アルバム『コモン・ドレッズ』のツアーとしてはリリースから少し間が空いたけれども、昨年はパンスプとサマソニに来てくれているのでむしろ来日の姿勢は相変わらず積極的と言えるエンター・シカリ。今回のツアーはア・デイ・トゥ・リメンバーとエスケイプ・ザ・フェイトのアメリカ勢2バンドが帯同していて、大阪、名古屋での公演を経ていよいよ東京での最終公演を迎えた。今回の東京公演では上記の海外3バンドに加え、日本からSiMが参戦するという英米日の轟音バトル・ロワイヤルに。ほとんどプチ・ロック・フェスの会場と化した新木場スタジオコーストである。
トップ・バッターのSiMは、ボーカリスト/MAHのルーディーなネクタイ姿に象徴されるレゲエ/スカを咀嚼した個性的なスクリーモ・ミクスチャーで、これがいきなり面白かった。MAHの場慣れしたトースティング風アジテーションもキレている。外国人も多いオーディエンスに好意的に受け入れられているのが分かる熱演であった。続いてはラスベガス出身、エピタフ所属のエスケイプ・ザ・フェイト。尻上がりにアンサンブルが纏まっていき、何よりもエモーショナルで親和性が高いメロディによって求心力を得てゆくスタイルが印象的な、ヘヴィ・ロック・バンドである。終盤ではエンター・シカリとも共振するような、シンセ・サウンドを絡めたダンサブルな曲も披露していた。そしてフロリダ出身の5ピース、ア・デイ・トゥ・リメンバー。こちらもスクリーム混じりのメロディアスな歌を軸にしているバンドだが、サウンド的にはパンク/ハードコア寄りでタイトな指向。まさに質実剛健といったパフォーマンスを見せるバンドで、演奏やステージ進行の安定感という意味では4組の出演者中トップだったと思う。最後にはフロアに一斉ジャンプを巻き起こしていた。いいバンドだ。
いよいよエンター・シカリの登場である。新作のオープニングを飾っていた“Common Dreads”の「ウィ・マスト・ユナイト!」というコールをバックに登場し、けたたましいシンセ音が鳴り響いて“Solidarity”へと突入してゆく。メンバーが激しいアクションを見せつつめまぐるしく立ち位置を換えるので、ちょっとでも目を離すと「あれ、どこ行った?」ということになってしまう。高速のレイヴ・スクリーモやダークで狂ったエレクトロ・ファンクと、新旧の曲を次々にドロップしてスリリングな混沌を生み出してゆくのであった。ラウのボーカル・スタイルの幅広さはもちろんだが、ときにメインのメロディを強奪してゆくローリー(G.)やクリス(B.)の伸びやかな歌唱力もライブでは更に効果が増す。
「ハルバル、ロンドンカラ、ヤッテキマシタ! ワタシハ、スモウトリニナルタメニ、ヤッテキマシター」などとラウが挨拶している間に、ローリーがギターを抱えたままフロア中央に降りてそのまま“Zzzonked”をプレイし始めてしまった。狂騒の中で変態パフォーマンスが加速してゆく。しかし、そういった見た目だけの派手さだけではなくて、新作『コモン・ドレッズ』でのエンター・シカリは、混沌の中からも何か意志の形を示すような、焦点の定まった楽曲の数々を聴かせてくれていた。「レイヴとヘヴィ・ロックの融合」という以前の彼らのイメージは、ざっくりとしているようで実は今のエンター・シカリが提示する世界観ほど明確ではない。ニンジンとジャガイモとタマネギがごろごろと原型を留めているシチューではなく、素材のエキスが溶け込むほど煮込まれたシチュー。歴史書に載っていない希望を混沌の中から引き摺り出す意志が、『コモン・ドレッズ』には込められていた。ロックにはそういう面白さがある。なんだかわからないけど面白い、なんだかわからないから面白い。なんだかわからない世界と誠実に向き合ったポップ・ミュージックとは、そういうものなのだ。劇的な進化によって未知の世界にダイブしてゆくという点では、エンター・シカリは野菜ゴロゴロなミクスチャーを越えて、レディオヘッドやアークティック・モンキーズと同列の「UKロック・バンド」の位置にいる。
それでも、ファースト時のキャッチーかつエッジの効いたナンバーの数々の方がフロア受けするのはしょうがないと言うか、バンドもその辺は良く分かっていて新作収録曲と半々ぐらいの、気前の良い選曲でステージは進められていった。“Sorry You're Not A Winner”ではフロアであの印象的なハンド・クラップも決まる。これはこれで気持ちいい。アーティストのエゴを押し通す作品を生み出し、その上でエンターテインメントとしても成立させるという、彼らの優れたバランス感覚が発揮されたライブだ。演奏技術では危なっかしいところもあるし、全体的な音量が他のバンドと比べて少なかったのも残念だったが、最後までハイ・ボルテージなパフォーマンスであった。(小池宏和)
エンター・シカリ セットリスト
1.Solidarity
2.No Sssweat
3.Mothership Live Remix
4.Mothership
5.Zzzonked
6.Havoc A
7.No Sleep Tonight
8.Sorry You're Not A Winner
9.The Jester
10.Halcyon/Hectic
11.Enter Shikari
12.Juggernauts
アンコール
13.OK,Time For Plan B