テイラー・スウィフト @ さいたまスーパーアリーナ

テイラー・スウィフト @ さいたまスーパーアリーナ
どこまでもヘルシーな反骨精神とヘルシーな復讐を、どこまでもヘルシーなコミュニケーションとヘルシーなエンターテインメントによって達成すること。24歳の、すっかり大人びてプロフェッショナルなアーティストの佇まいになったテイラー・スウィフトが、今回の来日公演に残してくれたものはそれだった。約3年半ぶり、前回の大阪城ホールと武道館での計3本とは打って変わって一夜限りのプレミアムな来日公演となったが、それでもワールド・ツアーが行われるたびにしっかり日本の地を踏んでくれることは喜ばしい限り。昨年3月から1年以上に渡って繰り広げられている『レッド』ツアーである。LEDの煌めくマスクを被った3人組=CTSが、オートチューンを噛ませた歌モノ・ダンス・ポップでステージを温めると、いよいよテイラーのステージが開幕だ。

アイコナ・ポップの“I Love It feat. Charli XCX”が鳴り響き、場内のオーディエンスの表情を捉えるカメラの映像が次々にスクリーンに映し出される。そして真紅の幕に覆われたステージ上、シルエットを浮かび上がらせながら『レッド』のオープニング・ナンバーでもある“State of Grace”を歌い出すテイラーである。伸びやかな歌声を放ちつつステージ前方に進み出て、あらゆる方角のファンに視線を投げ掛けては、自然体でエレガントなステップを見せる。思えば2010年の初来日公演のとき、オーディエンスの悲鳴ともつかない歓声にびっくりするような表情を見せていたが、『レッド』のアートワーク同様、鮮やかなルージュを引いた口元にニコニコと笑みを浮かべ、しっかり歓声を受け止めている。一曲を歌い切ると、パッとステージを駆け下りて、被っていたハットを前線のファンにプレゼントしてしまった。

別段、大掛かりなステージ・セットや演出が組まれたステージではないけれども、パフォーマンスを進めるほどにちょっとした気配りが積み重ねられ、幸福なコミュニケーションが色濃いものとなってゆく。本当に些細な一言や振る舞いだったりするのだが、今をときめくトップ・スターの絶大な信頼感とはこういうものか、と痛感させられるショウになった。照明の仕込まれたパーカッションをダンサー陣と揃ってワイルドに打ち鳴らす“Holy Ground”を披露すると、「コンバンハ、トーキョー! レッド・ツアーへようこそ!」と挨拶。日本のファンとの再会を喜びつつ、「今日は2万人でソールド・アウトなんだって。日本で『レッド』はダブル・プラチナムのセールスになったそうだし、本当にありがとう! あなたたちにピッタリな、情熱的で、激しいエモーションを表す色の歌よ」とギターを携え“Red”に向かってゆく。すっかりスターの華を受け止めさせるようになったステップやポージングも良いけれど、やはりテイラーはギターがよく似合う。
テイラー・スウィフト @ さいたまスーパーアリーナ
短いドラマ・ムーヴィーが映し出されているうちに真紅のドレスへと衣装をスイッチし、報道陣に取り囲まれる、といったテーマのユニークなダンス・パフォーマンスを絡めた“The Lucky One”。そんなふうに板についたスター性を振り撒いたかと思えば、「昨日、空港に着いたら何百人ものファンが待っていてくれて、本当にびっくりしたわ」「12歳の頃、放課後すぐに帰って、部屋に閉じ籠ってギターを弾いていたの。あれから12 年が経って、今でも同じように部屋でギターを弾いているのよ」と親身な話題を投げ掛け、いじめをテーマに生み出された“Mean”を歌い始める。バンジョーの弾き語りが、バンド・アレンジへとダイナミックに移行する名演であった。そして、赤ちゃんの頃からのテイラーの成長をビデオで見届ける(8歳でギターをプレゼントされ、10代でいっぱしのシンガー・ソングライターへと成長してゆく姿が感慨深い)と、“22”でダンサーを引き連れ、アリーナ後方のサブ・ステージへと通路を進んでゆくのだった。

サブ・ステージでは、“Mine”や“You Belong With Me”といった往年のシングル曲を、アコギのソロ弾きでパフォーマンスしてゆく。これまでのキャリアで培われた経験や苦労が、すべて今このときのコミュニケーションのためにエネルギーとなって注ぎ込まれるような、極めて真摯な歌と言葉たち。割れんばかりの嬌声を真っすぐに受け止めては投げ返す、そんなテイラーの息遣いさえ伝わるような一幕であった。そして“Sparks Fly”を歌いながら通路を戻り、あちらこちらから差し伸べられるファンの手とタッチを繰り返しながら、メイン・ステージへと帰って来る。ホワイト×ゴールドの豪奢なドレスで、一体どちらのプリンセスですかという姿になったかと思えば、熱いダブステップ・マスカレイドと化す“I Knew You Were Trouble”へ。ダンサー陣に囲まれた一瞬のうちに、露出多めなセクシー衣装へと変貌する演出も見事に決まった。

タフにしなやかに時代と人生を乗りこなしてゆく、カントリー・シンガー出身のテイラー。それを音楽的に表現したアルバムが『レッド』であり、今回のステージには《いつか見返してやる》と部屋に閉じ篭ってギターを弾いていた少女の姿も、《ただラッキーなだけなんだ》という成功後の謙虚な現実も、交錯していた。そこに静謐なピアノの弾き語りで、過去のものとなった恋の情景をつぶさに描き出しながら現在地を浮かび上がらせる“All Too Well”。彼女はこれからも、こんなふうにその時折の苦悩を歌にしながら、自身の生きる道を切り開いてゆくのだろう。辿り着いた本編クライマックスは、あたかもロミオとジュリエットの物語になぞらえるような、男性ダンサーとのステージングで“Love Story”だ。更にアンコールでは、まるでサーカスの一座と化した(テイラーはマジシャンのような風貌)華々しいパフォーマンスで、《もうヨリは戻さないわよ!》と意志の形を叩き付ける“We Are Never Ever Getting Back Together”を披露する。異性もさることながら、相変わらず多くの同性から尋常ではない嬌声を浴び続けるテイラー。その支持と共感の根拠を再確認する、どこを切っても心のこもった王道ショウであった。(小池宏和)
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする