くるり/Zepp Tokyo

くるり/Zepp Tokyo - All photo by 岸田哲平All photo by 岸田哲平


●セットリスト
01.琥珀色の街、上海蟹の朝
02.ふたつの世界
03.シャツを洗えば
04.Morning Paper
05.新曲(タイトル未定)
06.その線は水平線
07.ソングライン
08.Tokyo OP
09.風は野を越え
10.忘れないように
11.どれくらいの
12.News
13.宿はなし
14.キャメル
15.ブレーメン
16.Tonight Is The Night
17.スラヴ
18.お祭りわっしょい
19.すけべな女の子
20.Hometown
21.ワールズエンド・スーパーノヴァ
22.Liberty&Gravity
23.HOW TO GO

(アンコール)
En1.SAMPO
En2.尼崎の魚
En3.Good Times Bad Times(Covers of Led Zeppelin Songs)
En4.Communication Breakdown(Covers of Led Zeppelin Songs)
En5.ロックンロール


朗らかで柔らかなメロディを奏でる曲も、ロックのダイナミズム全開の曲も、プログレ的な演奏と展開が弾け回る曲も、メランコリックな感情を抱き締めるような曲も、そのすべてを「くるりの音楽」というパースの中で伸びやかに響かせてみせるアンサンブルの豊かさ――あたかもくるりが音楽そのものになったようなマジカルな磁場と多幸感を、この日のZepp Tokyoに集まった誰もが感じたに違いない。

くるり/Zepp Tokyo

昨年9月リリースの最新アルバム『ソングライン』を携えて全国Zepp 4会場・5公演にわたって行われたツアー、題して「くるり『songline』リリースツアー『列島 Zeppェリン』」。そのファイナルを飾るZepp Tokyo 2Daysの2日目となったこの日のアクトは、「今日はいっぱいやります。体力ない人……今から鍛えてこい! 階段上り下りして(笑)」と岸田繁(Vo・G)も話していた通り、トータル2時間45分に及ぶステージの中に、音楽の驚きと感動が凝縮された、最高の一夜だった。

岸田繁/佐藤征史(B・Vo)/ファンファン(Trumpet・Key・Vo)の3人にクリフ・アーモンド(Dr)、松本大樹(G)、野崎泰弘(Key)の鉄壁のサポート陣を迎えて舞台に臨んだくるり。冒頭から“琥珀色の街、上海蟹の朝”、“ふたつの世界”と岸田がハンドマイクスタイルで歌う場面からスタートすると、“シャツを洗えば”での真夏の高気圧のような爽快感から一転、ロックの雄大なスケール感と疾走感を“Morning Paper”1曲の展開の中で体現してみせたりもする。極彩色のコーラスワークと、衝動に身を震わせながらギターを弾きまくる岸田の佇まいが、1mmの矛盾も齟齬もなく共鳴し合っている。くるりならではの名シーンに、序盤から胸が熱くなる。

くるり/Zepp Tokyo

「次にやる曲は、みんなはたぶん棒立ちで『何の曲やろ?』って見てる曲やと思うけど、僕らは体力使うんです。はい、新曲です。新曲と言っても、くるり王道の――プログレでございます(笑)」と言いつつ披露したのは、未発表のインスト新曲(“Tokyo OP”=東京オリンピックに倣って仮タイトルは“Osaka BP”=大阪万博、と話していた)。複雑な展開に満ちた変幻自在な楽曲ながら、ソールドアウト満場のフロアが一音一音にワクワクするような高揚感は、刻一刻と増していく一方だった。

“その線は水平線”以降の中盤に『ソングライン』収録曲を集めた展開からも、最新作への手応えが窺えた今回のツアー。
心の裏側を優しく撫でながら異次元へ誘うような“風は野を越え”のコードワーク。岸田のアコギ弾き語りから雄大なバンドサウンドの絶景へと導く“どれくらいの”のスケール感。松本のギター&ファンファンのトランペットのツインリードが描く、“News”の目映い彩度――。日常風景や感情/思考が予定調和から外れる瞬間の心の蠢き。時に捕捉不可能なほど強烈だったり巨大だったりしながら、抗い難く脳裏を支配するイマジネーションの数々。言葉だけでは形容し難い、しかしどうしようもなく心動かされ魅了されてやまないものに、岸田繁は音楽で丹念に形を与え、時代に解き放ってきた。そんな彼の音楽のひとつひとつを今、過不足なく具現化することができる――という力強い確信に満ちたミュージシャンシップが、かつてないほどの開放感を1曲1曲の演奏に与えていた。

くるり/Zepp Tokyo

本編後半、サポートの3人が去った舞台を見回して岸田が「打ち上げ行ったかな?」ととぼけつつ、岸田/佐藤/ファンファンの3人で“宿はなし”、“キャメル”、“ブレーメン”を披露する一幕も。3人ならではの濃密であたたかな磁場が、会場の一体感をなおも高めていく。

3拍子のスロウナンバー越しにミステリアスでファンタジックな風景を編み上げる“Tonight Is The Night”から、ライブはいよいよ終盤へ。トラッドとブルースとロックンロールが踊り回るような“スラヴ”。“お祭りわっしょい”のストーンズ直系のスクエアなビートの上を軽やかに跳ね回ったファンファンが銅鑼を打ち鳴らし、“すけべな女の子”のアグレッシブな音像と岸田の絶唱がせめぎ合い、ミラーボールきらめく中で美しく鳴り響いた“ワールズエンド・スーパーノヴァ”のアウトロに轟いた岸田のフィードバックノイズが観る者の心をかき乱していく――。歌と演奏の一瞬一瞬が感情に直結してくるような感覚が、そこには確かにあった。

シタールの音色と《ヨイショッ!》のコールが心地好く交錯した“Liberty&Gravity”まで立て続けに繰り出したところで、「さすがに疲れましたね」と岸田。ライブ翌日に帰国するというクリフに向けて「We miss you!」のコールがフロアから巻き起こったり、この日のライブは終始フレンドリーな空気感に満ちていた。
「今日はみなさまにとっては一期一会の機会ですけど、今日はツアーの楽日ということで、たっぷりとお届けしてまいりました。あと1曲、渾身の力を込めてお送りしたいと思います」という岸田の言葉とともに、“HOW TO GO”のパワフルなビートと麗しの旋律が、温かな包容力をもって広がっていった。

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アンコールではNetflixオリジナルシリーズ『リラックマとカオルさん』主題歌“SAMPO”から初期曲“尼崎の魚”、さらにツアータイトルにちなんでレッド・ツェッペリンの“Good Times Bad Times”、“Communication Breakdown”を連発!という離れ業的な曲順も、そのすべてにくるりの情熱と息遣いが宿っているように聴こえてくる。
「またお会いしましょう!」というコールから流れ込んだ最後の楽曲は“ロックンロール”。突き抜けるような晴れやかさと、大地を踏みしめる凛とした強さ――。音楽の理想形と呼ぶべき響きが、満場のZepp Tokyoを無上の祝祭空間へと塗り替えていった。

6月からは新たに「くるりライブハウスツアー『列島ウォ〜リャ〜Z』」が開催される。その道程の先をどこまでも見続けたいと改めて思わせてくれる、至上のひとときだった。(高橋智樹)

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