M83 @ 新木場スタジオコースト

恐れ入りました。初めて見たM83のライヴは予想をはるかに上回る圧巻の世界だった。素晴らしかった前日のニュー・オーダーからのスタジオコースト2連チャンに、遠路はるばる自宅から向かう時はやや気が重くもあったのだが、見て本当に良かった。

早めに会場に着くと、いきなり大阪出身のビート・メイカーseihoのライヴが始まった。最新作『コラプス』で世界デビューを果たしたばかりの若き鬼才だ。出演すること自体まったく知らなかったので嬉しい驚きだった。切れ味鋭い電子音と閃きに満ちた音楽性、官能的なサウンド・デザイン、ナルシスティックなヴィジュアルと、花瓶に注いだ牛乳一気飲みという謎パフォーマンス。観客に彼のことを知る人はほとんどいなかったろうが、その個性的なキャラクターと才気迸るサウンドは、強い印象を残したに違いない。

だがその印象も、M83の放つ目映くロマンティックな光と音のシャワーの前には、いささか色あせてしまったかもしれない。

まずは演奏。事前に予想していたよりはるかにフィジカルで力強いバンド・サウンドで、ドラム以外全員が複数の楽器を兼任し、テクもセンスも抜群。シーケンサーと生楽器のメリハリの効いたアタック感強めのエレクトロニック・ポップにフィットしている。特に新作『ジャンク』の楽曲は巧みなライヴ・アレンジによって生々しく躍動する逞しい身体性が付与され、恐ろしくパワフルに、エネルギッシュに変貌していた。『ジャンク』の楽曲のポテンシャルはライヴでこそ初めて全開になったと実感したのである。

現在の彼らの音楽性の根本にあるのは80's的なシンセ・ポップやニュー・ウエイヴ、AORといったものである。キラキラとした音色や、多幸感とメランコリアとアイロニーが同居する楽曲のセンス、エレクトロニクスと生のバンド・サウンドのバランスの取り方なども80年代的なのだが、飛躍的な機材の進化と演奏スキルの向上による緻密でソリッドな演奏、シンセの音色や音の出し入れやメリハリの付け方などディテールの非凡なセンスによって、M83のサウンドは80年代のバンドたちが望んでも決して得られなかったようなとんでもなく高い完成度の領域に到達していた。だからノスタルジックな80年代マナーでありながら全然古臭くない、ピカピカの最新型の音として鳴っていたのである。

かなり前の方で観たせいで、メンバーの動きはつぶさに確認できたものの、PAの音が両サイドから聴こえてくるような、音響的に万全とは言えない環境であり、会場全体のサウンド・デザインについてきちんと触れられないのは痛恨である。しかし星空を散りばめたような美しい照明も含めた世界観の作り込みは見事と言うしかない。スペイシーでもありディスコテークでもあるヴィジュアルとサウンドの融合はファンタスティックの一言だったのである。

演奏やショウの完成度云々よりも、メンバーの人間性や背負ってきた人生がオーディエンスに共振して感動的な世界を形作っていたニュー・オーダーに対して、徹底的に作り込んだ世界観と強靭なサウンドでオーディエンスを自由に遊ばせてくれたM83。M83がニュー・オーダーの境地に達するのは相当先だろうが、M83もまた、ニュー・オーダーが決して手の届かぬ領域にいる。こうして音楽は進化していくと実感した。フジロックで観たいがどうでしょうか。(小野島大)

〈SETLIST〉
01. Reunion
02. Do It, Try It
03. Steve McQueen
04. We Own the Sky
05. Intro
06. Walkway Blues
07. OK Pal
08. Bibi the Dog
09. Road Blaster
10. Wait
11. Oblivion
12. Go!
13. Midnight City
14. Echoes of Mine
15. Outro

En1. Solitude
En2. Moon Crystal(Live debut)
En3. Couleurs
En4. Lower Your Eyelids to Die With the Sun
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