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    イエローカード @ 恵比寿リキッドルーム

    イエローカード @ 恵比寿リキッドルーム - イエローカード pic by Nobuya Fukawaイエローカード pic by Nobuya Fukawa
    無期限の活動休止(結果的には2年ほどで済んだが)を経て、復活を遂げたフロリダ出身のメロディック・パンク・バンド、イエローカードによるジャパン・ツアー・ファイナル。しかも今後フィリピンからロシア、フィンランド、アイルランド、UK、そして3月中旬から5月まで本国USを廻るツアーのキックオフがこの日本公演ということもあってか、ファンの期待は並々ならぬものがある。2日間連続でパフォーマンスが行われたにも関わらず、恵比寿リキッドルームのフロアは最後列までみっちりと埋まる大盛況であった。

    さてオープニング・アクトには、イエローカードと同じくバイオリン奏者をメンバーに含めるBIGMAMAが登場。金井と柿沼のツイン・ボーカル/ギターに、時折クラシカルな旋律を拝借する東出のバイオリンが加わって、メロディの波状攻撃でオーディエンスを熱くさせる。金井は「どこからどう見ても分かるように、5、6年前にイエローカードに憧れて始めたバンドです。彼らがいなければ、僕らはここに立っていませんでした。感謝の気持ちを込めて、精一杯やりたいとおもいます!」とリスペクト精神がだだ漏れになるMCをしていた。これは嬉しいだろうなあ。でも、金井独特の不思議な歌詞世界に聴く者を誘い込むBIGMAMAの表現は、イエローカードとはまた違う魅力を持っている。しっかり40分、熱いステージを見せてくれた。
    そして20:00、まず一人現れたライアン・キー(Vo./G.)のゆったりと熱を帯びてゆくようなギター・ストロークを背景にするようにして、いよいよイエローカードが登場だ。目下の最新アルバム『ペイパー・ウォールズ』から、止まった時間が再び動き出すように“ザ・ テイクダウン”が鳴り始める。いきなり立ち上がった、このタイトな疾走感はどうだ。フロアには早々に人柱が立ち、バイオリンを抱えたショーン・マッキンが跳ね回っている。まるでアクション映画のカー・チェイスを見るようなスピードに乗ったコーラス・ワークが決まり、ライアン・メンデスの閃光のようなギター・ソロも轟くのであった。
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    序盤から、フロアではまるでこのメロディと率直なアティテュードに飢えていたのだ、というような大きなシンガロングが巻き起こる。“シュリンク・ザ・ワールド”は初っ端から歌メロがオーディエンスに委ねられ、間奏ではバイオリンのエモーショナルなメロディが奏でられていった。「熱過ぎるよ! ちょっとギターをチューニングするから待ってくれよ。トゥー・マッチ・ロッキンだ!……オーケー、もっと行こう。今回の日本のツアーの最終日だからな。みんなを屋根まで吹っ飛ばしてやるよ」と、オーディエンスの好感触にゴキゲンなライアン・キーである。

    そして鳴らされるイントロには更に大きな歓声が上がった。03年の大出世作『オーシャン・アヴェニュー』のオープニングを飾っていた“ウェイ・アウェイ”である。当然のようにオーディエンスの歌も重ねられてゆく。エキサイティングなパンク・サウンドとアティテュードが人懐っこいメロディを奪還したのがメロディック・パンクの革命なら、そこにバイオリンを加えてしまったイエローカードは革命のフラッグシップである。それぞれが生活者であるバンドのメンバーが生活を振り返って、一度はタフな活動を休止した。ならばなぜ最前線に戻ってきたのだろうか。イエローカードのメロディと歌は、もはやイエローカードだけのものではないからだ。クリスピーな節回しが気持ちいい“ライフ・オブ・ア・セールスマン”も、どっしりした手応えのミッド・テンポ・ナンバー“ダウン・オン・マイ・ヘッド”も、歌われるために戻ってきたのだ。
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    引き締まった肉体を露にしてブレイズ・ヘアを揺らすロンギニュー(Dr.)の、スピードよりも音の正確さと表情で楽しませるソロ・プレイも挟み込まれる。凄いドラマーだ。しかし、ライアン・メンデスの繊細で煌めくようなギター・フレーズからスタートした“ファイヴ・ビカムズ・フォー”では、ライアン・キーが歌の途中で後ろを向き前屈みになってしまう。咄嗟にショーン・マッキンが歌の代打を務めてキーが戻ってくるのを待った。「すまん、歯をぶつけたんだ」「ハッピー・プレイヤーだな!」と、まあ大事には至らず良かった。「さて、これから何の時間だ? 愛の時間だよ。ラブ・ソングをやろうか」と今度は切なくエモーショナルな美曲“オンリー・ワン”を披露していったのであった。
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    「あと一か月だ! あと一か月で、新作が出る。『ホエン・ユー・アー・スルー・シンキング、セイ・イエス』っていうんだ。そして俺たちは、今年中にこの日本に戻ってくる。そのときには、新曲をたくさんやろう。だから今日は一曲だけ、新曲をやるよ」とプレイされたのは、バイオリンが大活躍して展開も非常に練り込まれたドラマティックなナンバー“フォー・ユー、アンド・ユア・ディナイアル”だった。PVも既に公開されている。それにしても、今年中に戻ってくるってマジか。単独公演だろうか、それともフェス? 何にせよ嬉しいニュースだ。そして“ビリーヴ”から雄々しいロック・ナンバー“ライツ・アンド・ サウンズ”で視界一面のハンド・クラップを巻いて本編をフィニッシュした彼らだったが、盛大なイエローカード・コールに応じて再度登場。ライアン・キーの弾き語りで“エンプティ・アパートメント”が披露される。魂を洗われるような、いい声だ。アウトロでショーン・マッキンのバイオリンが加わってフィニッシュ。おいしいとこ持っていった。「言葉が分からなくてごめんな。とにかくトーキョー! ロックしろよ!」とバンドで演奏が再開される。みんなでシェアしてくれ、とキーが前線のオーディエンスに手渡した水が振りまかれ、キーのギターや足下が水浸しになってしまった。スタッフがギターをメンテナンスしている間、キーは「死にたくねえからよ!」と足下を拭いている。マッキンとロンギニューは、即興で愛嬌溢れるジングルを鳴らすようなプレイ。気のいい連中だなあ。「最高のショウだったよ! アリガトウゴザイマス! 最後に、ありったけのエネルギーを投げ掛けてくれよ!」と“オーシャン・アヴェニュー”へと突入してゆく。「もっと歌い続けてくれ!」とキーは煽り、フロアにはオーディエンスの歌声が響き続けるのだった。(小池宏和)

    セットリスト
    1:The Takedown
    2:Fighting
    3:Shrink The World
    4:Way Away
    5:Breathing
    6:Life Of A Salesman
    7:Down On My Head
    8:Rough Landing,Holy
    9:Five Becomes Four
    10:Only One
    11:For You,and Your Denial
    12:Believe
    13:Lights And Sounds
    EN-1:Empty Apartment
    EN-2:Light Up The Sky
    EN-3:Ocean Avenue
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