「今年もこうして、9月8日を迎えることが出来ました!」と、ふくよかでロマンチックなイントロに合わせて姿を見せ、満面の笑みと共に告げるKREVA。前夜祭から一夜明け、晴れて迎えたメジャーデビュー11周年の「クレバの日」である。この日は、47都道府県ツアー「UNDER THE MOON」の後半戦で行われてきたバンドセットのメンバーがステージを支える。バンマス岡雄三(Ba)、柿崎洋一郎(Key)、渡辺剛(Key)、白根佳尚(Dr)、そして熊井吾郎(DJ・MPC)。ツアー中、柿崎と渡辺は交代で参加していたが、この日はツインキーボード編成でゴージャスな音像を描き出していた。あらゆる音色と歌声が、果てのない繋がりを伝えてしまう一夜を、駆け足でレポートしたい。
まず、KREVAの呼び込みで姿を見せたのはAKLO。バンドセットの一夜とはいえ、ここは1MC+1DJのストロングスタイルでクールなラップの時間が始まる。不穏なベースミュージック/トラップをグイグイと乗りこなす“New Days Move”のAKLOは武道館相手にも自身に満ち、“RGTO”では客席からバッチリ「ビバメヒコ!」の声が上がっていた。本来は鋼田テフロンによるフックで、代役を務めるべく飛び出してきたのはKREVA。そのまま“Catch Me If You Can feat. KREVA”へと傾れ込む。スリリングなコラボに満足して立ち去ろうとするKREVAの足を掴み、AKLOは「クレさん、ちょっと待ってくださいよ」と2013年の908フェスで見せた“YOUR LANE”の共演再現を願い出るのだが、KREVAは「だが断る! 大丈夫、代わり用意してあるから」と告げる。ここでリフトに乗って登場したのは三浦大知だ。AKLO×三浦大知というコラボで、スペシャルな“YOUR LANE”が披露されるのだった。
ここでステージのバトンは三浦大知へと受け渡され、バンドセットに4人の男性ダンサーも加えて華やかなショウが始まる。つまりサウンドも視界もすこぶるゴージャスなのだが、それ以上に、こんな歌とこんなダンスが両立するものなのかという、大知のパフォーマーとしての力量に圧倒される。“GO FOR IT”では、まるで音の中で彼の五体が強く発光しているような錯覚を味わった。ダンサー陣が不在でも一人で視線を釘付けにし、2コーラス目から大知とお揃いの衣装でKREVAが参加するのは“Magic Remix feat. KREVA”。大阪の908フェスでも披露された“EGAO”カヴァーは、これが三浦大知の“EGAO”だという、歌唱力全開の逸品であった。
もの凄い勢いで、ステージをジャックするかのように走り込んできたのはKICK THE CAN CREW。その登場時の数秒がすべてを集約していたのだが、あえてこの中盤の盛り上げを3人が買って出る、という印象だ。いきなりの“マルシェ”に“地球ブルース~337~”という短期決戦型のパーティチューン連打で、KREVA曰く「広島アクターズスクール時代からやってる挨拶」を済ませると、 “GOOD TIME!”へ。前日のDJ+DRUMSセットもすこぶるファンキーだったが、この日はバンドセットである上に悪ノリ感が加味されたキックがヤバい。「いやー良かった……」「PSやろう」と立ち去るKREVAとMCUを、LITTLEが「《まだ何も終わっちゃいないぜ》!!」のフレーズで引き止め、ということはもちろん“イツナロウバ”。KREVAは自分のヴァースの歌い出しをちょっと飛ばしてしまったけれど、キックのセンチメントをしっかり残していった。
台座に乗せられたキーボードごと運ばれ、鍵盤を奏でながら「908フェス、2年ぶり3回目でーす!!」と叫んで登場したのは、さかいゆうである。ブリージンな“サマーアゲイン”からして歌声の節回しは力強く、ずっしりとした手応えがある。MVがスクリーンに映し出される“薔薇とローズ”のソウルスタンダードな響きも最高だ。「毎度思うことですが、クレさんのファンはアツいね」とオーディエンスに言葉を掛け、雑誌に乗っていたKREVAの顔にインスパイアされたという楽曲“オトコFACE feat. KREVA”では、“くればいいのに”のコーラスを弾き語りしつつKREVAを呼び込んで共演。最後にはKREVAのリクエストに応える形で、インディーズ時代からのレパートリーである“無言の月”を披露するのだった。
才気迸るラップと歌声、そして演奏のめくるめく共演の果て、いよいよKREVAが主役のステージだ。“OH YEAH!”で盛大なコール&レスポンスを巻き起こし、武道館全域の一斉ジャンプでこの曲を締め括ったのだが、「長かったあ〜。ツアーも頑張ったし、昨日もあったし。だから! 今日は人の手を借りたいと思います。いいじゃん、祭りなんだし。みんなの神輿に乗りまくりたいと思います」と語るKREVA。「そんなときにピッタリな曲がある!」と披露されるのは、“ひとりじゃないのよ feat. SONOMI”である。エレガントで上質なバンドサウンドに、2人のヴォーカルが映える。「言ってなかったけど、お誕生日おめでとうございます!」と、丁度この日に誕生日を迎えたSONOMIを祝福し、これまでに最も多くの楽曲を共作しているアーティストであることも、伝えられていた。
作詞・作曲術に依るところもあるだろうけれど、SONOMIは歌の「意味」をしっかりと届け、聴き取らせてくれる貴重なシンガーだ。“たられば feat. SONOMI”に触れながら、そんなことを思う。彼女を見送ると、「他人の力を借りるって言っても、あくまで俺の曲ですよ……あくま?」と、最近マイブームであるらしい悪魔(デーモン閣下だろうか)の声マネ&顔マネを始めるKREVA。「お前のケータイに入り込んで、一所懸命に集めたおいしい店のデータを、全部消してやろうか!」とユーモラスに呼び掛けつつ、ド迫力の爆音による“基準”、そして“挑め”を繰り出す。いや、“挑め”の2コーラス目からは、2人が飛び入りしてオリジナルのヴァースを繋ぐ“挑め Remix feat. MCU & LITTLE”だ。
《志持ったお友達超えた存在よ/調子はどうだ?》とラップしながら客席をぐるりと指差す“成功”の最後に、この曲のアレンジヴァージョンを手掛けたさかいゆうも参加し、そのまま“生まれてきてありがとう feat. さかいゆう”をデュエットする。ここに三浦大知も加わり、3者の豪華コラボが完成してしまった。さかいゆうは「なんだよなんだよー! 人の曲を! 俺より上手くー!」と愚痴を零して笑いを誘い、お返しとばかりに三浦大知の“Your Love feat. KREVA”を歌い出してしまうのだが、結果的にはめでたくこの曲も3者の共演となった。それにしても、この2人と歌モノで渡り合うKREVAも相当なものだ。さかい&三浦が握手し、肩を組んでステージを後にすると、KREVAは「出演した誰よりも共演したいのは、今日ここに来たあなたですからーっ!!」と告げて、“Na Na Na”の大合唱を巻き起こす。そして本編は、また新たなスタート地点に立つように“音色”を披露し、手放しの音楽愛を注ぎ込むのだった。
オーディエンスの「いけるなら絶対いっとけ!」コールが上がり、アンコールに応えると、AKLOがヴァースを加えた“全速力 REMIX”が届けられる。バンドサウンドにKREVAと三浦大知のヴォーカルが駆け抜け、さかいゆうが鍵盤&コーラス、SONOMIもコーラスで加わり、最後にはLITTLEとMCUも飛び込んで《全速力》コールを迸らせるという、出演者総出のクライマックスだ。ダンサー含め総勢16名が横並びになって挨拶し、2015年の「クレバの日」は幕を閉じた。ただルールに則ったラップでもない、ありきたりの歌でもない、新しい「何か」。KREVAがソロキャリアで追い求めてきた、その「何か」を、仲間たちとの繋がりの中にも見出すという、強烈なエンターテインメント精神と実験精神に溢れた一夜であった。(小池宏和)
●セットリスト
・AKLO
01. The Arrival
02. New Days Move
03. RGTO
04. Catch Me If You Can feat. KREVA
05. YOUR LANE
・三浦大知
01. Right Now Remix
02. GO FOR IT
03. Magic Remix feat. KREVA
04. EGAO (Track : IT'S THE RIGHT TIME)
05. music
・KICK THE CAN CREW
01. マルシェ
02. 地球ブルース~337~
03. GOOD TIME!
04. イツナロウバ
・さかいゆう
01. サマーアゲイン
02. 薔薇とローズ
03. オトコFACE feat. KREVA
04. 無言の月
・KREVA
01. OH YEAH!
02. ひとりじゃないのよ feat. SONOMI
03. たられば feat. SONOMI
04. 基準
05. 挑め Remix feat. MCU & LITTLE
06. 成功
07. 生まれてきてありがとう feat. さかいゆう
08. Your Love feat. KREVA
09. Na Na Na
10. 音色
(encore)
11. 全速力 REMIX
「908 FESTIVAL 2015」@日本武道館
2015.09.08