ニュー・アルバム『悪魔のささやき~そして、心に火を灯す旅~』リリースの3日後の11月20日スタートの、全8本のZEPP TOUR。その初日でした。メンバー4人+サポートでキーボード蔦谷好位置&ギターヒラマミキオミッキー(といつも宮本は紹介する)、という6人編成が、ここしばらくの定番でしたが、今回は蔦谷好位置のいない5人編成でのツアー。
ということを、ホールに入り、ステージ上にキーボードがないのを見て、知りました。アルバムには今回も関わっているのに。今日だけスケジュール合わなかったのかな。とか思ったけど、あとで本人のブログを見たら、「エレファントカシマシのZeppツアー初日を見に行った」と書いてあったので、「今回はあえて鍵盤なし」ということのようです。あと、「エレカシのライブを見るのは2年ぶりくらいかな?」とも書いてあった。つまり、スケジュールの都合以外で自分が弾かなかったライブ、2年ぶりだってことですね。
で。初日なのでセットリスト書けないけど、リリース・ツアーなんだから、当然、ニュー・アルバムの曲たちと、過去(ちょっと過去・すんごい過去・その間くらいの過去、いずれも含む)の代表曲たちを中心にしたセットリストだったわけですが。始まってすぐ、「あ、これ、今日すごいわ」ってことがわかってしまう、そういうライブだった。
天才宮本、絶好調。なのは、そう思ったのと、あんまり関係ない。今年の頭からだったか、昨年からだったか、とにかくもうここんとこずっと絶好調なので、宮本。
じゃあどこでそう思ったかというと、今回、バンドがすごくいいのです。しかも、演奏がうまくなったとか、しっかり音がまとまっているとか、そういうよさではない。ツアー初日だし、まだライブでやり慣れてない曲も多いせいだろうが、演奏やアンサンブルはむしろ結構ガシャガシャしていて、あんまりまとまっていなかった。「ああ、初日だなあ」という感じだった。
ただですね。そういう「ちゃんとしてないところ」も含めて、グルーヴが宮本と合っているのだ。ほら、宮本って、その時その時のテンションや勢いによって、テンポもボリュームもタッチも全然変わっちゃうみたいな、「ちゃんとやるからいい」んじゃなくて「感情の破天荒さがそのまんま歌と音になるからいい」ミュージシャンじゃないですか。その感じなのだ、メンバーみんな。いっきなりギターがちょっとどうかってくらいでかい音で鳴り響いたり、リズムがダダダダッとハシったりする、その感じが宮本のあの爆走っぷりとおんなじグルーヴになっているのです。めちゃめちゃかっこいいのだ、それが。特にトミのドラム。もう手数多い多い。ドカバカうるさいうるさい。で、それがすばらしい。過去のツアーで最も、トミの体力消費量の多いツアーになるんじゃないか、と思うほどでした。
バンドが自分の思うようにやってくれなくて、ステージでイライラしたりキレたりしている宮本を過去も何度も見ているだけに、ちょっと感慨深いものすらありました。でもそれ、バンドが頼りない、というのもあったんだろうけど、宮本の要求が豪快すぎるせいもあったと思う。現に今日も、昔のとある曲を歌いながら、トミに「もっと速く、速く」と指示を出しまくった結果、途中から超満員のファンみんなが、「違うー、こんな速くてうるさい曲じゃないー、これ」と思うようなことになっていました。大笑いしました。最高。
あともうひとつ、最高だったこと。ファンが明らかに、ニュー・アルバムの曲を聴きに来た、それがわかるライブだったことだ。最初は、「おお、ニュー・アルバムの曲もみんなノリがいいなあ」とか、「やっぱりシングル3枚出すとファンに曲が浸透するの早いんだなあ」とか思いながら観ていたんだけど、途中で「違う。これ、『ニューアルバムの曲“も”』じゃない」ということに気づいた。
中盤で、エレカシのキャリアの中で大変に重要な、ファンはみんな大好きなはずの、ある曲をやった時。「えっ!?」って驚くくらい、盛り上がらなかったのだ。曲が始まった瞬間に、「おおおっ!」てどよめきが起きてもいいような曲です。でも、なんか静かだった、フロア。で、そのあとニュー・アルバムの曲になったら、また盛り上がった。
つまり、お客さんが、「あのー、その曲もう何度もライブで聴いてるんで、それよりも、新しいやつお願いします」っていう感じだった、ということです。これ、エレカシみたいな、20年以上のキャリアがあって、いっぱい代表曲を持っているバンドとしては、ありえないことだと思う。
普通、逆です。そりゃあバンドは新しい曲やりたいだろうけど、こっちとしては、やっぱり昔のあの曲もあの曲もあの曲もやってほしいし……みたいな挟間で、どのバンドも苦労しているわけです。要は、それほどまでに『悪魔のささやき~そして、心に火を灯す旅~』が、「これはすばらしい! 1曲でも多くライブで聴きたい!」と、思われている、ということが、この場に表れていたわけだ。
って、ひとごとみたいに書いてますが、僕もそうだった。ライブ終わった時、「もっとニュー・アルバムの曲やってもよかったのに」って思ったんだけど、冷静に数えてみたら、かなりやっていて、やっていない曲の方が少なかった。でも、そう思った。マジでこのツアー、ニュー・アルバムの曲を全曲やっても、もつと思う。
なお、後半はさすがに、昔の曲も盛り上がっていましたが。
あともうひとつだけ。最初のMCで「みんな調子はどうだい? 俺は絶好調だぜ! みんなに会えたからよう!」と叫んだ通り、ほんとに絶好調だった宮本、絶好調すぎて、テンション上がりすぎて、挙句に感極まったのか、アンコールである曲を歌っている時、なんか、泣いているように見えた。
あれ、涙出てるよな。いや、でもこういうのって、俺にそう見えただけ、ってこともあるからなあ。終わったあと、前の方で観ていた知り合いにメールで確認した。「泣いていました」という返事が戻ってきた。「流れる涙を拭わないので、顔中びしょびしょにして泣きながら歌ってました」だそうです。
えーと、つまり、それくらい、えらいことになっています、今のエレカシのライブ。これから観るみなさん、ぜひお楽しみに。ツアーはあと7本あるし、年末には東京(千葉だけど)はCOUNTDOWN JAPAN、大阪はRADIO CRAZYの出演があるし、年明けの1月9日には、日本武道館が待っています。(兵庫慎司)