ザ・クロマニヨンズ@渋谷C.C.Lemonホール

ザ・クロマニヨンズ@渋谷C.C.Lemonホール - pic by 柴田恵理pic by 柴田恵理
「ザ・クロマニヨンズ ツアー2010-2011 ウンボボ月に行く」。昨年の11月21日に静岡のLive House浜松 窓枠から始まったこのツアーも37本目。他のバンドならとうにファイナルが行われていてもなんらおかしくない数字だが、彼らは(あらゆる意味で)転がり続けるロックンロールの化身、ザ・クロマニヨンズ。ツアーはまだ、真島昌利(Gt)のインフルエンザで延期された3公演の振替を含めて、あと22本残されている。つまり、馬鹿でかいスケールのツアーゆえの「中盤戦(の、後半)」が今日のライブだ。

客席に入ると、SEが流れる中早くもOiコールや怒号のような歓声、爆音の手拍子が巻き起こっている。開演時間を少し過ぎた頃、毎度お馴染みの前説のお兄さんが登場しMCを始めたときにはもう、会場全体が興奮を抑えきれない様相となっていた。愛と、熱と、純粋さが溢れ出す様な最高の会場だ。
また、お兄さんのMCの中に「このアポロ計画ならぬウンボボ計画こそ、俺たちの夢。今ロックンロールにできること。そうだろう!?」という煽りがあったが、ステージの上には巨大な地球が映し出され、月を模したのであろう白い地面に足跡が描かれている。ツアー・タイトルの「ウンボボ月に行く」を表現しているのだ。ただ、それはコンセプト云々というよりは、やはり「月」というものの単純な格好良さをステージの上に持ってくるためのセットだったのだと思う。その予想は、会場が暗転し、颯爽と現れた4人が演奏を始めると確信に変わった。非常灯まで消された会場は本当に真っ暗だったのだが、その中で控えめでシンプルなライトが4人を照らす様が、ただただ格好良かったのだ。月。地球。クロマニヨンズ。ロックンロール。意味などあっさりと超越した無敵の格好良さが、あのステージの上には宿っていた。

前述の通りまだまだツアーは続くので、セットリストの詳細は控えるが、前回のツアーも前々回のツアーもそうだったように、今回もまた、『Oi! Um bobo』を(A面とB面に分けつつ)まるごと全曲披露していた。何故彼らがそうするのかは、クロマニヨンズのライブを見たことがある人なら理解しているんじゃないだろうか。それは極めてシンプルなことで、新作の曲が一番格好良く鳴るから、である。『Oi! Um bobo』がクロマニヨンズの最高傑作だと言っているわけではない。今のところ出すアルバム出すアルバムがことごとく名盤な彼らの最高傑作など、人それぞれの好み以外の理由で決められるものではないと思う。しかし、ライブの場では違う。最新作の曲が、いつでも一番格好良い。もちろん、今日もたんまり聴かせてくれたシングル曲などの人気曲たちも、見ていて楽しいし嬉しいし格好良い。それでも、わずかに、だがたしかに新作の曲の音圧や込められた熱量は、それらを凌駕するのだ。いつどこでクロマニヨンズを見ても、僕にはそう聴こえる。それは、永遠に続いているように見えるロックンロールの円環の中で、彼らが常に最先端の「今」を切り取って曲を作っているからだと思う。スタイルとしては同じロックンロールでも、「今」と「過去」では鮮度が違うのだ。彼らは伝統芸の継承者などではなく、現在進行形の生モノなのである。

だから、今日聴かせてくれた3月2日発売の両A面シングル『流線型/飛び乗れ!!ボニー!!』も、両方最っ高だった。ケルト風のメイン・リフに揺られていると、ハッとするようなキメが連発される“流線型”も、つんのめるビートの上でフロント3人が≪飛び乗れ!!ボニー!!≫と叫ぶサビが異常に高揚する“飛び乗れ!!ボニー!!”も、明らかにバンドがまた技術的な階段を登った曲(例えば“スピードとナイフ”がそうだったように)で、もしかしたらクロマニヨンズの新機軸と言うことができるかもしれない。ヒロトも演奏するにあたり実はかなりドキドキしていたらしく、2曲が終わったあとで「プロのミュージシャンだからってミスしないなんて思うなよ!クロマニヨンズのレベルわかってないなぁ。どんだけ緊張したことか」とか「まだ手が震えてる・・・」とか冗談を飛ばしていた。しかし、そうした技術的な難度や曲の斬新さより、まずあの2曲がクロマニヨンズの最新型=4人も客も一番新鮮で一番まっさらなロックンロールだと思えるものであるという公式を忠実に守るものであったことに、何より興奮したのだ。完璧な「型」が60年も前に出来上がっているロックンロールを、こうして純粋に「新しいもの」として更新し続ける彼らの存在は、本当に全世界に向かって誇るべき日本の宝だと改めて思った。

本編が終わり、開演前よりさらに激しい歓声に引っ張られるようにアンコールに入ると、桐田勝治(Dr)以外の3人が上裸で登場!3人ともグーッと引き締まった、無駄1つない肉体だ。実は昨日(2月20日)はマーシーの49歳の誕生日だったのだが、30年以上の活動の歴史を、記録を見て聴いて知っていても、こうしてライブ(とあの凄い肉体)を見ていると2回りくらい逆サバを読んでいるのではないかと疑ってしまう。また、ヒロトも最後の最後まで、あのリズムの倍速を刻むような踊りを続けていた。ただ、『Oi! Um bobo』の初回限定盤についてくるDVDに収められているスタジオライブを見返していて気が付いたのだが、ヒロトはスタジオライブではあの踊りをほぼしない。もちろん、あのロックンロールが鳴っているにもかかわらず。つまり、ヒロトが踊るには、最高のロックンロールだけではなく、最高の観衆が存在するライブの場が必要なのだと思う。ロックンロール・ジャンキーたちの巻き起こす、エネルギーが渦巻く場所が。その、バンドを「見に行く」のではなく、1つの場で互いが互いを盛り上げあう、一緒に「事件を作る」という意識が、ファンのクロマニヨンズのライブへの無垢な信頼へと繋がっているのかもしれない。最後にヒロトが放った「また会おうな。ほんで、またやろうな。ロッケンロー!」という言葉が、そう思わせてくれた。(土屋文平)
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