ジ・エナミー @ 渋谷クラブクアトロ

4月に2ndアルバム『ミュージック・フォー・ザ・ピープル』をリリースし、全英アルバム・チャートではあのボブ・ディランともランキング争いを繰り広げたジ・エナミー(結果は惜しくも2位)。6月にはオアシス、カサビアンとの全英アリーナ・ツアーというビッグなイベント、そして8月にはサマソニを控えている彼らの一夜限りの貴重なライブだ。

開演の19時を過ぎるとBGMがザ・ヴァーヴの“ビター・スウィート・シンフォニー”に切り替わり、音量が上がった。何かのインタビューでボーカルのトム・クラークがザ・ヴァーヴのライブに行ってこの曲をシンガロングした、という話をしていたのを思い出す。曲が終わるとスペシャルズの“トゥー・マッチ・トゥー・ヤング”のSEとともに3人が登場し、トムは“シルヴァー・スプーン”の歌詞にも出てくる緑のギターを持つ。最初の曲は“アウェイ・フロム・ヒア”だ。

想像していたよりもずいぶん音が大きい。まずギターがでかいし、ベースのアンディもブリッジ近くの硬いところをピックでがんがん弾きまくっていて、ドラムの音がかき消されている。そのせいか、曲が進むにつれて苦しそうな顔になりながら一生懸命叩き続けるリアムの姿がすごくけなげ。しかしメンバー全員本当に若いです。実際は21歳くらいなのだろうけど、高校生くらいに見える。

1曲目で早速オーディエンスに合唱させ、「アイ・ラヴ・トーキョー!」と叫んだトムが次に弾き始めたのはニュー・アルバムのオープニング曲“エレファント・ソング”。先月のリリース以来何度も聴いているけれど、この曲、本当に好きだ。どう好きかは後ほど説明します。この時点ですでにフロアの熱気は最高潮。最初に書いてしまうけれど、この夜、このテンションは最後までほとんど変わらないまま続くことになる。

8曲目の“アグロ”まではノンストップの演奏。曲によって2本ずつ用意されたギターとベースが使い分けられ、サポート・キーボーディストが出入りする。一呼吸置いたあとは“シング・ホエン・ユーアー・イン・ラヴ”、“ディス・ソング”などのメロウな曲も織り込まれるが、オーディエンスが休憩モードに入る気配はなし。“ウィル・リヴ・アンド・ダイ・イン・ジーズ・タウンズ”ではアコギに持ち替えたトムが再度フロアの合唱を導き、“イッツ・ノット・オーケー”ではアンディが途中で演奏を放棄してダイブ! もとより両腕を突き上げていたファンたちにしっかりと受け止められ、5秒後には再びステージへ。

「ありがと、トーキョー! みんなサマーソニック行くのか? またサマソニで会おうぜ!」とトムが言って“ユーアー・ノット・アローン”になだれ込みフィナーレへ。演奏中にアンディと目を合わせた汗だくのリアムもここでやっとにっこり。かわいいなあ。アンコールにも2曲で応えてくれた。個人的には“ラスト・グッバイ”をやってくれないかなと最後まで期待していたのですが残念。帰ってCDで聴きました。

どうしてもその社会への怒りが強調され、今回の新作についてはサウンドの柄が大きくなったことばかりを指摘されてしまう彼らだけれど、そんなビッグ・サウンドに乗せて歌われるアルバム最初の歌詞が「俺はなんてちっぽけなんだ(Ever feel so small)」であることはもっと注目されてもいいと思う。“エレファント・ソング”を聴いていると、彼らが別にスタジアム用の曲を作りたいとか、デビュー作が売れてスター気分になっているとか、そういうわけで音を大きくしたわけではないことがよく分かる。

むしろあの音の大きさは、続けて歌われる「天を突くコンクリート」とか、アルバム2曲目の“ノー・タイム・フォー・ティアーズ”で言えば「リアル・ワールド」とか、そんな場所(大都市)で生きることの戦慄の大きさであり、しかもなんとかそこで生き続けてやろうという決意の大きさのように感じる。“エレファント・ソング”の歌詞が、初めて来日し、ホテルの窓から東京の街を眺めたときの衝撃が基になっているというのも興味深い事実で、社会から受ける印象がソングライティングの重要な源泉になっているジ・エナミーにとって、1stアルバムの後に各国をツアーして回ったことは確実にその「戦慄」を拡大したはずだ。

「エレファント・ソングを共に歌おう」と歌詞にもあるように、彼らが個人を圧倒する都会に対してぶつけるのは、言葉にすると陳腐になってしまうけれど、生まれた土地や子どもの頃の記憶がもたらしてくれる人間らしさ、コンクリートの狭間でも簡単に自分を見失わないバランス感覚なのだろう(エレファント=象は彼らの故郷コヴェントリーのシンボル)。でも当然のことだけれど、そういう歌を歌ったからといって、ジ・エナミーが都会に対して勝利を収められるわけではない。彼ら自身何度も言っているように、彼らは世代の声でもなく、政治家でもない。彼らが歌っているのは戦いそのものにすぎないわけで、でもだからこそ、どちらが勝つわけでもないのに必死にあがいているからこそ、どちらが勝つわけでもないのに必死にあがいている聴き手にもこうしてしっかり届いてくるのだろう。(高久聡明)

1.アウェイ・フロム・ヒア
2.エレファント・ソング
3.ハド・イナフ
4.40デイズ&40ナイツ
5.テクノダンサフォビック
6.プレッシャー
7.ノー・タイム・フォー・ティアーズ
8.アグロ
9.シング・ホエン・ユーアー・イン・ラヴ
10. ドント・ブレイク・ザ・レッド・テープ
11. 51stステイト
12. ウィル・リヴ・アンド・ダイ・イン・ジーズ・タウンズ
13. ディス・ソング
14. イッツ・ノット・オーケー
15. ハッピー・バースデー・ジェーン
16. ユーアー・ノット・アローン

アンコール
17. シルヴァー・スプーン
18. ヒア・カムズ・ザ・ワン(新曲)
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