佐野元春@東京国際フォーラム ホールA

佐野元春@東京国際フォーラム ホールA - photo by アライテツヤ ©DaisyMusicphoto by アライテツヤ ©DaisyMusic
1980年3月21日に、シングル『アンジェリーナ』でデビューした佐野元春。昨年12月から全国12公演のスケジュールで繰り広げられてきた35周年のアニバーサリーツアーは、いよいよ東京国際フォーラム2デイズのクライマックス。この3月には60歳の誕生日を迎え、デビュー36周年に突入したことになる。そのファイナル公演の模様をレポートしたい。ソウルレヴュー風の煽りアナウンスが聞こえると、ステージの緞帳が開くと同時に、この上なく華やかなバンドサウンドで、アルバム『SOMEDAY』のオープニング曲“シュガータイム”が放たれた。瑞々しく、キュートと言ってもいいぐらいのメロディが一気に溢れ出す。

今回のバンドメンバーは、『COYOTE』、『ZOOEY』、『BLOOD MOON』の近作群を共に作り上げたザ・コヨーテ・バンドを核に、ザ・ハートランドやザ・ホーボー・キング・バンドといった歴代バンドの盟友たちも加わる編成。小松シゲル(Dr)、深沼元昭(G)、長田進(G)、高桑圭(B)、渡辺シュンスケ(Key)、Dr. kyOn(Key)、スパム(Percussion)、山本拓夫(Sax)、西村浩二(Trumpet)。総勢10名の大所帯バンド=THE COYOTE GRAND ROCKESTRAである。2曲目には、最新作『BLOOD MOON』収録の“優しい闇”が《あれから何もかもが変わってしまった》と、ノスタルジーに浸る間もなくリアリティを突きつけてくる。“ジュジュ”は、2011年のリメイク作『月と専制君主』に収録されたモータウンポップ風の軽快なアレンジ。この時点で、懐古的な意味よりも、数々の名曲が今を生きるために紡がれるライヴであることが伝わってくる。山本拓夫は、ここで優しいフルートの音色を響かせていた。

佐野元春は、集まったオーディエンスに感謝の言葉を伝えつつ、「今日は、古い曲から新しい曲までたくさんやりますので、最後まで楽しんでいってください」と簡潔明瞭に語って、すぐさま演奏に戻る。ファンキーなグルーヴにストーリーテリングが映える『VISITORS』期のナンバーでは、長田進のギターソロが思うさま火を吹いていた。オーディエンスを座席に腰掛けさせ、佐野自身がエレピを奏でつつ、柔らかなラテン/AORの極上アレンジで紡がれる“バルセロナの夜”~“すべてがうまくはいかなくても”~“ポーラスタア”の一幕も素晴らしい。あらゆる時代の楽曲が並び、夜の情景を描き出してゆくようだ。その直後の“君をさがしている(朝が来るまで)”は、歌い出しでえっ、と驚かされるほどの、佐野を含めたトリプルギターによる新鮮なアレンジ。深沼元昭もここで熱いソロを披露し、大喝采を浴びるのだった。

フォーキーな調べが伝う“希望”は、佐野元春にしては平易と言ってもいいぐらいのメロディで、ありふれた日常の幸福を鮮やかに描く。個人的な話だが、『SUN』がリリースされたとき余りにも感動して、この“希望”という楽曲を題材に、「ロッキング・オン・ジャパン」誌面に2ページの投稿原稿を書いたことがあった。「3つのバンドを渡ってきました。35周年を迎えて、素晴らしいミュージシャンたちに出会えたこと、それが僕の誇りです」と語ると、最新作『BLOOD MOON』の冒頭を飾っていた“境界線”を皮切りに、新作曲が畳み掛けられる展開だ。困難の時代に立ち向かう、歯ぎしりするような力強いロックソングの数々。渡辺シュンスケの奔放なジャズピアノが放たれる“私の太陽”の後には、「去年の夏、いろんなことがあって、社会が大きく動いている気がしました。そのことをスケッチした曲」と“東京スカイライン”が披露される。歌詞は生き難さを伝えるけれど、サウンドに、音楽に、一筋の光が差し込んでいる。この夜のライヴは、一貫してそんな手応えがあった。

『Sweet 16』の楽曲群が並び、“レインボー・イン・マイ・ソウル”を七色の照明が彩ると、長田&深沼の灼熱リフが煽り立てる“ヤング・フォーエバー”へ。このステージがザ・コヨーテ・バンド初お披露目の舞台でもあったことを振り返りつつ、アクティヴにハンドマイクで歌われる“星の下 路の上”では、高く足を蹴り上げるアクションも見せていた。そして、新宿ルイードで頻繁にライヴを行っていた頃に思いを馳せ、「いつかどこかで、僕の曲を発見してくれて、僕を支えてくれたみんなに、感謝したいと思います。女の子たちは、学生服の人もいて、男の子たちは、似合っているんだか似合っていないんだか分からない服を着て、僕のロックンロールに夢中になって、歌ったり踊ったりしていた。それは奇跡だと思います。いろんなことがあって、生き抜いて、どうにかサヴァイヴしてきた。そのことをみんな、もっと誇りに思っていいと思うよ」。佐野元春はそんなふうに語り、いろんな思いを込めて、と“ジャスミンガール”に向かうのだった。

「ここで一気に80年代に戻ろう!」と呼びかけると、“ヤングブラッズ”に“約束の橋”と飛び込む怒涛のヒットパレードだ。分厚いロックシンフォニーのようなサウンドが天井知らずに高揚感を煽り立て、佐野元春はマイクを客席に向けて歌わせる。小松シゲルの鋭いドラムイントロから向かうのは、エヴァーグリーンの旋律“サムデイ”である。そこから“ロックンロール・ナイト”に繋ぐという胸熱の連打には、さすがに少し喉の疲労を心配したりもしたけれど、佐野元春は眩いバックライトを浴びて、雄々しいロングシャウトを決めて見せた。凄い。“ニューエイジ”では、《数えきれないイタミのキス/星くずみたいに降ってくる》という歌詞に合わせて、星をかたどった紙吹雪が降り注いでいた。そして、「物事には、終わりがあれば始まりがある。僕の始まりは、こんな感じ」と本編を締め括るのは、全力疾走ロックンロールのデビュー曲“アンジェリーナ”。ここまでで、実に30曲というステージであった。

アンコールの催促に応えて“スターダストキッズ”で威勢良くブルースハープを吹き鳴らしたりすると、ダブルアンコールにも登場して、16歳頃に作ったという“グッドバイからはじめよう”が届けられる。そして重量感たっぷりのロックンロールで“国のための準備”を鳴らすと、35曲目に放たれるのは“悲しきレイディオ”。ギターを抱えたまま膝からスライディングし、「愛し合う気持ちさえ分けあえるなら I love you!!」「You love me!!」のコール&レスポンスと、お馴染みのパフォーマンスもバッチリと決まった。最高だ。「還レ……なんとか。僕はそんなライヴはやらない! 60とか35とか、そんなのはただの数字だ。みんなが求めてくれる限り、そして僕たちの情熱が続く限り、もっとたくさん、いい曲を作り続けます。そしていつかまた、ここで会おう」。そう告げる佐野元春は、誰よりも大きな喜びと強い決意に満ちて見えた。デビューして35年間、ずっとそれをやり続けてきた人なのだ。(小池宏和)

●セットリスト

01. シュガータイム
02. 優しい闇
03. ジュジュ
04. VISITORS
05. カム・シャイニング
06. ワイルド・ハーツ
07. バルセロナの夜
08. すべてうまくはいかなくても
09. ポーラスタア
10. 君をさがしている(朝が来るまで)
11. 希望
12. 境界線
13. La Vita e Bella
14. バイ・ザ・シー
15. 紅い月
16. 私の太陽
17. 東京スカイライン
18. ボヘミアン・グレイブヤード
19. レインボー・イン・マイ・ソウル
20. 誰かが君のドアを叩いている
21. ヤング・フォーエバー
22. 星の下 路の上
23. 世界は慈悲を待っている
24. ジャスミンガール
25. ヤングブラッズ
26. 約束の橋
27. サムデイ
28. ロックンロール・ナイト
29. ニューエイジ
30. アンジェリーナ
(encore 1)
31. スターダストキッズ
32. ダウンタウン・ボーイ
(encore 2)
33. グッドバイからはじめよう
34. 国のための準備
35. 悲しきレイディオ~メドレー
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