クリープハイプ/下北沢CLUB Que

クリープハイプ/下北沢CLUB Que - All photo by 松木宏祐All photo by 松木宏祐

●セットリスト
1.栞
2.愛の標識
3.イト
4.一生のお願い
5.さっきはごめんね、ありがとう
6.鬼
7.おばけでいいからはやくきて
8.NE-TAXI
9.けだものだもの
10.グレーマンのせいにする
11.ボーイズENDガールズ
12.クリープ
13.5%
14.愛す(新曲)
15.イノチミジカシコイセヨオトメ
16.手と手
17.私を束ねて
18.身も蓋もない水槽
19.HE IS MINE
20.左耳
21.二十九、三十
22.風にふかれて


クリープハイプが11月16日に下北沢CLUB Queで「10周年記念ライブ」を開催した。

結成やデビュー10周年ではなく、「現メンバーの体制になってから10年」という意味を持つ今回のアニバーサリー企画。先月には2016年発表の楽曲“バンド”を再構築した“バンド 二〇一九”が配信リリースされ、ノンフィクション書籍『バンド』も発売。さらに、来年2月からは10周年記念ツアーの開催が決定している。これらの企画内容はどれも、クリープハイプがこの4人から成り立っていることの重要さと、バンドが今どれほど良い状態なのかを伝えてくれるものだ。レーベル移籍や解散の危機もあった苦闘の10年を経て辿り着いた記念日に、4人が同じステージ上でクリープハイプの音楽を鳴らしている幸せを実感したライブの模様をレポートしたい。

クリープハイプ/下北沢CLUB Que

下北沢CLUB Queはキャパ280人ほどのライブハウスで、どこから観ていてもステージとの距離はかなり近い。満員のフロアにはすでに熱気が漂うも、観客はどこか緊張しているような様子で静かに開演を待っていた。暗転したステージをシンプルな照明がじんわりと照らし、拍手に迎えられながらメンバーが登場。1曲目“栞”でライブがスタートすると、観客の腕が一斉に上がり力強い手拍子が響いた。目の前で繰り広げられる迫力満点の演奏に、大きい会場で観るのとはまた違う感動と高揚感が湧き上がってくる。2曲目“愛の標識”では尾崎世界観(Vo・G)が「簡単には飲み込めない10年」と歌詞を変えて歌い、そこから“イト”、“一生のお願い”と比較的最近の楽曲が続いた。下北沢CLUB Queのステージに立つ4人を観ているとまるで10年前にタイムスリップしたようにも感じられるのに、聴こえてくる音は今現在のクリープハイプというのが何とも不思議な感覚だ。

この日はTwitterでも彼らの10周年を祝う言葉が沢山呟かれていたし、ライブハウス全体にも祝福ムードが広がっていた。しかし露骨に喜びを表に出すこともなく、メンバーはいつも通りストイックに演奏し、尾崎は顔を歪めて感情を振り絞るように歌う。ファンから送られるクリープハイプへの愛に対して、変に過剰なサービスはせず、いつもと同じように全力で演奏することで愛を返す彼らの姿勢はバンドとして最も正しく健全だ。そんなクリープハイプだから、これからも追っていきたいと思わせる。

クリープハイプ/下北沢CLUB Que

「10周年とかどうでもよくて、叩きつけるようなライブがしたいと思ってます」尾崎がそう告げると、おどろおどろしい雰囲気の中で“鬼”へ突入。そこからMCも挟まず“おばけでいいからはやくきて”、“NE-TAXI”、“けだものだもの”と次々に曲を畳みかけ、尾崎は「昔を思い出すわ。余計なMCとかいらないな」とポツリ。「甘い曲を歌います」そんな言葉から始まった“ボーイズENDガールズ”、ミラーボールの光がフロア中を巡った“5%”を経て、ここでまさかの新曲“愛す”(読み:ブス)が披露された。ゆったりと身体を揺らしたくなるナンバーだが、やっぱりどこか切なく、心をも揺さぶってくる。また新しいクリープハイプの奥行きを予感させる新曲に、フロアからは興奮が入り混ざる歓声が沸いた。

ライブもいよいよ終盤に差し掛かり、“イノチミジカシコイセヨオトメ”、“手と手”を立て続けにプレイ。書籍『バンド』でも書かれているように、この2曲は「やるせない気持ちを、ビートに乗せて疾走させる」というクリープハイプのひとつの方法を確立した作品。だからこそこの日のライブでは、歌詞で書かれていること以上の感情が伝わってきた。長谷川カオナシ(B)が“私を束ねて”を飄々と歌い上げた後は、“身も蓋もない水槽”で再びフロアの熱が上昇していき、最大の盛り上がりに達した“HE IS MINE”では≪セックスしよう≫の大合唱が起こった。

クリープハイプ/下北沢CLUB Que

「ありがとう、次で最後の曲になります。普通のライブだと思って楽しく、一生懸命向き合ってやりました。メンバーも今日で10年、おめでとうございます」尾崎がそう言うとフロアから「おめでとう!」の声が飛び交い、メンバーのクールな表情が少し緩んだように見えた。ラストナンバーとして披露されたのは“風にふかれて”。クリープハイプからの愛をしっかりと受け取った観客は、祝福と感謝の気持ちを込めた温かい拍手で応え、その拍手は終演後もしばらく鳴りやまなかった。

≪2009年11月16日 アンコールでの長い拍手≫――そう歌われている“バンド 二〇一九”をこの日のライブで聴けるかもしれないと考えていたのは、きっと私だけではないだろう。しかしこの曲もアンコールもやらず、それが何よりもクリープハイプらしくて、なんだか嬉しくもあった。ただただ幸せな余韻と新曲の衝撃と来年のツアーへの期待感をたっぷりと残し、10周年ライブは幕を閉じた。(渡邉満理奈)

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