おいしくるメロンパン×サイダーガール/恵比寿LIQUIDROOM

おいしくるメロンパン×サイダーガール/恵比寿LIQUIDROOM - All photo by白石達也All photo by白石達也

8月12日、おいしくるメロンパンの2マンライブが恵比寿LIQUIDROOMで行われた。対バンはサイダーガール。この2バンドでのライブは、約4年ぶりだ。サイダーガールのツアーライブにおいしくるメロンパンが招かれて以来、互いにシンパシーを感じていながら、その後はなかなかスケジュールが合わず対バンが実現しなかったという。それがこの日、ようやく実現。コロナ禍でのライブハウスはフルキャパの動員というわけにはいかなかったが、チケットは完売。もちろん感染症対策は万全に行った上での開催となった。

おいしくるメロンパン×サイダーガール/恵比寿LIQUIDROOM

『真夏の夜の正夢』というタイトルのとおり、この日は2バンドとも、それぞれの形で「夏」を強く感じさせるライブで魅せてくれた。先手はサイダーガール。“エバーグリーン”での幕開け。この2マンライブの皮切りにふさわしい、駆け抜けるように、夏の切ない思いを歌う楽曲。エモーショナルなギターサウンドに、フロアではたくさんの腕が上がる。続けざまに披露した“約束”がまた、真夏のジリジリとした焦燥感を煽る。この冒頭2曲で、観客の頭の中にはくっきりと、暑い日差しに焼かれる夏の景色が映し出されたことだろう。その熱をクールダウンさせるかのように、“なまけもの”が気持ちの良いテンポ感で繰り出される。《あーあ 何にもやりたくないわ》という歌い出しが、まるで今の時代の気分を映す。力の抜けた現代のブルース。この日のサイダーガールは短い時間のなかで、緩急豊かに「夏」の感情を表現していった。

おいしくるメロンパン×サイダーガール/恵比寿LIQUIDROOM

“クライベイビー”のポップなバンドサウンドは曲が進むにつれ、よりアグレッシブになっていき、そのプレイにフロアでは大きな拍手が沸き起こった。観客は声を出すことができない分、心の動きをハンドクラップやハンズアップで表現する。続く“待つ”では、知(G)のギターカッティングが自然とフロアを揺らす。Yurin(Vo・G)がハンドマイクで放つグルーヴ感たっぷりのR&B。ガラリとバンドの佇まいが表情を変えた。フジムラ(B)のスラップ、吉田雄介 (Dr・サポートメンバー)の16ビート──サイダーガールのバンドサウンドの奥深さを見せつけられる。

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このコロナ禍で、ライブも思うようにできなかったり、ワンマンでの開催が中心になっていくなかで、こうして久しぶりにおいしくるメロンパンと対バンできたことの喜びをYurinが語り、「まだパンパンのライブハウスっていうわけにはいかないけど、また前みたいな環境で対バンできたら嬉しい」と、終盤はさらに、「夏」の空気を熱いバンドサウンドで彩っていく。「みんな大声で歌ったりできないけど、ちょっとでも踊れる曲を。自由に、それぞれの楽しみ方でいいので」と“メランコリー”の演奏が始まると、思い思いに腕が上がり、会場中がそのグルーヴに身を預けた。そして最後は “週刊少年ゾンビ”。最高にフロアを熱くしてステージをあとにした。

おいしくるメロンパン×サイダーガール/恵比寿LIQUIDROOM

続くおいしくるメロンパン。前回のワンマンツアーでは、最新ミニアルバム『theory』のコンセプトにも沿うような、季節の循環をライブで表現した彼らだが、今回のテーマは言わずもがな「夏」。ギュッと濃縮したセットリストには、サイダーガール同様、バンドとして描いてきた様々な「夏」が詰め込まれていた。メンバーがゆっくりと登場し、深いリバーブのギターサウンドが響く長尺のイントロが“水葬”の世界へと誘う。その不思議な世界から、“透明造花”のスパークするバンドサウンドで、今度は刹那の夏へと鮮やかに切り替わる。アップテンポな曲だが、いつにも増してスピードが乗って、そのまま“look at the sea”へとなだれ込んだ。この日は「夏」というコンセプトでコンパクトにセットリストをまとめたからか、これまでにないほどアグレッシブなガレージサウンドで畳み掛けていく。おいしくるメロンパンの音楽とは、編集の仕方、アレンジの仕方で、いかようにも様々な景色を生み出していけるものだと改めて気づかされる。“紫陽花”のひたすらに駆け抜けるようなスピード感も、この日のライブならではだった。一言で言えば「速い」おいしくるメロンパンを存分に堪能した新鮮な序盤だった。

おいしくるメロンパン×サイダーガール/恵比寿LIQUIDROOM

世間一般でイメージする「夏」と、おいしくるメロンパンが描くそれは、まるで趣が違うこともあり、彼らの曲を「夏に聴く曲」とは思わないのだが、それでも改めて、彼らが描く楽曲のモチーフとして、「夏」は重要な季節であることに気づく。“亡き王女のための水域”が描く海の景色は夜の闇の中。空間系のエフェクトを多用し、原駿太郎(Dr)のボレロのようなスネアのリズムだけがクリアに響く。そこに乗る強く透明感のあるナカシマ(Vo・G)の歌声。鮮やかなコントラストで、悲しみと力強さを描くようなアレンジは、この2021年の夏をまた違う側面から映し出しているかのように聞こえた。

おいしくるメロンパン×サイダーガール/恵比寿LIQUIDROOM

ナカシマは対バン相手のサイダーガールについて、「大好きだった。僕がやりたい音楽を突き進めたら、このバンドになっちゃうっていうくらい。ガンガン意識していたそのバンドと、肩を並べて2マンできるなんて、まるで正夢のようですね」と、ライブのタイトルを絡めて語る。そして峯岸翔雪(B)が、「今日も今日とて猛暑日ですが、その暑い日差しをさえぎるかのごとく、このけたたましいMUSICをとくとお聞き遊ばせ」と前口上のようなMCでつなぐと、超絶アップテンポにアレンジされた“シュガーサーフ”が披露された。ただ速いだけではない。3人のアンサンブルの進化形がここにあった。スピードも手数もエグいのに、緻密なプレイで決して嫌なぶつかり方をすることがない。たまらずフロアの反応も大きくなる。矢継ぎ早に、ドラムのビートがループする“架空船”へ。ポエトリーリーディングを挟んだ間奏のエキセントリックなギターサウンド。その展開が見せる不穏な夏の景色。押し寄せるような、海鳴りのようなサウンドにあっけにとられ、曲が終わってもオーディエンスは拍手をするタイミングさえ忘れてしまう。

おいしくるメロンパン×サイダーガール/恵比寿LIQUIDROOM

そんな観客の目を覚ますかのように原が力強いビートを刻み始めると、クリアなナカシマのギターが響いてラストの“epilogue”へ。前曲とのメリハリもあって、この曲がとても爽やかな青春感を見せていた。夏だ。サイダーガールとの対バンライブだったからこその響きでもある。ソリッドなアンサンブルにも、どこか心地好い清涼感が滲んでいた。そして、一度ステージを去る時間さえも惜しいというように、「このままアンコールにいこうと思います」と、ナカシマは“斜陽”をすぐさま歌い始めた。夏の終わりを感じさせるような、明るいけれど性急なバンドサウンドに、儚さと名残惜しさが漂う。濃密な「夏」の余韻を残して、この日のライブは幕を閉じた。サイダーガールとおいしくるメロンパン。それぞれが描いた「夏」の景色を堪能した夜だった。(杉浦美恵)

おいしくるメロンパン×サイダーガール/恵比寿LIQUIDROOM



【セットリスト】
■サイダーガール
01.エバーグリーン
02.約束
03.なまけもの
04.クライベイベー
05.待つ
06.ID
07.ライラック
08.メランコリー
09.週刊少年ゾンビ

■おいしくるメロンパン
01. 水葬
02. 透明造花
03. look at the sea
04. 紫陽花
05. 亡き王女のための水域
06. 色水
07. シュガーサーフ
08. 架空船
09. epilogue
10. 斜陽
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