エレファントカシマシ@日本武道館

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エレファントカシマシ、前回の武道館公演から数えて4年ぶり、2デイズ公演としては実に15年ぶりとなったこの新春武道館。ひと言で言うなら、意外な選曲、ヒット曲含め、「新春名曲祭りin武道館」とでも呼ぶべき、最高のロックショウだった。ここではその初日、つまり、エレカシにとって2015年、文字通り初めてのライヴとなった1月3日のライヴをレポートする。 

18時5分。SEが止み、メンバー4人――宮本浩次(Vo・G)/石森敏行(G)/高緑成治(B)/冨永義之(Dr)と蔦谷好位置、ヒラマミキオのサポートメンバーを加えた6人がステージに上がる。ステージは暗い。細く絞られたスポットライトが何本か当てられているだけだ。だが、6人の堂々とした足取りが怒号のような歓声を呼ぶ。

「宮本!」「ミヤジー!」--まさに老若男女の声がステージに投げられる。
宮本は「イエー! サンキュー!」とひと言。そして、ギターを爪弾き歌い出す。2015年のエレファントカシマシはこの曲から始まった――“部屋”である。意外な選曲に武道館が静かに盛り上がる。宮本は黒ジャケットに黒パンツ。中のシャツは白。声に張りがある。とても調子がいい宮本だったと言っていいだろう。
 曲が終わり、「エブリバディ! ようこそ武道館へ!」と宮本。続いては“始まりはいつも”。宮本、石森、ヒラマのギターバッキングが重いビートを刻み、徐々に武道館の温度を高めていく。曲のスタート時、まだ静かなままだった照明が《そうさいつだって》のフレーズでパッと明るくなる。半端なく気持ちいい幕開け感である。やっぱり宮本の声に漲っているものを感じる。続く“ココロのままに”。ここでもライティングが美しかった。《ぼくらの夢は/はじまる》の箇所でライトが真っ赤に。カッコいい。ストイックで無骨でありながら、しかし最高にバンドのエモーションをわかったライティング。それはこの日3時間に及ぶライヴ中、常に思わされたことだった。

続いて、宮本の声カウントから“今はここが真ん中さ!”へ。ここで宮本、この日初のハンドマイク。髪をかき回し、石森の鼻をつまみ、ちょっかいを出し、サビ前に至るとおもむろにジャケットを脱ぎ、《今は武道館がド真ん中!》と歌う。パッと天井からの眩しいほどのライトがステージ上に降り注ぐ。うーむ、気持ちがいい。曲が終わり、「始まるぜ、エブリバディ!」と叫んで、両手を広げて両足を踏ん張るあのポーズでしばらく静止。いわく「あえて長めに。ロックっぽくドーンとお届けするぜ、エブリバディ!」。

そして、ブルーを基調とした照明に照らされ、“悲しみの果て”へ。何度聴いたかわからないこの名曲だが、年明け初の“悲しみの果て”となると響き方がちと違う。ぐっと集中した真剣な面持ちで聴いている人が多かったんじゃないだろうか。僕もちょっとしんみり聴いてました。「この世で一番偉いのはお金です。さあ、今年は稼ごうぜ!」という煽りから、ライトは金色へ。明るく、とてもいい空気の中で歌われるのは、そう、とびきりのアイロニーソング“デーデ”。6人は、さらに勢いづいてエネルギッシュな楽曲を投下していく。「今年はドーンと売ります。こないだ山の手線で、久しぶりに発見しました……」という歌詞にちょい強引に引っ掛けたMCから“パワー・イン・ザ・ワールド”。宮本の気合もさることながら、バンド全体のテンションが明らかに高い。名うてのサポートメンバーも含め、非常に力強いストロークを響かせる。宮本のバッキングと石森のフレージングを支えながら必要な音を安定感そのもののような存在感で刻んでいくヒラマミキオの阿吽の呼吸的プレイはもはや完全に熟練のコンビネーションと言っていいだろう。

エレファントカシマシ@日本武道館
宮本がギターを弾き語り、じっくりと聴かせた“おまえとふたりきり”、声カウントから裏打ちハイハットの小気味いいビートがじわじわとテンションを高めていく“精神暗黒街”、「古い曲を。今はもうないスタジオで録りました」と宮本が語り、再びの青ライトが神妙な空気を演出する中、ギターをかけたままハンドマイクでステージを練り歩く“季節はずれの男”。このあたりが特に濃厚にディープに楽しませる「歌」と「歌心」のゴールデンタイムだったように思う。ファンなら当然知っている、だが長年のファンでなくともここで歌われる哀愁と力強い歌心に酔えばいいという、まさにエレファントカシマシと宮本浩次の真骨頂。彼らが愛され続ける理由とその無二の魅力をこのあたりの楽曲連打に見る思いでいっぱいだった。続いて、蔦谷好位置が奏でるブルージーなスタッカートに乗って、「まさに真冬って感じだな。寒いよな。あったかくしてきたかい? でもなんか心があったかくなってきたな、エブリバディ。歌でもどうだい?」と宮本。“真冬のロマンチック”だ。天井からのスポットライトが宮本に集まる。光の道が美しい。しかし、スポットライトに照らされる姿がこんなに似合う男が他にいるのだろうか。ただカッコいい、というより、なんというか、チャーム100倍増しという感じで、宮本独特の艶が増幅されるのである。曲が終わり、宮本は「この曲意作ったのは26、7のときですよ。でもいい曲作っといてよかった。みんなに聴いてもらえて」と語る。

続いて、「本日はさらに美しいゲストをご用意しております」とヴァイオリン・金原千恵子と、宮本いわく「ベースヴァイオリン」=チェロ・笠原あやのが紹介される。そして、「ファンの人にはおなじみです。じゃあちょっと――」とLED ZEPPELIN“Communication Breakdown”のリフを弾き、「違いますね」と宮本が笑う。そんなやり取りを経て始まったのは“彼女は買い物の帰り道”。ステージ上、8人の音が怒涛のようなエモーションを呼び起こし、流麗なメロディがドラマを生み出していく。まさにライヴ仕様、というこの仕上がり。さらにストリングス隊も加わっての“昔の侍”もまた、サビ前の飛翔感が半端じゃなく、宮本のいっぱいいっぱいのゾーンを切なくえぐる高音が迫ってくる。本当に素晴らしい楽曲、素晴らしいパフォーマンスだった。「宮本ー!」という野太い叫びがステージに投げかけられる。

抑制と激情を行き来するメリハリの利いた歌回しが素晴らしかった“シグナル”を経て、ライヴは一気にクライマックスへ向かっていく。オレンジ色のライティングが夕暮れを思わせる“赤き空よ!”ではハンドマイクでステージを動き回り、ベース高緑にしながれかかり、ステージ真ん中でプレイさせる。そして、再びジャケットを纏った宮本は語りだす。「俺はまだまだ輝きたいんだよ。ヒット曲を聴いてくれ。今年も来年も明日も十年後もいくぜ、エブリバディ! そういう曲です」――そして、かき鳴らされるアコギのストローク。そう、“今宵の月のように”。宮本はあまりに素晴らしいあの頭のフレーズを歌い、アコギを背中に回したままステージを練り歩き、オーディエンスひとりひとりに向かって歌声を飛ばしていく。頭にマイクを打ちつけながら手拍子を煽る姿が愛しい“笑顔の未来へ”、客電が照らされあけっぴろげになった武道館に《仮初の夢でもないよりはましさ/どうせ流す涙ならお前と流したい》というパンチラインが響いた“ズレてる方がいい”、そして、第1部の最後の楽曲は“俺たちの明日”。観客と一緒に手拍子をするもののマイクをモロに叩いてしまうがゆえ、思い切り「ボコ、ボコ」という音が武道館に巨大に鳴り響くのもまた、なんか実に宮本でとてもいい。ラストは「エブリバディ、やってやろうぜ!」の叫びからの大の字ジャンプでフィニッシュ。大喝采に見送られて、6人は足早に舞台袖へ下がっていく。

一旦の小休止だが、拍手は鳴り止まない。第2部の始まりを求める拍手は数分間続き、やがてやはりちょっと足早に6人がステージに戻ってくる。宮本は黒シャツに着替えている。「聴いてください」という呟きから始まったのは“大地のシンフォニー”だった。当時45歳の宮本が歌った「日々を歩き続けるひとりひとりに捧げられたバラード」。だからだろうか、照明も暗く抑えられていて、僕はその演出はつまり、「このメロディを一緒に歌うすべての人が主役なんだ」というメッセージなんだろうなと感じた。実際どうだったのかはわからないが、武道館に響くあのおおらかなメロディはあまりに優しく鼓舞的で、どこまでも感動的だった。涙が出るようなセンチメンタルな気分ではなくもっとずっと温かな、そっと肩を抱いてともに歩むような歌。第2部はそんな「一対一」の空気で始まった。

エレファントカシマシ@日本武道館
続いて、「俺たちの一番新しいシングル――といっても半年前ですが――、“Destiny”、聴いてください」と宮本。普段よりだいぶ速いテンポであるように聞こえた“Destiny”だったが、宮本に関して言うなら、ひとつひとつのメロディをきっちりと適切な場所に「置いていく」ような誠実な歌いまわしが印象的だった。高音がきつい曲だ。だが、だからこそ、ひとつひとつの音の前に力を溜めて全力でジャンプするようにメロディを置いていく。とても宮本らしい楽曲が、宮本らしい歌として歌われていくことのエモーションはちょっとヤバい。と思っていると、続いて“桜の花、舞い上がる道を”なのだからはっきりと困る。それくらいに胸に来る。ストリングスが坂道を駆け上がるようにメロディと併走していく。《舞い上がる道を》の拳がまた効きまくっている。そして、「いい顔してるぜ、エブリバディ。見えないけど。波動で伝わるんだよ」と笑わせる宮本。えらいクライマックス感。この時点で第2部がどれくらい続くのかわからなかったわけで、武道館のテンションはこの日のマックス状態だった。が、ここからおもむろな声カウントに続いて披露されたのは新曲(×2)。“(仮)なからん”はこれまでも演奏されてきているが、メロディをシャウトし、シャウトにメロディを授ける男、宮本の真骨頂的ミドルチューン。“(仮)雨の日も”はストリングスが塊のような音像を織り成すヘヴィチューンだった。

再び客席が明るく照らされた中で歌われた“新しい季節へキミと”、そしてその大団円的な空気を切り裂くように“FLYER”のリフが轟き、いよいよライヴは最終コーナーに突入していく。最近のエレカシのライヴには特に、「励まし」「鼓舞」「背中を叩く」「戦いの同志」――そんな温度が滲んでいる。この日もざっくりと言ってしまうなら、「強さ」や「熱さ」や「戦うこと」自体の意味以上に、強く、熱く戦うことを支持し、鼓舞する「優しさ」が通奏低音として流れていたように思う。それはいかにヘヴィな楽曲でもそうで、だからこそ、ここで叫ばれた“ガストロンジャー”はやはりとても熱く、とても優しく心に刻まれたように感じる。このころになると、すっかり「今年もやるしかねえ」という気分になっている自分がいるから凄い。一本のスポットライトを浴び、歌う姿があれだけ勇気を与えるシンガーは宮本浩次をおいてほかにいないのではないだろうか。

ラストは“ファイティングマン”。曲を終えようとする石森の手を手で止め、あらためて自分のタイミングでエンディングの「ジャーン」を作る宮本。最後の叫びは、「その調子でいけー!」だった。再び舞台は暗転。いよいよアンコールを求める大拍手が武道館にこだまする。

ステージに上がる6人。何も言わずに始まるギターバッキング。“so many people”で武道館に無数の拳が突き上げられる。《あらゆるこの世の悲しみを一緒にのりこえよう》という宮本の叫びに応えるオーディンス。やはりこの日のライヴには「たくさんの人々」に今、この時代の年明けに何を伝えるのか/伝えるべきなのか、というテーマがあったように感じる。そういう流れだったように感じる。
「じゃ、優しい歌を。“ハナウタ”でもやりましょうかね」と宮本。ひとりひとりメンバー紹介をし、その言葉の通り“ハナウタ~遠い昔からの物語~”のメロディを歌い出す。ストリングスが宮本の伸びやかな声に寄り添う。フェイクの最後の最後まで渾身の歌声と思いを丁寧に丁寧に放ち続ける宮本。「エブリバディ! 素敵な時間をありがとう! いこうぜ! サンキュー、武道館!」――。これで終わると思いきや、鳴り止まない拍手に応えて、ダブルアンコールで歌われたのは“花男”。メンバーそれぞれの楽器の準備が整う前に発されたこの日最後の声カウント。そして、ざっくばらんとした歌とギターバッキングがあふれ出す。アウトロなし。潔いエンディング。

「サンキュー、エブリバディ!」と叫び、宮本はステージを下りていった。
 しかし、なんと素晴らしい年明け、なんとこのタイミングで観ることに意味のあるライヴなんだろう。2015年のロック始めとしてのエレファントカシマシ「新春名曲祭りin武道館」。決して明るい年明けでも、希望に満ち溢れた世の中でもないかもしれないが、それでも「いっちょ勝負してみっか」という勇気を与えてくれる、凄まじくパワフルなライヴだった。「今年もがんばろうぜ」と、九段下の坂を下りながら、満月に近い月を見上げながら思った帰り道、でございました。(小栁大輔)

■セットリスト
<第1部>
01.部屋
02.始まりはいつも
03.ココロのままに
04.今はここが真ん中さ!
05.悲しみの果て
06.デーデ
07.パワー・イン・ザ・ワールド
08.おまえとふたりきり
09.精神暗黒街
10.季節はずれの男
11.真冬のロマンチック
12.彼女は買い物の帰り道
13.昔の侍
14.もしも願いが叶うなら
15.シグナル
16.あなたへ
17.赤き空よ!
18.今宵の月のように
19.笑顔の未来へ
20.ズレてる方がいい
21.俺たちの明日

<第2部>
22.大地のシンフォニー
23.Destiny
24.桜の花、舞い上がる道を
25.(仮)なからん(新曲)
26.(仮)雨の日も(新曲)
27.明日を行け
28.新しい季節へキミと
29.FLYER
30.ガストロンジャー
31.ファイティングマン

(encore)
32.so many people
33.ハナウタ~遠い昔からの物語~

(encore 2)
34.花男
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