●セットリスト
01. Breathing
02. Space Sonic
03. Supernova
04. チーズケーキ・ファクトリー
05. Mountain Top
06. Fire Cracker
07. Stereoman
08. 風の日
09. The Autumn Song
10. No.13
11. Missing
12. Perfect Summer
13. サンタクロース
14. Sliding Door
15. Salamander
16. ジターバグ
17. 虹
18. スターフィッシュ
19. 瓶に入れた手紙
20. Make A Wish
21. Strawberry Margarita
Encore
22. Goodbye Los Angeles
23. 高架線
24. Pizza Man
Double Encore
25. 金星
「野郎ども、今日は全員ハッピーで会場ゲートを出るぞ! よろしくお願いします!!」と、本番前のステージに姿を見せた細美武士(Vo・G)は、周りの人も自分自身も絶対に怪我をしない、という目標を掲げて呼びかけていた。「The End of Yesterday Tour 2023」(本稿執筆時点では北海道での振替公演3本を残している)に続き、国内外の夏フェス出演と並行して繰り広げられてきた大規模会場ツアー「Get it Get it Go! SUMMER PARTY 2023」。たどり着いた舞台は、「THE BOYS ARE BACK IN TOWN TOUR 2018」以来2度目となる千葉・ZOZOマリンスタジアムである。
スカルとファイヤーパターンでデザインされたバンドロゴがスクリーン上に浮かび、扇動的なEDMが鳴り響くオープニングはまさにサマーパーティーだ。しかし、大喝采に包まれながら生形真一(G)、高田雄一(B)、高橋宏貴(Dr)が位置につき、細美が「いこうぜトーキョー!!」と掛け声を放つや否や、“Breathing”でひとつの塊となったバンドサウンドが押し寄せてくる。新作曲でも一瞬でそれとわかる、ELLEGARDENの呼吸だ。
メンバー個々の音が動きを増してくる“Space Sonic”では、あたかもオシロスコープ(音の波形表示)かオーロラのようにバンドサウンドとシンクロするCGアニメーションが、演奏のダイナミズムを視覚化してスタジアム全体に伝えている。カラッとした米西海岸テイストの“チーズケーキ・ファクトリー”では、さっさとオーディエンスに歌を預けてしまっていた。昨年末に届けられた、実に16年ぶりのアルバム『The End of Yesterday』収録曲も、ツアーを通してすっかりこなれている。そしてエルレ活動再開後の決意の結晶と呼ぶべき“Mountain Top”。ここでも刺激的な映像演出が使用されているのだが、楽曲に込められたエモーションのスケール感が、そんな演出さえ追い越してゆくようだ。
ウブこと生形は、ニューアルバム発表やツアーを経て、あらためて現役のバンドとしてマリンスタジアムに帰ってきたことに触れつつ「ELLEGARDENは、誰にも負けないから!」と歓声を誘う。MC後も一瞬で燃え盛る“Fire Cracker”、絶対の信頼をもって初っ端からオーディエンスに歌を預ける“風の日”と、これが本当にスタジアムライブなのかと目を疑うほどの濃密な音楽の対話が繰り広げられていった。そして、バンドロゴを海賊旗のように掲げて航海する帆船のアニメーションを背負った1曲は“No.13”だ。
視界いっぱいのバウンス&シンガロングを連れた“Missing”のあとには、情緒豊かで美しいサウンドのレイヤーが織り成す“Perfect Summer”。数々の名曲たちが並ぶ中にも、新作曲の雄弁さには息を呑む。ここで高橋は、「俺たちがどれだけちっぽけで馬鹿か、わかってる。こんなでかいステージに立てて、俺はドラマーだから座ってるけど、嬉しいです。こんな暑い中で待っていてくれて、ありがとう」と、等身大でありながら心のこもった感謝の言葉を伝えていた。
真夏の“サンタクロース”や、流麗なアルペジオと共に歌メロが立ちのぼる“Sliding Door”では、懐かしさと現在のエルレの表現力が混ざり合い、ふと現実感を見失いそうになる。“Salamander”はさすがに凄まじい熱量だが、今や生き急ぐアンセムというよりも、等倍の人生を共に歩むクラシックとして堂々鳴り響いている気がした。これもまた、2023年のELLEGARDENだ。
日本列島が台風の脅威に晒されている時にも、奇跡的に天候に恵まれたライブについて、細美は自分たちよりもファンのほうが神様に守られている、と言葉を添えながら「だからこっからは、自分の道を信じて、石橋を踏み抜いて進んでいってください」とメッセージを投げかけていた。そして終盤の“ジターバグ”“虹”“スターフィッシュ”といった連打は、ラストスパートというよりもほとんどウィニングランといった様相である。
先刻のメッセージを裏打ちするような“瓶に入れた手紙”のあと、「どうするのこのあと。どうしたい、雄一は」という細美の問いかけに、それまでボソボソと語るばかりだった高田も「えーと、じゃあ、またやりましょう」と告げる。「そう、死ぬまでにもう一回だけ、マリンスタジアムやろう!」と細美も言葉を続け、割れんばかりの喝采を誘ったのは言うまでもないだろう。夜空の下の“Make A Wish”のあと、“No.13”と呼応するようにロマンチックなストーリーで新たな幕開けを告げる“Strawberry Margarita”まで、ひたすら歓喜だけが押し寄せるライブ本編であった。
アンコールの催促に応えた4人はまず、『The End of Yesterday』のプロデューサー/サウンドエンジニアを務めたロビー・ハイザーに“Goodbye Los Angeles”を捧げた(今回のステージを観に来ていたそうだ)。さらに、ここにもエモーショナルな華を咲かせる“高架線”から、泣き笑いのコミカルなストーリーをパンキッシュに駆け抜ける“Pizza Man”である。
さらにはダブルアンコールへと突入し、かつてエルレ活動休止の時には世界が崩れるような思いをしたものの、その後の年月を通して「人は変われる」ことを学んだと語る細美。「いつか、こんな歌を歌わなくて済む日が来ると思う。愛してるぜおまえら!」と最後の最後に披露されたのは“金星”だ。ELLEGARDENがどれだけ真剣にリスナーと向き合い、どれだけの思いを込めて音楽を奏で続けてゆくのか。盛大な花火が打ち上げられるグランドフィナーレの中、多くのオーディエンスが、その深い余韻を噛み締めて帰路に着いたことだろう。(小池宏和)
9月29日(金)発売の『ROCKIN'ON JAPAN』11月号に、ZOZOマリンスタジアム公演詳細レポート&細美武士インタビューを掲載!
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