BECK @ ZEPP TOKYO

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BECK @ ZEPP TOKYO - pic by Yuki Kuroyanagi/09.03.25@NHKホールpic by Yuki Kuroyanagi/09.03.25@NHKホール
08年発売の『モダン・ギルト』を引っさげてのベック日本ツアー。2007年4月に行われた日本ツアー以来の来日公演となる。

ツアーは18日の仙台公演からスタート、その後名古屋→大阪に続いての東京3days公演となる。レーベルのオフィシャル・サイトに19日、「移動中の新幹線で事故」があり、名古屋公演では「腕を吊った姿で登場」との書き込みがあったので心配だったが(そのため名古屋公演ではギター演奏ナシだった)、22日の大阪公演では無事ギター演奏に復帰したそう。一大事には至ってなかったようで、本当によかった。

24日、25日のNHKホール公演も観たので、レポートも3日間分の模様をざっくり交えながら。舞台セットは3日間共通。楽器の後ろに30体近く設置されている白いマネキンが、街の雑踏を連想させる。その背後、天井いっぱいまで垂らされた暗幕には、小さな発光ダイオードが規則正しく大量に貼り付けられており、光で点描画のように、各曲用それぞれの絵柄が描き出されていく。衣装は、日ごとに変えてきていて、24日はチロルハットに凝ったデザインのクラシカルなモーニング風セット・アップ+リボンタイという「衣装」っぽい出で立ちだったが、25日は黒っぽいパンツにTシャツ、上に黒いコート+茶系チェックのシャツという普段着っぽいラフなスタイル。千秋楽も同様にカジュアルなテロっとした黒パン+ジャケット。またセットリストも日ごとに変更されていた。確認したところ仙台から毎晩セットリストを変えてきていたようだ。

ちょっと乱暴だが、今回の3公演を一言でまとめてしまうと、装飾を削ぎ落とし「素」をさらけ出した『モダン・ギルト』のモードが反映されたパフォーマンスだった。近年、パペットが登場したり(07年日本武道館)、食卓団欒風ステージ(05年のフジ・ロック)があったりと、演出上のアトラクションでもオーディエンスを「あっ」といわせてきたベックだが、今回そうした仕掛けはなし(24日には開演前に余興的にキーボードのブライアンによる唐突なマジック・ショウがあったりしたけれど)。だけど、そんな「装飾」がないからこそ、あらためてベックのミュージシャンとしてのたくましさが浮き彫りになるパフォーマンスだったのだ。

ドラム、ベース、ギター(モデルばりの長身・美形の女の子!カッコイイ)、キーボードのサポート隊の面々は、手堅くはあるものの、ミスタッチやテンポが揺らいでいるのがわかる瞬間があったりと、決して鉄板演奏タイプではない。けれど、押さえるべきところは押さえて、グルーヴのツボは外してこない。だから気持ちいい。そもそも曲の骨格がしっかりしているし。“レプリカ”などはまさにその典型。

24日は席が前列のブロックだったので、ベックの表情も見ることができたのだが、時々「あれっ、これで良かったっけ?」という顔をしながらエフェクターを切り替えたりしていた。だけど、余裕なのだ。なんだかリラックスとかいう次元を超えて、仙人のような穏やな空気すら漂わせてもいた。そんな穏やかさと同時に、背中合わせで、張り詰めた緊張感と凄味を漂わせているところも仙人っぽい。

24日は“セックスロウズ”で高音域の声が出ていなかったり、しきりにローディーに話かけに行ったり(音作りなど気になる点があったのだろうか?)、顔の表情もあまり変化がなく本調子ではないようだった。一方で、25日はやりたいことができている、という手ごたえが客席にまで伝わってくるパフォーマンスだった。“ジャックアス”などドリーミーな曲では、ホール公演ならではのスケール感も堪能できたし、“ゴールデン・エイジ”“アスホール”などのアコースティック・パフォーマンスも最高だった。

全日『モダン・ギルト』の楽曲を中心にしたセットリスト。捨て曲ナシのアルバムだと思っていたが、ライブであらためて確信。過去作品の楽曲も“ルーザー”のオープニングがブルージーになっていたりとアレンジが変えられている。

特に最終日ZEPP公演は、オールスタンディング公演仕様とばかりに、オープニングを飾った“デビルズ・ヘアカット”もBPMを上げた、ゴリゴリのガレージ・ロック・チューンに様変わり。その後の流れも、千秋楽ということもあってか、現在の「素」モードなベックの、「無骨」で「攻撃的」な側面が凝縮された展開に。「無駄を極限まで削ぎ落としたものこそ、実は一番攻撃的なのだ」という真理を実証するような、見事なライブだった。“マイナス”や“ナウジア”といったアグレッシヴなナンバーが次々繰り出される。フロアも、一体感という面では3days髄一の盛り上がりをみせていた。ベック自身もそんなフロアとのケミストリーから「ハッピー・サクラ」などとMCもみせていたし、アンコールでは当初セットリストになかった“デブラ”で、肉感的なファルセット・ボイスを披露してくれた。

また、今の「肩の力が抜けた攻撃性」がはまっていたのが、意外にもオールド・スクール・ヒップホップ・ノリのラップ・チューン。特にZEPP公演のモードにずっぱまりだった。メンバー全員がステージ前面に出てきてハンディ・ドラム・マシーンを操る“ヘル・イェス”や“ホエア・イッツ・アット”、あと“クラップ・ハンズ”“グエロ”“ビール・カン”なんかも、汗臭くない文系のブロック・パーティーという感じで楽しい(ついでに、ラップをするベックの動きがかわいすぎるのだ)。そもそもベックはインディ・ロック・ファンが親近感をもてる形でヒップホップを進化させた男でもある。ある意味原点ともいえる「等身大」なパーティ空間を、ベック自身が今また望んでいるようにも思えた。とにかく楽しそう。一方で、エンターテイナー系アッパー・チューンともいえる“セックスロウズ”なんかは、もちろん今のアレンジもいい部分はあるけれど、個人的に少々もの足りない気も。

幸か不幸か、結果的にコンディションの違う3公演を観ることになったわけだが、そこでわかったのは、そうした調子の良し悪しとは関係なしに、あの歌声自体に、ものすごい求心力があるということ。本当に味がある。(森田美喜子)
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