●セットリスト
1 今でも君を愛してる
2 しゃアない節
3 それ行けベイビー!!
4 スキップ・ビート(SKIPPED BEAT)
5 MERRY X'MAS IN SUMMER
6 月
7 東京ジプシー・ローズ
8 東京
9 百万本の赤い薔薇
10 大河の一滴
11 君への手紙
12 愛のささくれ〜Nobody loves me
13 簪 / かんざし
14 若い広場
15 明日へのマーチ
16 オアシスと果樹園
17 銀河の星屑
18 悲しい気持ち(JUST A MAN IN LOVE)
19 波乗りジョニー
20 ヨシ子さん
ENCORE
1 ROCK AND ROLL HERO
2 可愛いミーナ
3 明日晴れるかな
今年、ソロデビュー30周年を迎えている桑田佳祐が、8月23日のニューアルバム『がらくた』リリース、及び10〜12月の全国18公演ツアー開催というニュースを携えて臨んだ、Billboard Live Tokyoでのプレミアムな至近距離ライブ「この夏、大人の夜遊び in 日本で一番垢抜けた場所!!」。その名のとおりシックでアダルトな、落ち着いたムードを繰り広げるライブ……ではなかった。パワフルでエモーショナルで予測不可能な、稀代のロックスターがそこにはいた。本稿では、2夜の公演のうち7月11日の模様をレポートしたい。
Billboard Liveの10周年企画の一環でもあった今回のステージ。バンドメンバーは、片山敦夫(Key)、斎藤誠(G)、吉田治(Sax・Flute・Harmonica)、休養明けで桑田のサポートに復帰した角田俊介(B)、金原千恵子(Violin)、TIGER(Chorus)、そして佐野康夫(Dr)という顔ぶれだ。ひときわ大きな喝采に包まれ、前列のオーディエンスとタッチを交わしながら姿を見せたカジュアルな装いの桑田佳祐は、アコギを携えて軽やかなストロークを奏で、ソロデビューアルバムから“今でも君を愛してる”を放っていった。
オーディエンスの手拍子と歌声を巻いて、カントリー&ウェスタンのBPMが跳ね上がる“それ行けベイビー!!”を披露すると、「皆さんと楽しむことができて、嬉しゅうございますけれども。初めて観る人! 今日、誕生日の人!」とこの日誕生日を迎えた男性オーディエンスを見つけては“Happy Birthday to You”をプレゼントし、「今日はジャズしかやりませんから」と冗談めかしている。「世田谷のチック・コリア」と呼ばれた片山のキーボードサウンドが彩るのは、KUWATA BAND名義曲の“スキップ・ビート(SKIPPED BEAT)”や、“MERRY X’MAS IN SUMMER”の豊穣なグルーヴだ。一瞬、トナカイとサンタの着ぐるみもステージを横切って楽しい。
“月”〜“東京ジプシー・ローズ”〜“東京”という流れは、妖艶なベースラインや切々としたフルートの旋律が官能的な情熱を描き出してゆく一幕で、桑田のブルージーなギタープレイも迸る。ソロ活動30周年、サザンオールスターズは来年でデビュー40周年に至ることをあらためて照れ臭そうに語りながら、今度は昨年のシングル『ヨシ子さん』から“百万本の赤い薔薇”や“大河の一滴”を届け、TIGERとの台詞の掛け合いも決めてみせる。「ウィーッス! 声が小さい! ウィーッス!!」と、いかりや長介を彷彿とさせるコール&レスポンスもノリノリだ。
こちらも昨年のシングル曲である“君への手紙”が、歌のもとに集まり来るすべての人々に意味をもたらすと、新作『がらくた』について「タイトルには意味はないんですけれども、意味がないことに力があると勘づいてきまして」と奥ゆかしい語り口で告げ、歌謡テイストの痛ましいトーキンブルース“愛のささくれ〜Nobody loves me”や、和洋折衷のソウルジャズで悲恋のストーリーを歌い上げる“簪 / かんざし”といった新作曲を披露してくれる。
そして、TIGERや金原とNHKの連ドラ『ひよっこ』を元ネタにしたユーモラスな掛け合いを挟み、ここで“若い広場”を披露だ。トロピカルで大らかなポップソングに誘われ、オーディエンスもコーラス隊気分で歌声を上げる。最高に気持ちいい。懐かしの『8時だョ! 全員集合』ステージ転換(盆周り)曲が鳴り響くと、「後半戦いってみよう! って言ったらだろ!」とフライングに突っ込みを入れたりしつつ、サザンオールスターズとして同番組に出演したときの思い出話に花を咲かせる。
“明日へのマーチ”に続いては、さらなる新作曲“オアシスと果樹園”も華々しいロックサウンドで届けられ、本編終盤をバイタリティあふれるロックスターとして駆け抜けてゆくきっかけを作り上げていた。モータウンビートで賑々しく転がる“悲しい気持ち(JUST A MAN IN LOVE)”を経ると、「ビルボードライブ、10周年おめでとうございます! お酒ないかなあ。ウィーッス! ウィーッス! ウィーッスキーが……お好きでしょ♪」と歌い出す桑田に、片山が咄嗟のピアノ演奏で合わせる。ステージ背景の幕が開くと、六本木の夜景が視界に飛び込んでくるのだった。
オーディエンス総立ちの“波乗りジョニー”が届けられたのち、不気味なイントロが鳴り響く中にダンサー陣もステージへと入り、無国籍ダンスサウンドで“ヨシ子さん”の異様な狂騒へと飛び込んでゆく。幽霊のヨシ子さんも客席通路を徘徊し、混沌としたムードを引き摺りながら本編は幕を閉じた。あらためてステージに再登場すると、熱を逃がさず“明日晴れるかな”まで包容力に満ち溢れた3曲をプレイ。記憶を重ねた30周年のブルースは途方もなくカラフルで、爆発的なエネルギーを備えていた。
新作とツアーに向けて、俄然期待が高まる貴重なパフォーマンスであった。なお、その前に桑田佳祐はROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017にも出演を果たす(8月6日・GRASS STAGEのトリ)。ソロとしては実に15年ぶりの出演、こちらもぜひ楽しみにしていて欲しい。(小池宏和)