アーティスト

    ジェフ・ベック @ Zepp Tokyo

    約1年半ぶりとなるジェフ・ベックの今回の来日は、9月27日に横浜赤レンガ野外特設ステージで開催される「Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN」への出演をメインとするもので、このフェス出演に加えて東京・大阪で各1公演ずつライヴ・ハウス公演が行われるという変則的なスケジュールだ。ツアーの初日となるZEPP TOKYO公演に行ってきた。

    昨年の来日がホール・ツアーだったのと比較しても今回のライヴ・ハウス・ショウはかなり貴重で、19時半開演と会社員に優しい時間設定もあってか場内はぎっちり超満員、ドリンク・カウンターにビールを求める長蛇の列が出来ていたのも金曜日夜のサラリーマンっぽい。そしてそんな年季の入ったファンの熱い期待に真正面から応えるパフォーマンスを見せてくれたのがジェフ・ベックその人だ。

    今回の来日メンバーはニコラス・メイヤー(G)、ロンダ・スミス(B)、ジョナサン・ジョセフ(Dr)の3人は昨年来日時と同じ面子で、今回はそこにゲスト・ヴォーカルとしてジミー・ホールが数曲に参加するという形態だ。オープニングの“Even Odds”、バンドのイントロの最中に下手にピンスポが灯され、ジェフが登場すると大歓声が巻き起こる。そして、その歓声のさらに遥か上をいくレヴェルで演奏の音がデカい。正しく言うとジェフのギターが突出して爆音で、普通のロック・バンドのサウンド・バランスと比較すると明らかに異質だ。ジェフ・ベックのギターは文字通りギターであり、同時にギター以上の何かでもあることを告げるオープニングなのだ。

    2曲目の“Hammerhead”でジェフはジャケットを脱ぎ、早くも白のタンクトップ一枚になる。ぴったりフィットした白タンクトップにサスペンダー、こんな格好が様になってしまう71歳って一体どういうこと!?って話なのだが、ジェフ・ベックにしろ、ストーンズのメンバーやポール・マッカートニーにしろ、この世代のロック・レジェンドはある一線を超えるともはや加齢が外見やオーラに作用しなくなるのが興味深い。引き締まった肉体で遠目からは30代に見えてしまう。バンドと向き合いスタジオでセッションするかのように転調させていく“You Know You Know”、リズム隊とスリリングな絡みを見せる“Stratus”と、前半はブルージーなジェフのギターを堪能できるセクションだ。

    “Morning Dew”、サム・クックのカヴァー“A Change Is Gonna Come”の2曲でこの日初めてジミー・ホールが登場する。彼が声量といいジェスチャー激しめのパフォーマンスといいちょっとやりすぎなくらい大仰で、いきなりオールドファッションなロックに感じてしまったのが少し残念だった。ベック・バンドの器楽的なモダニズムの中にあって、ヴォーカルだけ前時代的に浮き上がって聞こえるのだ。これは今回のジェフ・ベックだけではない、現役のクラシック・ロック・バンドのパフォーマンスでしばしば感じるギャップでもある(だからこそ全く古びないミック・ジャガーのヴォーカルはとんでもないという話なのだが)。ただ、ジミーも“Little Wing”あたりからは抑揚を効かせるようになってきて、最終的にはジェフのギターがオーガナイズするアンサンブルの一部として馴染んでいったのでその点は良かったと思う。

    今回はライヴ・ハウス・セットだったからか、ジャズ・フェスへの出演を控えているからか、随所でインプロっぽいノリ、バンドの化学反応に成り行きを任せていくようなフレキシブルな瞬間を多々感じたステージでもあった。ニコラスの哀愁のラテン・ギターを大フィーチャーした“Yemin”、ジミーのブルース・ハープが艶を添える“Lonnie on the Move”、エレクトロ・フュージョンとでも称するべき“Nadia”ではジェフの肩ならしのスライド・ギターに大きな歓声があがる。“Little Wing”以降はハード・ロックでブルーズなジェフ・ベック・サウンドの王道のアンセムが乱れ打ちされるアッパーなセクションで、“Superstition”のファンクネス、ギター・ゴッドの面目躍如な“Big Block”と、とにかくエレキ・ギターの快感に身を委ねたいというファンの第一欲求が叶えられまくる流れだ。

    一転、ビートルズのカヴァー“A Day In The Life”では、七変化するジェフのギター・プレイに目紛しく情景が変わる舞台を見ているかのような気分になる。ジェフ・バックリィのヴァージョンが有名で、ジェフも『エモーション・アンド・コモーション』でカヴァーした“Corpus Christi Carol”はまさに声なき聖歌で、ジェフのギターが「ギター以上の何か」である証左でもあった。ゆったりとチルアウトしていくアンコールの“Danny Boy”も出色のプレイだった。ラストは再びジミーを迎え、今年5月に亡くなったB.B.キングへ捧げられた“The Thrill Is Gone”。キャリア総覧的なセットリストの中に、ライヴ・ハウスらしいロウ・キー感と、ジェフ・ベックのシグネチャーなギター・サウンド、そしてギター一本で際限なく音世界を広げていく彼の今なお自由なクリエイティビティの全てが詰め込まれた一夜だったと思う。(粉川しの)


    1. Even Odds
    2. Hammerhead
    3. You Know You Know
    4. Stratus
    5. Morning Dew
    6. A Change Is Gonna Come
    7. Yemin
    8. Lonnie on the Move
    9. Nine
    10. Nadia
    11. Little Wing
    12. 'Cause We Ended as Lovers
    13. Superstition
    14. Big Block
    15. A Day in the Life
    16 Corpus Christi Carol
    17. Rollin' and Tumblin'
    18. Going Down

    En1. Danny Boy
    En2. The Thrill Is Gone
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