そらる/幕張メッセ国際展示場4~6ホール

そらる/幕張メッセ国際展示場4~6ホール - Photo by 小松陽祐 (ODD JOB)、加藤千絵 (CAPS)、堀卓朗 (ELENORE)Photo by 小松陽祐 (ODD JOB)、加藤千絵 (CAPS)、堀卓朗 (ELENORE)


●セットリスト
1.銀の祈誓
2.幻日
3.群青のムジカ
4.アイフェイクミー
5.アトモスフィア
6.教えて神様
7.アイソレイト
8.文学少年の憂鬱
9.それは永遠のような
10.海中の月を掬う
11.ありふれた魔法
12.命に嫌われている。
13.それがあなたの幸せとしても
14.アンサー
15.ゆきどけ
16.長い坂道
17.オレンジの約束
18.ユーリカ
(アンコール)
EN1.10
EN2.ワンダー


会場が薄暗くなるとともに、スクリーンに蝶が羽ばたきだす。多重の管弦楽器が序曲を奏で、魚や鳥があしらわれたビル群が広がってゆく。横向きの青年と「ワンダフルワンダラス」の文字が浮かびあがり、キービジュアルのイラストが完成して。
それだけでもう、会場が独特の世界観に包まれていくのを感じた。そらるの紡ぐ「さまよい」と「奇跡」の世界へと。

そらる/幕張メッセ国際展示場4~6ホール - Photo by 小松陽祐 (ODD JOB)、加藤千絵 (CAPS)、堀卓朗 (ELENORE)Photo by 小松陽祐 (ODD JOB)、加藤千絵 (CAPS)、堀卓朗 (ELENORE)

開幕した「SORARU Birthday Live 2019 -ワンダフルワンダラス-」。明るくなったステージ奥にはオーケストラが控えており、オープニングナンバーの“銀の祈誓”を、原曲よりさらに重厚感のある音で展開していく。「SORARU LIVE TOUR 2017~夢見るセカイの歩き方~」、「SORARU LIVE TOUR 2019-10th Anniversary Parade-」ではサプライズとしてライブの終盤に登場したオーケストラが、今回は頭から配置された気合の入った布陣だ。スパンコールできらめく黒のナポレオンジャケットを纏ったそらるの「来たぞ幕張!」という力強い声が会場いっぱいに響いた。

2曲目は“幻日”。じん、堀江晶太との共作であるこの曲は、駆け抜けていくようなアップテンポが爽快だ。そして、不敵な笑みを思わせる≪絶望の音すらパッと着こなしてさ/立ち姿、崩さない よく似合ってるでしょ≫や、幻想的な風景を連想させる≪淡い炎 揺らいでいる≫など、歌詞の美しさが際立つ1曲でもある。さらなる高みを目指す貪欲さを軽やかに纏い、≪その魂も 願いも 決定権は君にある≫と客席を指さすしぐさに胸を撃ち抜かれる。
“群青のムジカ”を経て最初のMCへ。この日の公演は11月3日のそらるの誕生日に合わせたバースデーライブであり、アルバム『ワンダー』の発売記念でもある。「今日はアルバム曲をばっちりやろうと思います。ついでに誕生日を祝ってもらおうと」と話すそらる。「ぶっ倒れないくらいのギリギリを見せてください」と客席を煽り、まふまふとの共作“アイフェイクミー”へと突入。激しく明滅するストロボライトに照らされた会場を鋭い歌声で切り裂いたかと思えば、次の“アトモスフィア”では一転、幻想的な雰囲気の中をたゆたうような声が広がっていく。
はるまきごはんと組んだ“教えて神様”は、軽やかな音で鳴らされるポップなナンバー。星の光がまたたく映像と、無数に揺れるペンライトの光が合わさって、会場全体が巨大なプラネタリウムのようだった。

7月に発売したアルバム『ワンダー』がオリコン週間ランキング2位、ビルボードジャパン週間セールス1位を記録したことに触れ、改めて感謝を告げる。そして、「アルバム(『ワンダー』)の曲をライブで全曲やるのは今回が最初で最後になると思います。余すことなく楽しんで」と告げ、ナノウとの共作”アイソレイト”へ。本格的なロックナンバーであるこの曲は、肉を通り抜け骨を振動させるような重みのあるバンドサウンドが心地いい。≪絶望ばかりの毎日の中で≫、≪心を切り売りする命など/これ以上もう続けたくない≫と、日常に巣食う苦悩と絶望感に苛まれながら、それでももがくように突き進む姿が浮かぶ。サビで≪泥水の中もがいているあなたを美しいと思うことを/それが間違いな世界ならば もういっそ解き放って≫と鋭く突き抜けていくのが痛快だ。
続く“文学少年の憂鬱”は、ナノウのオリジナル曲のカバー。オケ編曲され、鬱々としたメロディと重たく沈むような歌声によって、思春期特有の閉塞感と鬱屈した感情に会場全体がリンクしていく。

転換を経て衣装チェンジし、“それは永遠のような”で再登場。水色のロングジャケットに白シャツというデザインは、キービジュアルも担当したくまお♀のものだ。
“海中の月を掬う”では、ステージの前面に下りた紗幕越しに、舞台と奥のスクリーンの映像を観るという二層構造。水中から見上げる構図の映像が、紗幕を通すことでさらに淡い印象になり、現実感を消し去っていく。大きな月の下でそらるが歌うさまはMVの再現でもあり、もがいても届かない心を深海の月になぞらえたこの曲の、もの悲しくも美しい世界観が、ため息をつきたくなるほど見事に作り上げられていた。

そらる/幕張メッセ国際展示場4~6ホール - Photo by 小松陽祐 (ODD JOB)、加藤千絵 (CAPS)、堀卓朗 (ELENORE)Photo by 小松陽祐 (ODD JOB)、加藤千絵 (CAPS)、堀卓朗 (ELENORE)

続いて「後ろ行くよ!」とトロッコに乗り込み、“ありふれた魔法”を歌いながら椅子とキーボードが用意されたセンターステージへ移動する。そこで登場したのは、サプライズゲストの事務員G。そらるの活動初期からの付き合いである事務員Gを迎えたことで、場は一気にリラックスした雰囲気に。
「そろそろ年齢を言うのがはばかられるんすよね。今から年をごまかす方法ないですかね」と難題を言うそらると「概念になればいいんじゃない?」などと斜め上の返答で打ち返す事務員G。気心の知れた会話によって自然体な姿が引き出されていき、そのおかしなやりとりにどんどん引き込まれてしまう。
「よく頑張りました10年も。初めて僕がそらるくんのライブの伴奏をした時は、お客さん40人くらいだった」と讃える事務員Gに対し、「できすぎてんなと思います」と答えるそらる。
そこから、事務員Gの伴奏でカバー曲2曲を披露。1曲目はカンザキイオリの“命に嫌われている。”。慟哭するような激しい原曲とは違うゆっくりとしたピアノアレンジが、深く染み入るような歌声にマッチする。2曲目はHeavenzの“それがあなたの幸せとしても”。2曲とも生きることへの苦しみと向き合ったテーマ性の強い楽曲だ。生と死のはざまを揺らめく危うさをそらるの落ち着いた丁寧な歌が包み込んでいくようで、「聴けてよかった」と感じる2曲だった。
そこで事務員Gは退場し、“アンサー”が流れるなか、そらるは再びトロッコに乗り込む。
行きの“ありふれた魔法”と帰りの“アンサー”、どちらもファンやバンドメンバーなど、そらるが自分を支えてきた人たちに対する感謝を込めた曲だ。客席の中を渡っていくのにこの2曲ほどふさわしいものはない。

センターステージに戻ると、シングルのカップリング曲である“ゆきどけ”と“長い坂道”を披露。そして、橙の照明とページをめくり思い出を辿るような映像とともに“オレンジの約束”が歌われた。この曲は、2015年に発表された“夕溜まりのしおり”のアンサーソング(メロディのベースにもなっている)。≪あの日と同じオレンジが僕を見てるから≫(“夕溜まりのしおり”)と≪オレンジの思い出は色褪せない≫(“オレンジの約束”)など、歌詞もリンクしたつくりになっており、2曲の間の時の流れを感じさせる。
歌い終えたそらるは、言葉を選びながらゆっくりと語った。
「『ワンダー』は活動10年の一区切りにしようと思って作ったアルバム。だから色々思い出さなきゃいけなくて。思い出したくないこともあるけど、後悔はない。“夕溜まりのしおり”を作ってよかったなと思います。最高の人生だなと思うんですよね」
「趣味で始めたことがこんなことになるなんて。初めてのライブのお客さんは40人で、それもすごいなと思ったし、1万人以上いる今も同じようにすごいと思う。続けてきてよかった」

これからもよろしく、と晴れやかに言って、最後の曲“ユーリカ”が始まる。音の粒がきらめくような幸福感の強い音楽のなか、スクリーンではドット絵のゲーム風画面を青い髪の男の子が歩いていく。男の子は女の子と出会い、ドラゴンに乗って空を飛び、冒険を繰り広げる。ドラマチックなその物語はなんだかそらるの人生そのもののようで、「最高の人生」という言葉を象徴しているようにも思えた。

アンコールでは再び登場した事務員Gとともに“10”を披露。そして、事務員Gの音頭によりバースデーソングとケーキが用意される。そらるはサプライズの演出に驚きつつ、ステージの端から端まで走りながら観客のペンライトに息を吹きかけて火を消す真似事で茶目っ気を見せた。
「好きって言ってても離れていく人もいて、それでもずっと聴いてくれる人がいて。みんなに祝ってもらってラッキーな人生です」

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「また会おうぜ!」という言葉と共に、アルバム表題曲“ワンダー”が流れ出す。
突き抜ける空を思わせるような晴れやかな曲だ。アルバムの最後を飾るこの曲には、さらなる未来への意欲と期待が詰まっている。≪世界中が恋するような夢を見せよう≫という歌詞の通り、カラフルな紙吹雪の演出と色とりどりにきらめく映像もあいまって、眩しい夢を見ているようだった。

「さまよう」と「奇跡」、『ワンダー』には二つの意味をこめられている。ただの趣味から始まったことが、1万人以上を前に歌うような今になったこと。それはたしかに「できすぎている」し、「奇跡」のようだろう。いいことばかりじゃなかったとしても、傍から見れば夢物語のような話だ。けれど、奇跡だけでたどりつけた場所のはずがない。迷いながらも止めなかった行動と好奇心があったからこそ、10年前から地続きでつながる「最高の人生」と呼べる現実の今がある。11年目から先もその旅は続いていくし、そらるの奏でる音も鳴りやむことはないだろう。そんな新たな期待を胸に灯す一夜となった。(満島エリオ)
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