エレファントカシマシ @ 日比谷野外大音楽堂

エレファントカシマシ @ 日比谷野外大音楽堂
エレファントカシマシ @ 日比谷野外大音楽堂
エレファントカシマシ @ 日比谷野外大音楽堂
「あえて激渋の曲の連続ですね、今日ね」と途中のMCで宮本自身も言っていた通り、1990年から毎年開催し続けてついに20周年!ということで2日連続開催となった今年の「エレカシ野音」2日目は、(結果シングル曲も全体の3分の1あったとはいえ)エレカシ史上稀に見るほどレア曲を網羅したものだった。そして、「だからディープなファン向けの閉じたライブ」ではなく、それによって「今」のエレカシのロックが持つヴィヴィッドで獰猛で、どこまでも攻撃的で、それでいてタフな包容力も併せ持った音のマジックを体感できる、そんなステージになっていた。

1日目は1日目で、3rd『浮世の夢』の“夢のちまた”や『エレファントカシマシ5』の“何も無き一夜”、『奴隷天国』の“いつものとおり”といった初期曲から、『ライフ』の“女神になって”、『俺の道』の“季節はずれの男”、『扉』の“地元の朝”まで、新旧アルバムの随所から渋かったり長かったりしてツアーなどではセットリストから漏れてしまう曲を丹念に掬い上げ、挙げ句に“石橋たたいて八十年”(94年のレコーディングから00年の『sweet memory~エレカシ青春コレクション~』発売までお蔵入りになっていた曲)まで披露するなど徹底した名曲発掘ぶりで、凍てつく雨の中でも満場のファンを酔わせていた。

が、2日目となるこの日は様子が違った。17:09、メンバー4人だけで入場してきたと思ったら、いきなり「あの曲」の疾走ビートが! 一度それを制した宮本が、再び仕切り直してハンドマイクでがなりあげるのは、エレカシ史上最大の衝動逆噴射ナンバー“奴隷天国”! 「何笑ってんだよ! そこの、そこの、おめえだよ! おめえだよ!」の口上を、客席のみならず後ろの立ち席までぎっちり埋まった3000人のオーディエンスの胸倉を1人1人掴むような勢いで叫び倒す。前日同様2曲目に演奏された“俺の道”の、空気がばりばりと音を立てるかと思うほどの♪デデデデッデデーの絶唱とサポート・蔦谷好位置の妖しげなオルガン・ソロが鳴り響く頃には、野音は高揚感とも狂騒感とも違う、戦慄にも似た空気でがっちり支配されている。しかしその緊迫した空気は、聴く者を硬直させるものではなく、ステージと客席をお互いブレることなくジャック・インさせる媒介のようなものとして機能していた。だからこそ、野音を埋め尽くした観客の顔は、曲が進むごとに確かな精気に満ちあふれてくる。

その後は、“達者であれよ”“石橋たたいて八十年”“暮れゆく夕べの空”から“悲しみの果て”を経て“おかみさん”へ流れ込んだり、「『生活』っていう、よくあんなの出せたなっていうマニアックなアルバムから、さらにマニアックな曲を……」と“凡人-散歩き-”をやったり、「懐かしい感じですね。この、一方的にやるっつう感じが」と言いつつ“珍奇男”を炸裂させたり、「凄惨な気分になるにはちょうどいい……いや凄惨な曲じゃないですよ? 23歳ぐらいの頃の曲です」と“晩秋の一夜”で聴いてるこっちの身体が焼け切れそうなほど熱いララルラを響かせたり……単にレア曲をやり散らかすのではなく、それらの曲に血潮を吹き込んで「今、ここ」のエレカシの世界にしっかりと位置づけるような、実にアグレッシヴな選曲だ。そして、それを可能にしているのは他でもない、8年ぶり武道館含め絶好調の2009年を経ていよいよソリッドに鍛え上がった彼らの演奏であり、悲しみのメロディも怒濤の咆哮もいちいち冴え渡っている宮本の歌だ。もはやお馴染みになった蔦谷好位置&ヒラマミキオのサポート・ワークが、今のエレカシの切れ味をさらに鋭利に浮かび上がらせている。

ピリッとした緊迫感が漂っていた野音の空気が、終盤の宮本の「ご苦労さん!」というひと言で急変。“ゴクロウサン”の激烈ロックンロール! そして本編ラストは“ファイティングマン”で手拍子の嵐! そんな興奮冷めやらぬ中、再びアンコールで4人+2人が登場! 『RO69』内の渋谷陽一ブログにUPされているセットリスト写真と下のリストを比べていただければ、いかに本番直前でアンコールの曲順を変えまくったかがおわかりいただけると思う。前日同様予定されていた“so many people”も“今宵の月のように”もなし。“友達がいるのさ”の《東京中の電気を消して夜空を見上げてえな》のフレーズが、すっかり闇一色となった野音の空に吸い込まれ……と余韻に浸る間もなく、“デーデ”“笑顔の未来へ”“俺たちの明日”で大団円! かと思いきや、宮本が舞台スタッフに「もう1曲」のジェスチャー。「みんな今日は本当にどうもありがとう! すごい熱気で、あったかくなってきたな」と、最新作『昇れる太陽』の冒頭でぶち上げる哀しき闘争宣言のような楽曲“Sky is blue”へ! さらに「1、2、3、4」と宮本のカウントから“花男”! 野音いっぱいに突き上がる拳、拳、拳。もう、最高だ。

アンコール7曲でさらにエンジン過熱気味の爆裂プレイと激唱を見せていた彼らだが、一度姿を消したもののほどなく再登場。「明日からもドーンと行けよ!」という宮本のシャウトに導かれて叩き出す正真正銘ラスト・ナンバーは“ガストロンジャー”! ここでの宮本の歌は、もう神というか鬼というか、とにかく連日30曲以上歌ってきた人の声じゃない破壊力だ。いや違う。連日30曲以上全身全霊を傾けて絶唱し続けたことで、何か大きな次元を越えてしまったとしか思えない。そういう声だ。そして、曲がエンディングに差し掛かる中、宮本はその壮絶な声で「みんな、かわいいぜええええ!」と絶叫していた。「今が黄金期」どころの騒ぎじゃない。「エレカシ野音」史上初めて、今回の野音ライブはDVDとして来春リリースされるそうだが、この日の最後の“ガストロンジャー”はぜひとも収録しておいてほしい。そして、1人でも多くの人に観ていただきたい。ロックの威力に、心底震えがくるはずだ。(高橋智樹)

01 奴隷天国
02 俺の道
03 達者であれよ
04 石橋たたいて八十年
05 暮れゆく夕べの空
06 悲しみの果て
07 おかみさん
08 凡人 -散歩き-
09 やさしさ
10 土手
11 珍奇男
12 生命賛歌
13 曙光
14 季節はずれの男
15 ジョニーの彷徨
16 人生の午後に
17 シグナル
18 晩秋の一夜
19 翳りゆく部屋
20 OH YEAH!!(ココロに花を)
21 ハナウタ~遠い昔からの物語~
22 FLYER
23 コール アンド レスポンス
24 ゴクロウサン
25 ファイティングマン

アンコール1
26 あの風のように
27 友達がいるのさ
28 デーデ
29 笑顔の未来へ
30 俺たちの明日
31 Sky is blue
32 花男

アンコール2
33 ガストロンジャー
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