『エヴリシング・マスト・ゴー』から20年の歳月を経た今のマニックスだからこそ可能だったパフォーマンスだった思うし、さらに言えばそれは25年以上にわたってバンドをやり続けてきた、信じられないような悲劇や危機に見舞われながらも諦めなかった彼らだからこそ生み得た説得力であり、そんなマニックスの信念と決意がどのアルバムよりも深く刻まれているのが『エヴリシング・マスト・ゴー』であったことを、改めて再認識させてくれた一夜だった。
ショウはこちらも予想通り完全再現の1部とエクストラ・セットの2部からなる2部構成で、オープニングは『エヴリシング・マスト・ゴー』の1曲目“Elvis Impersonator: Blackpool Pier”で幕を開けた。ピンスポの下でのジェームスの弾き語りで始まった本曲、そしてジェームスの「オゲンキデスカトキオー!」のかけ声と共に一気に“A Design for Life”に雪崩れ込む。ライヴのクライマックスの定番であるこの曲が開始5分で早くも鳴ってしまうという過剰さに、「こっちの身体が追いつかないのでは?」という心配は全くの杞憂で、マニックスのライブの阿吽の呼吸を熟知したオーディエンスによって見事に熱が打ち返されていく。セカンドコーラスの一語一句違わぬ大合唱、フロアが波打つような恒例のホッピングもいつもより激しかったくらいだ。
キーボード、ギター、トランペットと3人以外のサポート・メンバーも、ステージ下手に空いた「リッチーの場所」に萎縮することなく十二分に役割を全うし、ポップ・ソングとして高度に完成された『エヴリシング・マスト・ゴー』のナンバーのより効果的なプレゼンに寄与していた。すごくヘルシーで前向き、今・此処の肯定感の中で思いっきりラウドでエモーショナル、そしてメロディアスな楽曲群が生き生きと色づけされていくのだ。
特にアルバムの“The Girl Who Wanted to Be God”や“Removables”はボーカルの旋律に付き従うキーボードがジェームスのソングライティングを際立たせていた。改めて「『EMG』って、むちゃくちゃポップ・アルバムでもあるんだよなあ」と感じ入ってしまった。逆に“Australia”や“Interiors”はダブル・ギターのザラリと重いノイズが効いていて、彼らの遺伝子にはピストルズやクラッシュと同時にガンズやモトリーもいたことを再確認する流れだ。
ラストの“No Surface All Feeling”までの全12曲、最新&最高の演奏と共に蘇った『エヴリシング・マスト・ゴー』を今回のショウで改めて体感して思ったことは、「あの時代」にこんなアルバムを作れてしまったマニックスの凄さについてだった。20年前、リッチー失踪後の絶対的危機の中で制作されたこのアルバムは、普通に考えたら当時の彼らの哀しみや絶望、虚無や自己憐憫が直反映された一枚になったとしても仕方がなかった作品だ。でも、彼らはそうはしなかった。代わりにこんなにも力強く、逞しく、メロディアスで、ポップですらあり、そして喪失の苦みや切なさと温かな吐息と優しい眼差しが混在したアルバムを作ったのだ。こうしてやり続けてきた彼らの姿自体に勝る説得力はないと思うし、『エヴリシング・マスト・ゴー』を作ったことで、その後20年分の道が切り開かれたのだとも思う。
「次の曲はプレゼントだ、歌詞を覚えているか不安だから一緒に歌って欲しい」と言って“Stay Beautiful”、続く“Ocean Spray”と2部の冒頭はジェームスの独壇場だった。本当にこの人のスタミナは驚異的だ。ステージ上の誰よりもエネルギッシュに歌い、弾き、動き回っているのに、後半に行くに従って片足でクルクル回り続けるトレードマークの独楽ダンスはスピード&回転数共にますます絶好調、シャウトも高音も全く掠れることなくこちらも万全だ。ニッキーやリッチーの高度な文学性、その言葉の力に血肉を与えていくのがこのジェームスの頼もしき肉体性であり、マニックスならではの絶妙のバランスだ。
ラストは「リッチー・ジェームス・エドワーズ」の名前に捧げられた“Motorcycle Emptiness”。感無量とはこのことだろう。マニック・ストリート・プリーチャーズと私たちファンの、この20年をサバイブした「同志」としての共鳴、そしてこれからの5年、10年に向けての新たな「約束」、そのふたつを強く感じさせたラストだった。(粉川しの)

01. Elvis Impersonator: Blackpool Pier
02. A Design for Life
03. Kevin Carter
04. Enola/Alone
05. Everything Must Go
06. Small Black Flowers That Grow in the Sky
07. The Girl Who Wanted to Be God
08. Removables
09. Australia
10. Interiors (Song for Willem de Kooning)
11. Further Away
12. No Surface All Feeling
2nd Set
13. Stay Beautiful
14. Ocean Spray
15. You Love Us
16. You Stole the Sun From My Heart
17. Walk Me to the Bridge
18. Your Love Alone Is Not Enough
19. A Song for Departure
20. If You Tolerate This Your Children Will Be Next
21. Born to End
22. Show Me the Wonder
23. Motorcycle Emptiness