フー・ファイターズ@トルバドール ロサンゼルス

フー・ファイターズ@トルバドール ロサンゼルス
ニュー・アルバムを完成させたフー・ファイターズは去年の年末から、地元ロサンゼルス界隈で何度もシークレット・ショウを行っている。大物バンドが新作リリース前に小規模のクラブで新曲を試すショウをやるのは珍しい話ではないが、彼らのシークレット・ライヴのユニークな点は、その告知方法が今流行りのtwitterであること(かつてはラジオでの告知が一般的だった)、そして最初から場所を教えずにヒントを与えてファンに会場を探させるという遊び心があることだ。バンドのtwitterはデイヴ・グロール本人がつぶやいているのだが、ショウがある日は、午前中に「いい天気だな……今日は何をしようかな」という感じのつぶやきがあって、午後からショウの会場のヒントとなる画像をいくつか載せていくのだ。新作からの新曲“ホワイト・リモ”にちなんで白いリムジンが会場前に止まっている写真だったり、白いリムジンが描かれたポスターが貼ってある会場の写真だったりと毎回違うのだが、そのハコを知っている人には分かる、といった感じで結構難易度が高い。そして4時位に、「今夜!8時、一人20ドル、キャッシュ・オンリー」というつぶやきの下にリンクを貼った告知が出る。その下にリンクが貼られていて、それを開くと古いカー・ラジオの画像になり、デイヴがDJになりきって、「今夜~~でフー・ファイターズがライブをするよ」と伝えてくれるのだ。問題は、これを聞いてから慌てて会場に向かっても間に合わないこと。5時には「完売だよ。もしかして君達、知ってたの!?」みたいなつぶやきが出る。大半の人達がヒントが出た時点で会場に向かっているのだ。学生ファンはまだしも、社会人は仕事を抜け出して行くのだろうか。

ロサンゼルスに住んでいるのにこれまで見逃していた私だが、今日は朝からスタンバイした。「今日もまた素敵な一日だ……素敵な夜が楽しみだ」とのつぶやきがあったのだ。そして次に出たつぶやきをクリックするとカーラジオの画像に代わり、ドナ・サマーの“ラスト・ダンス”が流れる。これは……全然分かんない!続いて午後3時に出たヒントは“Last Dance.... last chance for love...” ラスト・ショウってこと?依然分からず。4時。ようやく写真が出る。デイヴが高速を車で走っている模様。次のGPSの画像。高速101号線を北からハリウッド方面に下っている。ハリウッド近辺か?次の写真は、デイヴが運転しながら満面の笑顔。車のバックミラーにモーターヘッドのエアーフレッシュナーがかかっている。これ、見た!前回ウエストハリウッドにある老舗クラブ、トルバドールでやった時のヒント写真だ。ありがとうデイヴ!!次のつぶやきは、明らかにノースハリウッドからウエストハリウッドへと続く道の写真だった。急いでトルバドールに向かったが、着いたのは4時半近く。すでに超長蛇の列ができていた。「間に合うかな?」と最後尾の男の子に聞いたら、「500人収容だって。大丈夫だと思う」との返事。目で数えたところその時点で300人は並んでいる。私の後ろに並んだ人達は、もうすでに何度もこのシークレット公演を見ていて、まず前半で新曲を全曲やってくれて、その後にこれまでの曲をプレイして、計3時間近くやってくれると教えてくれた。すごいことになりそうだ。小一時間ほど並んでいる間に列は500人近くまで膨れ上がったが、無事チケットの代わりとなるリストバンドを入手した。チケットじゃないからダフ屋が入る隙がないわけだ。入れなかったファンはそれでも諦めず、会場前に列を作っていた。

その後一旦帰宅してから再び会場に向かった。まだファンは50人ほど外に並んでいたが、場内にはすでにびっしりと人が詰まっていた。Mariach El Bronxというバンドが前座でプレイした後、9時2分、メンバー5人(前作のツアーからパット・スメアが再加入、デイヴ・グロールを含めてトリプル・ギター編成になっている)が6畳ほどの小さなステージに登場。「調子はどうだ? 何が起こるか分かってるよな、30曲、2時間半のショウだ」とデイヴが叫ぶと、突き上がる拳とともに大歓声が上がる。それからデイヴは「でも最初に新作をフルでやるよ」と告げて、超アグレッシヴでヘヴィなオープニング曲“ブリッジ・イズ・バーニング”に雪崩れ込んだ。
フー・ファイターズ@トルバドール ロサンゼルス - Pic by Morning Breath   Pic by Morning Breath
このショウの真の価値は、スタジアムでショウをやれる彼らを、手が届きそうな会場で2時間40分も見られたという事実ではなく、このニュー・アルバムをまるごと体験出来ることにあったと思う。全てデイヴの自宅のガレージでレコーディングされたという新作を生でやるのに最適な狭いクラブの中で、実に激しく生々しく始まったステージは、曲が進むに連れて強度を上げて行った。そして“ジーズ・デイズ”というメロウな曲を間に挟んだ後は、“バック・アンド・フォース”で観客を激しく踊らせて更に盛り上げ、後半はその強烈な激しさも熱も保ったまま、歌詞を聞かせる深い曲に落とし込んで行く。それに続くラストの“ウォーク”は徐々に曲のテンションが上がって行き、最後に上空で爆発するような盛り上がりを見せる素晴らしい曲だった。「俺は絶対に死にたくない、絶対に去らない」とデイヴが繰り返すこの曲で感じたカタルシスは、アルバム全部を聞き終えてこそのものだった。新作のツアーはこのままこの形式でやって欲しいぐらい、このアルバムはその全てがこの「アルバム」を構成するために存在していると感じた。ファンの盛り上がりを見ながら、フーファイ史上、最高の一枚になるはずだと思った。

ニルヴァーナの『ネヴァーマインド』から20周年にあたる今年リリースされることになったこの新作は、ブッチ・ウィグがフーファイ史上初めてアルバムをプロデュースしている。そして“アイ・シュッド・ハヴ・ノウン”という曲には、クリス・ノヴォゼリックが参加している。そうした経緯もあって、デイヴは今月号のロッキング・オンの取材で「この新作が出たら、誰もが『ネヴァーマインド』と比べるのは分かってる」と語っていた。しかしこの新作が提示する世界観や聞いた後に得られる感情は、『ネヴァーマインド』のそれとはかけ離れたものであり、そんな比較には意味がない。フーファイターズは、誕生時からずっとそうであったように、ニルヴァーナとは全く別の存在である。それなのに、デイヴは今日までニルヴァーナという十字架を背負って生きて来た。ブッチとまた一緒に仕事をしてみようと思えるようになるには、これだけの歳月が必要だったのだ。
 
“ウォーク”が終わった時点で9時52分。間を空けずに第二部に突入した。その口火を切ったのは“スタックト・アクターズ”。場内の熱気は油を注がれた火のように更に上昇した。何度も観に来るダイハード・ファンのためにも毎回セット・リストを変えているのであろう、“マイ・ヒーロー”、“ビッグ・ミー”といった大合唱を巻き起こす代表曲だけでなく趣向を凝らした選曲で、バイオリン奏者やキーボード奏者が加わる“スキン・アンド・ボーンズ”や“ロング・ロード・トゥ・ルーイン”などでは、深みと広がりのあるサウンドを鳴らし、“オーロラ”のように普段はやらないような曲も織り交ぜた、期待を上回る構成だった。すでに2時間を経過した後に始まったアンコールでは「16年位やってない曲だけど」とレアな未発表曲“バタフライズ”を披露、90年代を彷彿とさせるハードコアな曲で、新鮮な感動が湧いて来る。そして“ディス・イズ・ア・コール”の大合唱と共にショウは幕を閉じた。
フー・ファイターズ@トルバドール ロサンゼルス - Pic by Dustin RabinPic by Dustin Rabin
1995年に『フー・ファイターズ』でデビューしてから、フーファイはアルバムを出す度に必ずいくつものヒット・シングル曲を生み、メインストリームのトレンドに左右されない音楽性を貫きながら、メインストリームで活躍するロック・バンドであり続けて来た。その息の長い人気の理由は、ロック・ファン以外の人々をも取り込む優れたメロディを持つ数々の名曲にあるだけでなく、彼らがロック・ファンを完全に熱狂させられる最高のライヴ・バンドだということにある。それを改めて全身で感じた非常に素晴らしいショウだった。(鈴木美穂)

(以下のセットリストは、オフィシャルサイトの掲示板のファンの書き込みを参考に作成した)
1.Bridges Burning
2.Rope
3.Dear Rosemary
4.White Limo
5.Arlandria
6.These Days
7.Back & Forth
8.Matter of Time
9.Miss the Miserly
10.I Should have Known
11.Walk

12.Stacked Actors
13.Pretender
14.My Hero
15.Generator
16.I'll Stick Around
17.Enough Space
18.Times Like These
19.Cold Day in the Sun
20.Big Me
21.Wattershed
22.Skin & Bones
23.Long Road to Ruin
24.Aurora
25.All My Life

26.Monkey Wrench
27.For All the Cows
28.Hey Jhonny Park
29.Everlong
30.Best of You
31.Butterflies
32.This is a Call
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