all pic by 横井明彦 「今回のツアーではライヴが終わってすぐ次の公演先に行くことが多くて。『次の街ではどんなライヴしようかな』とワクワクすることが多かったんですよね。それが20年前の思い出とすごくシンクロして。そういう気持ちを今も持てているのが自分でも嬉しかったし、そういう意味でも価値のあるツアーでした」――アンコールでそう告げた長谷川正(B)の言葉が、おもしろいほど腑に落ちた。それぐらい、瑞々しく開放的なエネルギーが全編にわたって満ち溢れたステージだったのだ。今年で結成20周年を迎えたPlastic Tree。そのアニヴァーサリー・ツアー「Plastic Tree 結成20周年"樹念"ツアー2014『echo』」のファイナルとなる、2DAYSのTOKYO DOME CITY HALL公演2日目。“20”周年にちなんで全20公演で構成された全国ツアーの終着地で、彼らは20周年の感慨の色も霞むほどに鮮烈な輝きに満ちたアクトをパワフルに展開してくれた。
当ツアーに先駆けて、結成20周年“樹念”(=記念)ミニアルバム『echo』を3月5日にリリースした彼ら。この日のライヴは、そのアルバムの冒頭を飾る“木霊”のSEからスタート。ステージ上部にカーテン状に吊り下げられた白布に『echo』の文字が投射され、メンバーが登場する。そして、赤と黒のストライプのロングコートに身を包んだ有村竜太朗(G・Vo)が現れたところで、1曲目の“眠れる森”へ。ハラハラと舞う落ち葉の映像が流れる中、郷愁を誘うミドルテンポの音像が広がっていく。続く“曲論”では、一転して鋭利でノイジーな音塊を解き放つ4人。有村がアグレッシヴにギターを掻きむしった“讃美歌”では、彼らの真骨頂である、永遠に朽ちることない青の世界へと場内を引きずり込んで盛大な拍手喝采を誘っていた。
「やあやあ」「やあやあ」「端から端までやあやあ」というお馴染みの掛け合いと、「結成20周年ツアー、寂しいけれどおめでたい最終公演・東京編、はじまりはじまり」という有村の挨拶に続いて、もの哀しくも温かい夢幻の世界を立ち上らせたのは“サナトリウム”。さらに煌びやかでグラマラスな享楽ムードを築いた“輪舞”、瑞々しく晴れやかなギターポップが弾けた“水色ガールフレンド”と、高い美意識と豊かなイマジネーションに裏打ちされた、プラならではの濃密な音世界が1曲ごとに構築されていく。しかし“雨音”“瞳孔”という最新アルバム曲の連打で状況は一変。“雨音”ではサビに向かってみるみると熱を帯びていく有村のエモーショナルな歌声が炸裂し、“瞳孔”ではナカヤマアキラ(G)のリフと長谷川のビートがガチンコで衝突し――と、堰を切ったように衝動を剥き出しにしていく4人である。最新アルバム『echo』は結成20周年を祝うに相応しく、生々しいバンド感がストレートに反映された作品だと私は思っているのだが、その剥き身のダイナミズムがライヴの場でも華々しく開陳されていることに、胸が躍る。そして拡声器を手にした有村が客席を煽り立てる中、佐藤ケンケン(Dr)の爆裂ビートが轟いた“あバンギャルど”で狂騒の彼方へ。新作を携え、幻惑的なサウンドスケープから衝動むき出しのギターロックへと瞬時にスイッチできるスキルをさらに高めたプラの現在地を物語る、圧巻の前半だった。

むせ返るようなノスタルジーとロマンが交錯する“嬉々”で幕を開けた後半は、さらにドラスティックな展開に。お立ち台に上って歌い踊る有村に盛大なハンドクラップが送られた“秘密のカーニバル”、透徹したアンサンブルの上で巨大なシンガロングが響きわたった“藍より青く”、ナカヤマのギターとケンケンのドラムがデッドヒートを繰り広げたアウトロで客席を沸かせた“バンビ”――と、1曲ごとに興奮の階段を上り詰めていく。そしてドラムセット両脇からスモークが噴き上がる中ブチかまされた“メランコリック”で頂点へ。どうしようもない哀しみと閉塞感を湛えた轟音によってオーディエンスを熱狂させるこの曲は、ネガとポジの間を曖昧に行き交いながら異次元のダイナミズムを生み出していくプラの真骨頂だ。そして、鍵盤の音色と共に枝葉がみるみると伸びるような有機的なサウンドスケープが立ち上った“影絵”を経て、本編ラストの“雨ニ唄エバ”へ。静謐なアンサンブルが降り注ぐ中、傘をさした有村がしっとりと歌い上げるという情感あふれるグレーの風景を音とパフォーマンスの両方で描き出し、しめやかな幕切れとした。
アンコールでは、3月中旬からスタートしたツアーを振り返り、「すごく楽しい春を過ごせたなぁと思っています」と有村。恒例のメンバー個々のMCコーナーでは、千葉/長崎/釧路とそれぞれの地元を回った充実のツアーの思い出が語られていく。そして冒頭に記した長谷川のMCを経て、“ガーベラ”“春咲センチメンタル”を披露。青やモノクロームの世界を想起させる本編とは一線を画す、カラフルで柔らかなサウンドスケープを描き出していく。一方「まだまだ遊んでくれるかー!?」と幕を開けたダブル・アンコールでは、プラきってのヘヴィ・チューンを連発。“ヘイト・レッド、ディップ・イット”“May Day”“puppet talk”の連打で残るエネルギーを完全燃焼させると、「行くぞー、3、2、1!」の号令とともに発射された金テープが客席に舞い落ちる中、颯爽とステージを後にする4人なのであった。鳴りやまない拍手に迎えられて再びメンバーが現れると、ケンケンの音頭による一本締めで2時間半に及んだアクトは大団円。終演後には「特報」として、「結成20周年“樹念”ツアー 2014『そしてパレードは続く』」が行われることも発表された。20周年を経て更なる鮮烈な輝きを増していくPlastic Treeの物語は、まだまだ目が離せそうにない。(齋藤美穂)
■セットリスト
SE 木霊
1.眠れる森
2.曲論
3.讃美歌
4.サナトリウム
5.輪舞
6.水色ガールフレンド
7.雨音
8.瞳孔
9.あバンギャルど
10.嬉々
11.秘密のカーニバル
12.藍より青く
13.バンビ
14.メランコリック
15.影絵
16.雨ニ唄エバ
encore1
17.ガーベラ
18.春咲センチメンタル
encore2
19.ヘイト・レッド、ディップ・イット
20.May Day
21.puppet talk