フジ・ロックの開催を週末に控え、続々と参加アーティスト達が来日し始めている中、先陣を切るかたちで真っ先に単独ギグを敢行したのがカサビアンである。金曜日にはグリーン・ステージでヘッドライナー=マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの前にエントリーしている彼らだが、今夜の単独ギグはそんなフジの大舞台直前のウォーミングアップであると同時に、来年1月リリース予定の新作からの新曲がいち早く披露された貴重な一夜でもあった。
クラブチッタはもちろん満員御礼、こんなスモール・キャパでカサビアンを観れる機会は最後かもしれないとあって、ダイハード・ファンが詰め掛けた場内の熱気は半端ないものがあった。そしてそんなオーディエンスの熱気と過剰な期待に120%のパフォーマンスで応えたのが、今夜のカサビアンである。とにかく音がデカイ! フジで想定されるPA環境をまんま無理矢理チッタに持ち込んだんじゃないか?と思ってしまうほど。チッタの音響の良さも関係しているんだろうけど、マックスの音圧が身体に襲い掛かる。冒頭の“エンパイア”を皮切りに前半はとにかく瞬間着火タイプのアンセムを大量投下(“サンライズ〜”で校了直前でぶっ飛んでいた頭がさらにトンだ!)し、一気にロックンロール・ショウの主導権を掌握した後、後半はエクスペリメンタルな流れを重視したトラックリストで緩急一体型のトランス状態を作り上げていく。単純明快なカタルシスとドープな酩酊感覚の両方を併せ持つカサビアンのサウンドは、2ndアルバム『エンパイア』以降さらにその両極に磨きがかかっている。それにこのバンド、観る毎にどんどんちゃんと演奏が上達していっているのも素晴らしい。オーディエンスを煽る技においては当代UK若手バンド内でも随一と言えるトムの無敵のフロントマンっぷりは今晩も際立っていた。ほんとこの人のダサかっこ良さはリアム・ギャラガー直系の遺伝子の産物だと思う。
そしてなんといっても特筆すべきは、遂に解禁となった2曲の新曲だろう。“Fire”はドアーズとプライマルを足して2で割ったようなサイケデリック・ナンバーで、「I\'m on fire!!!」と叫ぶサージのコーラスがかっこよすぎ。そしてアンコールのラストを飾ったのが“Fast Fuse”。なんじゃこのけったいな曲は!! ブルースとマリアッチとサーフ・ロックと中近東のリズムをごちゃまぜにしてジャムの俎上に無理矢理乗せたような、超力技のフリーキーな名珍曲である。かくして彼らのニュー・アルバムへの期待がマックスに振り切れたまま、舞台はフジ・ロックへ! (粉川しの)