、当時20歳だった私が《あなたの胸のいちばん奥にどんなずるく汚いものを見つけても/私が触ってあげるから》っていう歌詞を書いてきたことにすごいびっくりしたと、この曲の歌詞が印象的だったと言っていました。
──30周年を迎えた今、あらためて音楽をやってよかったなと思いますか?仕事というだけではない、人生の転換期を経ての「何か」を残したい。そのアウトプットのツールとして音楽があるという感じ
そうですね。こんなに長く続けるとは思わなかった始まり方だったし、途中、辛いなあと思う時期もあったけど、ここで辞めたらすべての人に不義理になる、中途半端に終わったら、ファンの方たちにも顔向けできないっていう意地もあって、なんとか立ち直った瞬間もありました。しんどいときにも誰かの顔が思い浮かんで踏ん張れるみたいなことがいっぱいあったので、やっぱり出会いが財産だったんだなあって。ほんとに出会い運だけはいいんです。ほんとにそれだけは才能だと思います(笑)。ここぞというときに出会ってきた人たちがいて、導かれて、影響を受けながらやってこれた。そういうことだけは誇れる。そういう人たちに、坂本真綾はよりよくなっていますよって見せられるように頑張んなきゃっていう気持ちで、これまで続けてこれたかなあって思います。
──今の真綾さんにとって、音楽とはどんなものだと思いますか?
どんなものだろう……。とにかくがむしゃらに、休みなんかいらねえとか言いながら働いていた30代を過ぎ、40も過ぎた今は子どももいて、とにかく生活をまわしていくための日々のタスクが多すぎて、ややもすると創作のための時間を確保するのはなかなか難しかったりするのですが、あらためて今回のベスト盤に、これだけ自分の作詞作曲した曲が含まれているのを見て、もう一度自分の曲作りをしっかりまとめて、作品にしたいという欲が湧いてきていますね。年齢を重ねて、生活や時代も変わって、その中で日々ちょっとずつ蓄積してきた何かを、そういう形でアウトプットできたらなと思っています。何か今までとは違うものになってきているという感じ。でもそれが何かはよくわかんないからもうちょっとやってみようかっていう感じです。仕事というだけではない、人生の転換期を経ての「何か」を残したい。そのアウトプットのツールとして音楽があるという感じですかね。
──ライフステージが変われば表現したいものも変化しますよね。
そうですね。今回、これまで歌ってきた曲が全255曲もあるということを、数えてもらって初めて知ったんです。これだけいい曲があって、しかも30年前に歌った曲を今聴いてもあまり古く感じないというのはすごいことだなと思って。こんなにいい曲がいっぱいあるという安心感のもと、これからはやりたいことをもっと突き詰めてみてもいいのかなって思ったりもしています。
──来年4月には30周年記念のライブも決まっていますね。東京・有明アリーナでの2デイズで、それぞれ違うバンドでのライブになるという新しい試みもありますが、いかがですか?
大きい会場ですし、周年らしく華やかに、できるだけこのベスト盤に入っている曲を中心にやりたいと思っています。周年のライブだったら昔の曲もやるかなと思って来る人もいるだろうし、初めて来る人も、ひとりで来る人も、すべての人が楽しめる、わかりやすいライブにしたいなと。今回この30周年という大きいステージでご一緒したいミュージシャンを絞りきることができなかったので、結局2チーム、違うバンド編成で行うことにしたんですけど、それも初の試みですし、実際どれくらい大変なことなのかもわかっていない未知のゾーンなのですが(笑)、そこも楽しみたいです。それぞれにカラーが違うバンドになるので、2日間観ても面白いと思うし、もちろん、1日だけでも楽しめると思うので、ぜひ足を運んでください。