ロイヤル・ブラッド @ LIQUIDROOM ebisu

すでに本国ではフェスなどで大観衆を相手に堂々たるパフォーマンスを見せる大型アクトに成長しているロイヤル・ブラッド。たった1夜限りの初来日公演は当然のようにソールド・アウトで、会場となったリキッドルームにはオーディエンスがぎっしり、開演前から大変な熱気に包まれた。

客電が落ち、ゴジラのサントラをサンプリングしたファロア・モンチの"Simon Says"を出囃子に、マイク・カーと、日の丸ハチマキをしめたベン・サッチャーが登場し、"Come On Over"でライヴはスタート。フロアは混沌としそうなので後方から見ることにしたのだが、いきなりハコ全体にズドーンと押し広がる音圧を体感して、それがたった2人だけで叩き出されている事実にあらためて衝撃を受ける。曲の途中「コンニチハ、トキオー。ウィアー・ロイヤル・ブラッド」とぶっきらぼうな挨拶を差し挟むと、バンドは間髪を入れずグイグイと攻め上げるようなノリの"You Can Be So Cruel"、続けてそのまま3曲目"Figure It Out"へとブッ飛ばしていく。ほんの一言「カモン・トキオー!」と控えめな煽りはあったものの、基本的にダラダラ喋ってレストをとったりしない、ストイックなステージングをする人たちのようだ。

唯一デビュー・アルバムに入っていない"You Want Me"(※日本盤にはボーナス・トラックとして収録)、さらに"Better Strangers"と5曲をほとんど一気にやりきったところで、ようやく「みんな楽しんでるかい? 今日は見に来てくれてどうもありがとう」などの簡単なMCが入る。冒頭からここまで約20分、観客はとっくに、息もつかせぬ濃密な空間へ引きずり込まれていた。その次には"Little Monster"、"Blood Hands"と、アルバム中ではある種の聴かせどころとなっている印象のナンバーが披露されるが、凄まじい音圧は変わらず、休憩タイム的な空気には一切ならない。

やがて、興奮して堪え切れなくなった観客のうち数人が曲間でメンバーに向かって声をかけはじめると、マイクがあくまでクールに「コンニチワ」と返しながら、思いついたように「日本語でチアーズしたいんだけど」と「カンパイ」したのが、この日ほんわかした空気が流れた唯一の場面だった。あとは後半になって、ベンがドラム・スツールの上に立ち上がったり、ステージ最前まで出て行って、最前のオーディエンスの中に何をするでもなく立ち尽くすというサービス(?)があったくらいだ。

"Careless"を演った後、初めてマイクが少し違ったトーンの音色、あえて言えばジェフ・バックリー風のギター・サウンドを鳴らしたが、それも怒濤の"Ten Tonne Skeleton"(コミカルな響きの韻を踏んでいるが、要するに「10トンの骸骨」だ)のイントロダクションにすぎない。

そして"Loose Change"と、アルバムでは冒頭を飾っている"Out Of The Black"。前者のヴァース部分におけるリズムや、後者の出だしのインパクトを決定づけるドラムの連打は、生演奏の方が遥かにグルーヴィであることがわかる。そして"Out Of The Black"の中盤にグッとためるブレイクを置いてから、もうこれ以上はないという次元のピークに到達した、まさに爆発的なエンディングを迎えると、そのままアンコールなしで公演は終了した。ファースト・アルバムからの全10曲に"You Want Me"を加えた11曲、実質的な演奏時間は60分にも満たなかったが、その徹底した潔さが爽快感に直結したのは、当然そこまでに十分なヴォリュームの熱量とテンションを受け取ったからだろう。

適当な長丁場に「このあたりは少し緩めにして、後半はヒット曲を固めて、アンコールでは……」みたいな起伏をつけたエンターテイニングなロック・ショウではなく、凝縮された短時間内で全てを叩き付けるように生命力を燃焼し尽くすライヴ。ああ自分の求めているロックはこちら側だ!と信じさせるエネルギーが、ロイヤル・ブラッドの演奏には確かにある。

それにしても、ベース・ギターで一体どうやって、あんな音を出しているのか、遠目には、やはりよくわからないままだった。ちなみに専門外ながら、せめて足元のエフェクターだけでもチェックしてやろうと終演後にステージ前方まで駆けつけてみたら、ペダルにはサッと白い布がかけられている。どうやら開演直前も同様の措置がとられていたらしい。そう簡単に秘密は教えないぞ、ということのようだ。

ただ、かなりの実験性の上に成り立っている楽曲が、前衛的な領域にとどまるどころか、しっかりとした「ソング」になっていることこそが最重要だし、それが近年のUKバンドには珍しいほどの演奏テクニックによって可能となっているのも間違いない。特にベン・サッチャーは予想以上に優れたプレイヤーで、かつてキース・ムーンやジョン・ボーナムらを生んだ英国では、パンク以降これというロック・ドラマーがなかなか出てこなかったが、この人は久々の逸材だと確信する。またマイク・カーの方も、ベースのボディを使ったギター・プレイ(ちょっと変な言葉使いだが、そう書くしかない)の独創性については言うまでもないが、ヴォーカリストとしても立派なもので、個人的にはジム・モリソンに通じるものを感じた。

これまでにデュオ編成の面白いバンドがなかったわけではない。ライトニング・ボルト、デス・フロム・アバヴ1979、ザ・ブラック・キーズ、そしてもちろんザ・ホワイト・ストライプスなどなど。だがロイヤル・ブラッドは、そうした先達とは少し違う性質を感じさせる。他のバンドは、あえて選択肢に制限をかけることで逆に創造性を活性化させる引き算の方法論というか、基本的に(ブルーズをベースにしつつも)パンクな発想でデュオ体制をとっているように思えるのに対し、この人たちはもっと自然に、やりたい音の完成型をそのまま2人で鳴らしてしまっているという感じだ。もちろん、同期やループなどのテクノロジーにまったく頼らずに本物の演奏と歌で勝負していることが、何より生々しい音楽の具現化を引き起こしている。

とうてい「王族の血」など流れている感じのしないルックスをした2人だが、ブライトンなんていう町から、まさしく突然変異的に、こんなにも刺激的なバンドが出現してくるのだから、まだまだロックは―――音楽は、面白い。(鈴木喜之)
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