BIGMAMA @ 恵比寿LIQUIDROOM

BIGMAMA @ 恵比寿LIQUIDROOM - BIGMAMABIGMAMA
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開演30分前に恵比寿駅に降り立つと、駅構内のコインロッカーに荷物を預けて早々にTシャツ&首タオル姿になっている若者たちの姿を見かけた。『Dowsing For The Future〜ここ掘れワンワンツアー』のファイナルを迎えるリキッドルームのフロアは、早くも期待の高まりと熱気が立ち込めていて空調が追いつかない。まだ何もしていないのに汗が吹き出るようだ。19:00を廻っていよいよBIGMAMAのメンバーが登場し、『Dowsing For The Future』のオープニング・トラックである“Paper-craft”をスタートさせる。リアドの硬質で鋭角的なドラミングに柿沼のディレイ・ギターが重なり、パーカーのフードを被った金井の少年性を宿したボーカルが立ち上がってゆく。ダンサブルに展開するコーラス部では、堰を切ったようにフロアでのクラウド・サーフが次々と生まれていった。やはり一曲目からオーディエンス側の迎撃態勢が異様な沸騰を見せている。そんな爆音とフロアの狂騒をくぐり抜けて鳴り渡る、東出のエレクトリック・バイオリンの凛とした旋律にも、特別な存在感が感じられていた。

ステージ序盤は、『Dowsing For The Future』からの楽曲を立て続けに披露する。それにしても、BIGMAMAの楽曲は明らかにスリリングでダイナミックなロック・バンド・サウンドなのだが、ときにオリエンタルなテイストを感じさせることがあって、それが妙に耳に馴染む。東出のバイオリンが二胡のようにメロディを奏でるのもあるが、例えば“Sleeping Beauty〜二度寝する眠れる森の美女〜”などでは歌メロに引っ張られてそのテイストが顕著に出ているのだな、と感じられた。もともと洋楽のメロディック・パンクに刺激を受けて始まったバンドなのだが、こういうソングライティングにはやはりオリジナリティが感じられる。あと、この曲の歌詞は甘いメルヘンを叩き潰した跡にリアルな物語が生まれていて、悲しいながらも笑える逸品だ。「ディレクターから、アルバムに日本語のサブ・タイトルをつけていいよ、って言われたんだけど、『ここ掘れワンワン』ぐらいしか思いつきません、って言ったら即、却下されて。でもいざツアーのポスターが出来上がったの見たら、バーンって入ってたんだよね。ここ掘れ、って言いながら手探りで来ましたが、今日は全部出し切るつもりで行きます」。そんな金井のツアー・タイトル秘話MCを挟み、今度は往年の楽曲群も織り交ぜてのプレイだ。ギター・リフとバイオリンのメロがシンクロして高揚感を煽る“Today”、爆発的なメロディック・パンクに美しい歌メロが映える“look at me”など、切に訴えかけるようなナンバーが更に会場の熱量を高めてゆく。

「俺、今年は丑年、牡牛座、O型の三役揃った年男なんだけど、同じって人いる? いなきゃ自分のために歌うって言ってるんだけど。あ、いる?じゃあ、君だけのために歌います」。オーディエンスの大喝采の中でスタートしたのは当然“Moo”。フロアからは自然にハンド・クラップが沸き上がってゆく。そして、ある意味BIGMAMAの記号とすら言えるバイオリンを敢えて排し、安井のグルーヴィーなベース・プレイから始まるレゲエ風の“make a booboo”、「季節外れで申し訳ないけどクリスマス・ソング」と金井が告げて東出がピアノを弾くキャッチーなブギー・ポップ“My Greatest Treasure”と、バンドとしては冒険でありながらソングライティングの面で大成功を収めた曲群が披露されていった。東出のバイオリンはBIGMAMAにとって大きな武器だが、それを封印して自らにハードルを課すようにソングライティングに向かい、そしてこの新境地に辿り着いたという事実の意味は大きい。決してその事に触れたわけではないと思うのだが、金井が「自分らしさってのを突き詰めて考えたときがあって、結局、自分なんてのは点にしか過ぎなくて、出会いや別れが自分ってものを形作っているんだと思い至って。そのことを歌った曲です」と“now you’re not here”をプレイし始めたとき、このバンドのキャリア運びが消極的な「守り」に向かうことは決して無いのだろう、と感じた。メンバーの脱退で一度は活動休止まで経験しているBIGMAMAは、失うこともまた己の一部分である事を知り、それを音楽に、歌に紡ぎ上げることができるバンドだ。

大きなシンガロングに支えられた“それはきっと天使が長く勤まらない理由”から、激しくパンキッシュでクラウド・サーフ連発の“Neverland”まで駆け抜けたところで、柿沼が今ツアー恒例のコール&レスポンス「ここ掘れ!」「ワンワン!」を開始する。なんか「夕焼け!」「ニャンニャン!」みたいだな。別に知らなくていいけど。そして金井は、「このツアーが終わったら、特にやることもないんでまたすぐアルバム作ります!」と約束してくれた。大ぶりでエモーショナルな“Cinderella〜計算高いシンデレラ”のシンガロングに東出はバイオリンの弓を指揮棒のように振り回し、いよいよ本編最後の曲“Dowsing For The Future”へ。最新アルバムのラスト・ナンバー2曲を届けてきっちりと未来へ向かう。金井は「自分が歌える曲」よりも「自分が歌いたい曲」を書いてしまうソングライターであり、表現者だ。国内外問わず、こういうアーティストの存在は貴重である。彼は声域も声量も秀でたシンガーではないが、だからと言ってそれに見合った作曲も決してしない。歌いたい言葉とメロディを迷いなく吐き出すことが出来る資質の持ち主なのである。歌うのが上手い人はそう歌えばいい。生きるのが上手な人はそう生きればいい。でも、我々が好きなロックという表現は、残念ながらときにそれほど利口ではないし、そしてより自由なものなのだ。(小池宏和)

1.Paper-craft
2.Gum Eraser
3.Sleeping Beauty〜二度寝する眠れる森の美女〜
4.CPX
5.The Game is Over
6.CHAIN
7.Today
8.look at me
9.Moo
10.Pinocchio〜開き直ったピノキオ〜
11.make a booboo
12.My Greatest Treasure
13.“MISSION 481”
14.now you’re not here
15.『それはきっと天使が長く勤まらない理由』
16.We have no doubt
17.HAPPY SUNDAY
18.Neverland
19.Cinderella〜計算高いシンデレラ〜
20.Dowsing For The Future

アンコール1
21.新曲
22.the cookie crumbles

アンコール2
23.Little cloud
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