●セットリスト
1.風とリボン
2.ハルノヒ(グリーンラベルver)
3.ユラユラ
4.真夏の夜の匂いがする
5.風のささやき
6.裸の心
7.マリーゴールド
8.君がいない夜を越えられやしない
9.君はロックを聴かない
45分という短い時間ながら、終始様々な思いが湧き上がる弾き語りライブだった。無観客で行われる配信ライブだからこその体験という感慨と、けれどもやはり生で観られる日が待ち遠しいという思いと。そんな「だからこそ」と「けれども」がない混ぜになる気持ちを、ひとりでステージに立つあいみょんと視聴者とが、はっきりと共有しているような濃密な時間だった。観客のいない日比谷野外大音楽堂。そのガランとした客席の風景は、確かに空っぽなのだけれど、なぜだかそこに多くの人がいる様子を鮮明にイメージすることができた。
「AIMYON 弾き語りTOUR 2020 “風とリボン”」は、本来ならば5〜6月にかけて開催される予定だった弾き語りツアーで、日比谷野音もその会場のうちのひとつ。ライブができない気持ち、ライブに足を運べない気持ち、両者の気持ちが、この日の東京の曇り空にも映し込まれているみたいだった。ライブが始まる10分前からすでに多くの人が待機している。オープンのチャットでは、開演を待ちわびる人たちのつぶやきがものすごいスピードで流れていく。この待ち時間の雰囲気も、会場がざわざわしているあの時間の空気感とよく似ている。あいみょんから「間もなく開演」のメッセージが流れると、わあっと歓声が湧くように、チャットのコメントが先ほどよりさらに速いスピードで流れていく。いよいよスタート。
ゆっくりとステージに現れたあいみょんが、アコースティックギターを静かに弾き始めると、歌い出したのは“風とリボン”という名の新曲。その後、彼女自身がTwitterに綴ったところによると、これは今回の弾き語りツアーのために作った楽曲で、本来ならば各会場でこの歌が披露されているはずだったと。その貴重な新曲のお披露目は、この日の嬉しいサプライズ。柔らかくしなやかなあいみょんの歌声が、心を解きほぐしてくれるようなオープニングだった。続いて“ハルノヒ(グリーンラベルver)”のイントロが軽快に鳴り響いて、グッドメロディが滑るように流れてくると、すっかりあいみょんのライブにリアルで参加している気分になれた。途中で歌詞をトチって「あー間違えたー!」と叫ぶ姿も、むしろ嬉しく感じられるほど。
その後のMCでは「歌ってる最中に心臓がドクドク速くなってきて。自分では緊張してへんと思ってたけど、緊張してました」と笑っていた。続く曲は、最新シングルのカップリングとして収録されている“ユラユラ”。あいみょんらしいフォーキーなポップスがとても良いリズムで耳に飛び込んでくる。会場の景色を映し出すカメラワークと相まって、東京の空にそのまま吸い込まれていきそうな美しいメロディ。夕暮れ時の穏やかな空気感と、あいみょんの芯の強い歌声にぐいぐいと引き込まれていく。もし今、自分がその場所にいられたならば──このライブ中にそんな思いが多くの人の胸に何度も何度も押し寄せたことだろう。
一方で、“真夏の夜の匂いがする”では、力強いストロークやダークな歌声に、逆に「ひとり」で集中して聴き入る楽しみを見出すこともできた。“風のささやき”の生々しいブレス音にしても、ギターの演奏を止めて歌声だけが響く場面にしても、映像でひとり集中して見ているからこそ、あいみょんの歌にある繊細さを感じ取ることができているのかもしれない。不思議な感覚なのだが、画面越しなのに、あいみょんの歌がとてもダイレクトに伝わってくるのだ。カメラのアングルや切り替えの妙もあると思う。しっかりと、誰もいない客席の風景まで映してくれて、そしてその上に広がる空の色をも感じ取れて、そこに吹く湿った風の肌触りまで想像することができて、その体感イメージはそのまま、最新シングル曲“裸の心”へとつながっていく。美しいバラード。サビへと至る伸びやかな歌声は、イヤホンの音量をさらに上げても、格段に心地好い。歌い終わりには、客席から大歓声や波のような拍手の音が聞こえてくるような心地がした。そして“マリーゴールド”の何度耳にしても「懐かしい」メロディ。アコースティックで歌い上げられるバージョンで、ギターの音色もあいみょんの深みのある歌声も、この野外の景色と見事に調和していた。
終盤に用意されたのは、メジャーデビューシングルのカップリング曲として収録されている“君がいない夜を越えられやしない”だった。久しぶりにライブで演奏されるこの楽曲を、この日の短いセットリストの中に入れてきた意味をふと噛みしめる。人と人とが距離を保って生活をしなければいけない日常、そして、リアルでライブを体感することもままならない毎日を、とびきりフィジカルな言葉で綴られたラブソングで吹き飛ばすかのように、歌もギターもエンディングに向かうにつれて強さを増していった。その歌に様々な思いが溢れる。そのあと、あいみょんは「今回が最初で最後の無観客ライブにしたいです」とつぶやいた。そして「次は会場でみんなと会いたい」と。
そうしてラストに演奏されたのは“君はロックを聴かない”。言わずもがな、ライブではシンガロング必至の名曲だ。この日の大サビでは、あいみょんはマイクから離れて、まるで全国で口ずさんでいるはずのオーディエンスの姿を思い浮かべるようにして、天を仰いだ。日本中に、いま同時に歌っているはずの人たちがいるのはわかっていながら、その顔を、声を、その面前で感じられない彼女のもどかしさが画面越しにも伝わってくる。そのもどかしさがあるからこそ、この日の“君ロック”はとても感動的だった。そしてその分、より一層、現場で音を感じることへの渇望が募った。最大同時視聴数は約13万、総視聴者数としては57万人以上が視聴したこの日のライブ。多くの視聴者が「次こそは会場で」という思いを強く共有したはずだ。その気持ちが溢れ出てくるように、ライブ配信終了後もチャットへの書き込みは長らく止まらなかった。
この日のレポートは、7月30日(木)発売の『ROCKIN’ON JAPAN』9月号でも、また別の角度でじっくり展開したいと考えているので、もしよければ手に取ってみてください。(杉浦美恵)