ベル・アンド・セバスチャン @ Zepp DiverCity

ベル・アンド・セバスチャン @ Zepp DiverCity - Photo by Kazumichi KokeiPhoto by Kazumichi Kokei

単独ライブとしては実に6年ぶりとなったのが、今回のベル・アンド・セバスチャンの来日ツアーだ。現時点での最新アルバム『ガールズ・イン・ピースタイム・ウォント・トゥ・ダンス』(2015)後にはフジロックでの来日もあったけれど、このバンドの場合はやっぱり単独が格別だ。旧知の友が集ったような、久しぶりの再会なのにあっという間に打ち解けて馴染んでいくような、そんなベルセバの単独ライブならではの感覚は、アップデートされていく彼らのサウンド、ディスコグラフィーの傍らで常に不変のものだからだ。

「今日は英語で話しても大丈夫かな?わからない時は回りの人に《今、なんて言ったの?》って訊いてもらえればって思う。僕らと君らが互いに理解し合うことが大事だから」とスチュアート・マードックも言っていたけれど、ベルセバのライブは彼らが歌い&演奏して、我々が聴く&観るという、一方向のパフォーマンスではなく、ひとつの場所と時間を共有し、共に歌い、笑い、ダンスすること、つまり「コミュニケーション」そのものだ。

極論すれば彼らのライブにおける楽曲とはそのコミュニケーションのツールであり、新曲とはツールの刷新にすぎない。コミュニケーションの在り方自体を変容させるものではないのだ。時を経て、セットリストが入れ替わってもなお、ベルセバのライブには常にクタッと肌に馴染む毛布のような心地よさがあるのはそれ故だろう。

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正当派ギタポの粋を極めたクラシック・チューンの“I'm a Cuckoo”から、人力ドラムンベース的リズムに乗って真っ赤なショルキーをスチュアートが弾きまくるシンセポップ・チューンである最新シングル“We Were Beautiful”へ、曲調もモダネスも一変するリレーのはずなのに、その場でたまらずステップを踏みたくなる浮き立つ気持ちは同質だ。

「次はすごく古い曲だよ。この曲が出た時は(客席を指差しながら)君も…あと君も既に生まれていたと思うけど、そうじゃない人はママに聞いてみてね」とスチュアートが言ってデビュー・アルバム『タイガーミルク』収録の“She's Losing It”へ。『タイガーミルク』のリリースは1996年、ベルセバのアルバム・デビューから21年が経ったと思うと感慨深いけれど、本当に必要な音だけを丁寧に磨き上げたフォーキーなアコースティック・チューンであるこの曲は、60年代の曲にも聞こえるし、2017年の今なお瑞々しい曲でもある。

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90年代、00年代、そして2010年代と、各時代の楽曲がバランス良く配置されたセットだったこの日。各時代、各アルバムの各楽曲の異なるキャラクターをそれぞれに発揮するというよりも、各時代、各アルバム、各楽曲の異なるキャラクターを超えた共通点、ベルセバが20年以上かけて繰り返し語り継いできたひとつのテーマが全体を統一する、そんな力学を感じたライブでもあった。

そしてそのテーマとは、これまたスチュアートがこの日ステージで何度も言っていたように、「悲しい物語を楽しい歌に乗せる」ということだったのだと思う。ジャングリーなギターと温かくいたわり合うようなコーラスに乗せてあの美しく輝いていた日々はもう戻ってこない、そんなセンチメントについて歌われる“Another Sunny Day”は、まさにベルセバの「ハッピー・サッド」を象徴する一曲だろう。スティーヴィー・ジャクソンが「次は新曲、たぶんニュー・アルバムに収録される曲だよ」と紹介してスタートしたのが“Sweet Dewelee”だ。カリプソやボサノバも感じさせるトライバルなパーカッションとスチュアートのシンセが印象的なラウンジ・ポップで、これまた“We Were Beautiful”同様の新機軸のナンバーだった。

「渋谷駅から電車に乗ったんだ。東京テレポート駅までね。東京テレポート!最高の駅名だよね。テレポートできたら最高だろうな。東京テレポートでグラスゴー・テレポートだよ、そしたら時間もお金も節約出来るよね(笑)」なんてスチュアートが言いつつ、彼がスマホで撮影したという駅からZepp DiverCityまでの道すがらの風景をバックに“Like Dylan in the Movies”へ。その映像にはたまたま出会ったというファンも友情出演(?)していて、ベルセバイズムの結晶のようなほっこりさせられるひとときだった。

ベル・アンド・セバスチャン @ Zepp DiverCity - Photo by Kazumichi KokeiPhoto by Kazumichi Kokei

「彼はデイヴ、ティーンネイジ・ファンクラブから奪ったんだ……っていうのは冗談で、彼は才能のあるアーティストだからふたつのバンドを両立出来るんだよ」と、ベースにキーボードにと大活躍だったデイヴ・マクガワンを紹介するスチュアート。するとスティーヴィーがTFCの“The Concept”のイントロを弾き始め、グラスゴー・インディのレジェンドを結ぶ即興カバーが実現!もちろんオーディエンスも大合唱だ。

そして“The Boy With the Arab Strap”ではこれまた恒例、大勢のファンがステージに招かれての大ダンス・パーティーに突入していく。“The Boy With the Arab Strap”の和気藹々スモール・サークルなノリも楽しかったけれど、皆が思い思いのステップを踏み始めた90Sディスコ風(スチュアート談)の“I Didn't See It Coming”も最高!

ベル・アンド・セバスチャン @ Zepp DiverCity - Photo by Kazumichi KokeiPhoto by Kazumichi Kokei

本編ラストは“The Stars of Track and Field”、事前に予定していなかったナンバーだそうだが、「2020年にオリンピックを控える、東京の皆に捧げます。2020年ってもうあっという間だよね!」(スチュアート)ということで、プレイしてくれたようだ。

アンコールは再び熱くダンスで盛り上がった“The Party Line”、ファンのリクエストに応えて披露された“Funny Little Frog”、そして珠玉の一曲“Judy and the Dream of Horses”と、最後の最後まで彼らと私たちの親密で特別な時間は続いた。(粉川しの)

ベル・アンド・セバスチャン @ Zepp DiverCity - Photo by Kazumichi KokeiPhoto by Kazumichi Kokei

〈SET LIST〉

Act of the Apostle
I'm a Cuckoo
We Were Beautiful
She's Losing It
Another Sunny Day
Sweet Dewelee
The Loneliness of a Middle Distance Runner
We Rule the School
Little Lou, Ugly Jack, Prophet John
Like Dylan in the Movies
I Can See Your Future
Stay Loose
Dog on Wheels
The Boy With the Arab Strap
I Didn't See It Coming
The Stars of Track and Field

Encore:
The Party Line
Funny Little Frog
Judy and the Dream of Horses

ベル・アンド・セバスチャン、今後の公演は以下の通り。
大阪 10月5日 (木)@ BIG CAT
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