SUPER BEAVER/中野サンプラザ

SUPER BEAVER/中野サンプラザ - All photo by 青木カズローAll photo by 青木カズロー

3月29日に、SUPER BEAVERの全国ツアー「都会のラクダ “ホール&ライブハウス” TOUR 2019~立ちと座りと、ラクダ放題~」の中野サンプラザ公演が行われた。今回のツアーは、3月5日のZepp Nagoyaでのライブを皮切りに、ツアータイトル通りライブハウス公演とホール公演を織り交ぜながら、10月まで続くロングランツアー。そしてこの日のライブはSUPER BEAVERにとって自身初となるホール公演という記念すべき日だった訳だが、変な気負いやピリッとした緊張感は一切無し。「音を楽しむ」という音楽の本質に対して忠実に、ここに居合わせた「あなた」に対して誠実に向き合ったライブだった。また今回の記事は、ツアー真っ只中ということで、演奏曲や演出には触れずに、この日の空気感やホール公演に対するバンドの想いを中心にお伝えする。なので、これからライブに行く方もその点は安心して読み進めてほしい。

SUPER BEAVER/中野サンプラザ
SUPER BEAVER/中野サンプラザ

ライブハウスとホール――「音楽を鳴らす場所」という意味では同じだが、規模や音響設備、雰囲気の違いはかなり大きい。そしてバンドの歩みとしては、ライブハウスでの経験を経てホール公演を迎える、という流れはフォーマット化されつつある。とはいえバンドの成長の一環だったり未知への挑戦だったり、その理由や行うタイミングはバンドによって勿論異なるだろう。ではSUPER BEAVERがなぜ、リリースを引っ提げていないこのタイミングでホール公演を決めたのか? その理由を渋谷龍太(Vo)は「俺たち、色んなところでやってみたいのよ。色んな形の楽しいことを、あなたに見てほしい」と話した。そして「あなたにも選んでほしいと思ったの。例えば、母ちゃんを連れてきたい、父ちゃんを連れてきたい。自分の大事な息子さんや娘さんを連れてきたいと思った時に、やっぱりライブハウスって怖いんだよね。本当は怖くないんだけど、何かあるかもしれないし。だから、そういう場合でも楽しんでもらえる場所であったらいいなと思った。ライブハウスとは違った音楽との向き合い方ができる場所での音楽を提示できるようになりてぇなと思った」とも語った。この理由を聞いた時、「ああ、なんてSUPER BEAVERらしい答えなんだろう」と思った。音楽家として、誰かがどうこうではなく「自分が楽しめることをしたい」という動機は真っ先にあるべきだと思う。けれど、彼らはそれを思うのと同じ瞬発力をもって「あなたが楽しめることをしたい」と考えるのだろう。それはきっと反射に近いだろうし、バンドとあなた(聴き手)をいつだって対等に、並列に考えられるからこそ、いや、そうでなければ出てこない答えだなと思った。そういった所以で迎えられたこの日のライブ。渋谷の歌唱力が最大限に引き出されるホールならではの音響環境、メンバー同士のさりげないアイコンタクトや楽しんでプレイしている姿がよく見渡せる指定席(事前に客席からのステージの見え方を確認していたというメンバーも「めっちゃ見やすくない?」としきりに繰り返していた)。空間いっぱいに響く音で、ライブハウスよりも互いの顔と顔を突き合わせやすいホールで行われる、バンドとあなたの二者間での感情のキャッチボール。その醍醐味を味方にしたこの日の彼らの音楽は、会場の空気だけではなく私たちの心もめいっぱい振るわせた。

SUPER BEAVER/中野サンプラザ
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人間とは不思議なもので、その「環境が生み出す特別感」を存分に堪能できたからといって、必ずしも感動できるものではない。その上でこの日のライブが一音一句の隙なく感動させたのは、彼らがそういった環境に頼ることなく、「目の前のあなたに届くように、楽しませる為に、自分たちも楽しむ」という「いつも通り」を徹底していたからだろう。特別を特別のまま届けることと、日常を特別にして届けることは違う。私たちが思うSUPER BEAVERが在りのままの状態でこちらの期待を越えてきたからこそ生まれた感動が間違いなくあって、自然体の状態で伝わってくる彼らの絶大な包容力が尚の事こちらの感情を突き動かしたのだろうなと思う。

SUPER BEAVER/中野サンプラザ
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今回のツアーは先述したようにまだまだ続く。彼らが与えてくれたホール公演という選択肢を、是非とも選んで、その耳と心で体感してみてほしい。この場でしか知ることのできない、彼らの音楽の楽しみ方や伝わり方が間違いなくあるから。(峯岸利恵)

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