エレファントカシマシ@日比谷野外音楽堂

エレファントカシマシ@日比谷野外音楽堂
ライヴ活動休止明けの昨年の復活の野音から1年、それからさいたまスーパーアリーナでの単独公演があり、直近では9月からのツアーをまわってきた(10月13日のZepp Namba公演は台風19号の影響で30日に延期に)タイミングでの25年連続となる野音公演。どの要素に鑑みても、今のエレファントカシマシのトップフォームが観られるはずだと期待して臨んだのだが、実に2部構成3時間33曲という特大のボリュームをもってその期待を満たして余りある名演だらけの一夜となった。

この日の野音は、適度に涼しく乾いた空気が快適なグッド・コンディション。そんな中、定刻17時30分丁度に客電が消え、メンバーが登場する。初めに鳴らされたのは、“おはよう こんにちは”だ。いきなり重く荒々しいグルーヴがとぐろを巻いていく。ステージ前方を動き回りながら観客をアジり倒していく宮本浩次の迫力も抜群。その勢いをそのままに、2曲目“悲しみの果て”に。ここで、サポート・ギターのヒラマミキオを含めた5人の演奏の異様なソリッドさに気付かされる。その主たる要因は、高緑成治と冨永義之によるリズム隊だ。それぞれのプレイヤーとしての強烈な「味」はそのままに、いつになく堅いリズム・キープによってバンド・アンサンブルをさらに1段階高いレベルに引っ張っている。次の“浮世の姿”でも同様。元から前へ前へと猛進する曲だが、リズムが走るタイミングさえコントロールし切ることで余計に凄まじいエネルギーが発されていく。
エレファントカシマシ@日比谷野外音楽堂
宮本が「良かった、晴れて。みんなようこそ、日比谷の野音に」と静かに眼前の観客に語りかけてから始まった“ひまつぶし人生”では、宮本の弾き語りからバンドが加わりじわじわと演奏の熱を上げていき、後半はほとんど爆発しっぱなしのような状態に。しかし、今日のエレカシはまだ加速を止めない。『エレファントカシマシ5』の収録順を再現するように続けられた“お前の夢を見た(ふられた男)”では、ぐっと抑えたテンポの上で、宮本、石森敏行、ヒラマの3本のギターがバリバリと絡んでいき、さながら猛る雷雲のような音像を現出させる。ギターが盛り上がるにつれ、タイトなリズム隊2人に度々もっと来いとサインを送る宮本も「らしくて」良い。そして、上着を脱いだ宮本の「サンキューエヴリバディ。今日はようこそ。今日しかできない最高の曲を用意してきたんで、楽しんだり考えたりしながら盛り上がってくれ!」というMCに続いて、ついに最初の絶頂が訪れる。曲は、“化ケモノ青年”。リズムの前後を自由に行き来する宮本のヴォーカルを飲み込みながら音圧の高低を完璧に操っていくバンド演奏。それに負けじといちいち格好良いアドリブをかましまくる宮本。エレファントカシマシという、世界中のどこにも類たものがないロックンロールの最高潮の姿が提示されていく。その余りの壮絶さに、観客席から振り上げられる拳さえ、演奏の引力に吸い寄せられているかのように思えた。

エレファントカシマシ@日比谷野外音楽堂
絶頂キープのハイ・エナジー・ロックンロール“星の砂”を経て、「今日は空が見えるので、そういう曲をみんなに聴いてもらおうと思って」というMCから“太陽ギラギラ”へ。ほぼ叫ばず、丁寧に歌い上げるだけで、宮本のフロントマンではなくいちシンガーとしての超越的な実力がまざまざと発揮される。そして「今日は野音だから、もう1曲、大好きな曲聴いてください」と紹介された、サビの全てを塗り潰すような絶叫が圧巻な“見果てぬ夢”。バンドにキーボード蔦谷好位置が加わり、メンバーのソロ回しが披露された“珍奇男”を挟んで、野音ならではの貴重な選曲がまだまだ続けられていく。“きみの面影だけ”~“真夏の星空は少しブルー”~“月の夜”~“東京の空”。今日を特別な1日にしようという思いが強く映されていることが伝わる楽曲群であるだけでなく、一貫性をもったテーマやムードの曲が並べられているため、一層染みわたるものがある。このようにライヴ中盤にじっくりと聴かせたい曲を連ねることができるのも、この場所に集まった観客がそれを間違いなく受け止めてくれるという信頼ゆえ、だろう。25年連続で野音でライヴをやるというのはもちろん凄まじいことだが、ひとつのロック・バンドに25年連続で野音でライヴをやらせるファンもまた、半端ではないのだ。

ライヴも後半に入り、“It's my life”~“Tonight”と一気に陽性なヴァイヴのロックンロールで流れを変えると、“starting over”~“笑顔の未来へ”~“俺たちの明日”と現在の何度目かの黄金期の始まりを告げた『STARTING OVER』からの3連打が放たれる。どの曲も本当に晴れやかに鳴らされていて、それを受けた観客の笑顔も印象的だった。そして、スタジアム・ロックとしてのスケールを改めて示した“ズレてる方がいい”、ストレートなハード・ロックンロールで圧倒し切った“明日を行け”、3000人強の観客を丸ごと、優しく包み込むように温かく歌い上げられた“Destiny”でライヴの1部は締めくくられた。こうして書き連ねて振り返ると、後半演奏されたどの曲も幕開けの“おはよう こんにちは”を書いたのと同じ男による曲とは思えない振れ幅、振り切れ方だ。だが、この奇跡のような振れ幅を成し得てきたからこそ、エレファントカシマシは偉大であり、また、化物なのである。

エレファントカシマシ@日比谷野外音楽堂
シャツを白から黒へと着替えた宮本を先頭にメンバーが再登場し、“友達がいるのさ”でライヴの2部が始められる。いわゆる通常のアンコール1曲目のような、つまりあと1、2曲でライヴを終えるのだろうというような全身全霊ぶり。しかし、ここまでで既に2時間以上のライヴをやってきたエレカシは、ここからさらに10曲を畳みかける。中でも特にとんでもなかったのは、“ガストロンジャー”だ。ここまで、強い思い入れがあるものも含めて滅多に聴けないレア曲を散々聴けたにもかかわらず、今日のハイライトは問答無用でこの曲だった。何か特別なアレンジが施されているわけでもないのに、ただただ6人が完璧な呼吸でそれぞれの演奏を行うことで、ただそれだけで、この場所で新たな天地が創造されてしまうのではないかと錯覚するような、まるで常軌を逸したグルーヴが叩き出される。これまで何度となく観てきた曲だが、群を抜いて今日の“ガストロンジャー”は凄かった。25年やっていて、まだこのようなことが起きるのである。その驚きは、2部最後の“ファイティングマン”でも、2部構成32曲を終えさらにアンコールに応じて演奏された“男は行く”でも感じられた。まるで今ライヴが始まったような、いや今キャリアを始めたかのような、瑞々しい演奏だったのだ。初期衝動が迸っていたのである。何故このようなことが起きるのか。エレファントカシマシだから、と言う他ない。前例などないのだから、当然である。そして、これからもまだまだ新しい「エレファントカシマシだから」起こせる魔法が見られる。そんな予感が、いや、予感より確かな感覚が、この記念すべき夜が終わってしまう悲しみを、喜びに変えてくれた。(長瀬昇)

■セットリスト
(1部)
01.おはよう こんにちは
02.悲しみの果て
03.浮世の姿
04.ひまつぶし人生
05.お前の夢を見た(ふられた男)
06.化ケモノ青年
07.星の砂
08.太陽ギラギラ
09.見果てぬ夢
10.珍奇男
11.きみの面影だけ
12.真夏の星空は少しブルー
13.月の夜
14.東京の空
15.It's my life
16.Tonight
17.starting over
18.笑顔の未来へ
19.俺たちの明日
20.ズレてる方がいい
21.明日を行け
22.Destiny

(2部)
23.友達がいるのさ
24.I am happy
25.ガストロンジャー
26.世界伝統のマスター馬鹿
27.ハナウタ~遠い昔からの物語~
28.今宵の月のように
29.月夜の散歩
30.朝
31.悪魔メフィスト
32.ファイティングマン

(encore)
33.男は行く
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