椎名林檎/NHKホール

椎名林檎/NHKホール - All photo by 太田好治(ota yoshiharu)All photo by 太田好治(ota yoshiharu)

●セットリスト
1.人生は思い通り
2.おいしい季節
3.色恋沙汰
4.ギブス
5.意識
6.真理の人(nature boy)
7.JL005便で
8.少女ロボット
9.弁解ドビュッシー
10.浴室
11.薄ら氷心中
12.暗夜の心中立て
13.枯葉
14.眩暈
15.おとなの掟
16.重金属製の女
17.静かなる逆襲
18.華麗なる逆襲
19.孤独のあかつき
20.自由へ道連れ
21.人生は夢だらけ
(アンコール)
EN1.丸ノ内サディスティック
EN2.NIPPON
EN3.野性の同盟


この日NHKホールに足を踏み入れた時には、オーディエンスの誰もが「椎名林檎 ひょっとしてレコ発2018」という軽やかなタイトルが冠されたツアーの公演を観に来たはずだった。が、ライブの冒頭を艶やかに飾った“人生は思い通り”の後、椎名の「いらっしゃいませ。『ひょっとしてレコード発射2018』へようこそ」という言葉が、そして格段に研ぎ澄まされた歌と表現が、観客すべてを壮麗なポップの異世界へと導いていく――。

椎名林檎/NHKホール
前回のツアー「椎名林檎と彼奴等がゆく 百鬼夜行2015」から約2年半。2017年12月にリリースされたセルフカバーアルバム第2弾『逆輸入 〜航空局〜』のリリースツアーとして、当初は「椎名林檎 ひょっとしてレコ発2018」のタイトルで告知されていた今回の全国ツアー。しかし、ありったけのリスペクトをもって「彼奴等」と称された辣腕バンド「MANGARAMA」とともに描き上げたツアー=「椎名林檎と彼奴等の居る真空地帯」の世界は、その音像のみならず映像/衣装/演出まで含めて、「椎名林檎という名の総合芸術」の在り方を鮮烈に提示するものだった。

椎名林檎/NHKホール
みどりん(Dr)/鳥越啓介(B)/ヒイズミマサユ機(Key・Vo)/名越由貴夫(G)/村田陽一(Tb)/西村浩二(Tp)/山本拓夫(Sax・Flute)という強力なラインナップを擁して今回のツアーの舞台に臨んだ椎名林檎。“おいしい季節”で聴かせたコケティッシュな歌声が、村田・西村・山本のホーンセクションの豊潤な音色と響き合ったかと思えば、続く“色恋沙汰”では8人一体となってスリリングなまでのジャズの疾走感を生み出していく。

椎名林檎/NHKホール
“少女ロボット”、“薄ら氷心中”、“おとなの掟”など『逆輸入 〜航空局〜』の収録曲の大半を盛り込んでいたあたりは「ひょっとしてレコ発」の意味合いも強く含んでいたが、同時にこの日のライブは、ちょうどこの5月でメジャーデビュー20周年を迎える椎名林檎のキャリアを高純度結晶させたかのように、“意識”、“弁解ドビュッシー”、“浴室”といった初期の楽曲も随所に盛り込んでいたのも大きな特徴だった。ギターを構えた椎名が《あなたはすぐに写真を撮りたがる》とライブでは久々の披露となる名曲“ギブス”を歌い始めた瞬間、驚きと歓喜のあまり観客が息を呑んでいたのが印象的だった。
彼女自身からツアーのコンセプトについての説明こそなかったものの、ツアーファイナル=5月27日(日)がまさに20年前のメジャーデビュー記念日であることからも、「20周年記念」という意味合いをも内包したツアーであることは十分に窺える。

椎名林檎/NHKホール
たとえば“ギブス”のラストで名越が繰り出す凄絶ノイズから一瞬で“意識”の美麗なピアノのイントロへと切り替わった場面をはじめ、観る者を一瞬たりとも飽きさせないように曲間に至るまで緻密にデザインされたライブ運び。
登場時に身にまとっていた「青いシフォンプリーツのドレスの随所に甲冑の武装」の衣装から、“意識”〜“真理の人(nature boy)”(ナット・キング・コール“Nature Boy”のカバー)の曲間のわずかな間に舞台上で打掛姿に変身、さらに“浴室”では打掛を脱いでアップルグリーンのランジェリー姿に……といった具合に場面ごとに衣装を変えながら、楽曲を「歌う」のみならずその佇まいまで含めて「演じ」てみせる、研ぎ澄まされた全身表現者としての椎名の存在感。
“JL005便で”ではNHKホール丸ごと雲上の飛行機の旅へ誘ってみせたり、椎名が髪を切る映像の直後にショートヘアスタイルにチェンジしていたり――と映像まで一体となって展開される歌とアートの世界が、満場の客席を刻一刻と濃密なイマジネーションの奥深くへと導いていった。

椎名林檎/NHKホール
椎名の歌は、聴いている「あなた」に直接呼びかけるメッセージではない。むしろ、大切な誰か(あるいは何か)に向けて渾身の歌と表現を捧げる姿そのものが、僕らにとっての何よりの希望になっていく、というものだ。彼女が目の前で繰り広げる揺るぎないアートは、客席にいる僕らのためのものであると同時に、どこか祈りにも似た切実さを備えているように思えて、終始胸が震えっ放しだった。

椎名林檎/NHKホール
ビッグバンド風のアレンジに合わせて、この日はアップライトベース主体だった鳥越が、エレキベースでソリッドな激走感を生み出した“重金属製の女”。椎名が手にした手旗を左右に振るのに応えて、客席一面に手旗が大きく踊った“華麗なる逆襲”――。
オリジナル作品の楽曲/カバー曲/セルフカバー曲を幾重にも織り重ねながら、グラマラスなまでの色彩感と輝度を描ききってみせた椎名。『逆輸入 〜航空局〜』から本編最後に響かせた“人生は夢だらけ”の《奪われるものか 私は自由》でのロングトーンと《この人生は夢だらけ》の絶唱は、観る者すべての感情のリミッターを決壊させるだけの凄絶な生命力をもって鳴り渡っていた。最高だ。

椎名林檎/NHKホール
アンコールでは“丸ノ内サディスティック”を英語詞&日本語詞の「EXPO Ver.」(『三文ゴシップ』収録)で妖艶に披露。さらに立て続けにハイエナジーな躍動感に満ちた“NIPPON”へと流れ込んで、ホールの熱気と多幸感をなおも天井知らずに高めてみせる。
前回のツアー同様、冒頭に掲げた「開会宣言」的なMCと、ソロプレイに興じるメンバーの名前をコールしたりする以外は、ほぼ言葉を発することもなく、歌とパフォーマンスですべてを演じ語りきった椎名。そんな彼女が最後、「お名残惜しいです。本日は、おめかしして来てくださったのも、全部わかっています。ありがとうございます」と感謝の言葉を添えて、“野性の同盟”をひときわ凛と美しく響かせていく。

椎名林檎/NHKホール
《ああ冷えて来た思い出してしまうのは君の無言の吐息の白さ/潔さ》のフレーズを歌い終えた椎名が、ビジョンの前で手を振るシルエットを残して姿を消した後、暗転した舞台に7人の激烈な演奏が鳴り渡る。やがて、轟音渦巻く中で照明が灯されると、すでに舞台には誰もいない――。バンドサウンドと演出のイリュージョンとでも呼ぶべき予想外の幕切れに、覚めない魔法の如き余韻と痺れるような高揚感が、いつまでも強烈に胸に残った。その歌も表現も含め、日本音楽史に唯一無二の存在感を改めて体現し尽くした、稀代の名演だった。(高橋智樹)

椎名林檎/NHKホール

終演後ブログ
【速報】椎名林檎という名の総合芸術を「ひょっとしてレコ発2018」NHKホール公演で観た
歌や演奏はもちろん、衣装/演出/曲間に至るまで一分の隙もなく磨き抜かれた、そしてそのすべてが織り重なり合って至上のエンターテインメントへと昇華されていく、どこまでもマジカルなライブ空間。 約2年半前にも同じくここNHKホールで観た「椎名林檎と彼奴等がゆく 百鬼夜行2015」ツアーでも、サポー…
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