エルヴィス・コステロ @ Bunkamuraオーチャードホール

いやあ、最高。スーツ&ハットでキメたコステロが正真正銘、自身のギターと歌だけで、ロックもパンクもカントリーもブルースもポップも軽やかに越境していく姿は、それそのものが鮮烈なアートとして/エンターテインメントとしてオーチャードホールを魅了しまくっていたし、極限までシンプルなフォーマットまで解体しても決してタネ明かしされないポップ・ミュージックとしてのマジックが、そこには確かにあった。『Elvis Costello "solo"』と銘打たれた今回の来日公演。ステージには数本のギターとアンプ機材、マイク、そしてステージ・ドリンクetcを乗せたテーブルのみ。時折ステージ・ドリンクを交換したり機材のチェックをしにきたりするスタッフを除けば、この日の2時間近いアクトの間、ステージにはコステロ1人のみ。「御年56歳のベテラン・ミュージシャンが、アコギやフルアコの弾き語りで自曲を歌う」というシチュエーションがもたらすそこはかとないレイドバック感は、コステロがゴージャスなイントロSEを受けて1曲目“グリーン・シャツ”へつなげた瞬間にきれいさっぱり払拭され…………ちなみに以下、曲目ほかネタバレを含むので、2日(水)の同会場追加公演および3日(木)の大阪:サンケイホールブリーゼ公演を楽しみにしている方は終演までスルーしていただければ幸いです。

タイミング的には「盟友Tボーン・バーネットとともに、ロックのみならずカントリー/ジャズへと大きく踏み込んで作り上げた最新作『ナショナル・ランソム』を引っ提げて……」ということになるのだろうし、事実“スロー・ドラッグ・ウィズ・ジョセフィーヌ”“ジミー・スタンディング・イン・ザ・レイン”といった『ナショナル・ランソム』の楽曲も披露してはいたが、そこに序盤から“ヴェロニカ”が飛び出すわ、“ニュー・アムステルダム”からビートルズ“悲しみはぶっとばせ(You've Got To Hide Your Love Away)”カバーへ流れ込んでみせる珠玉の展開あり、初期カントリー・ロックンロールのマスターピース“レディオ・スウィートハート”あり、問答無用のバラード“アリソン”あり……といったキャリア横断検索的な名曲群を、時折ギターを持ち替えたり、立ったり座ったりしながら(マイクと譜面台が2セット用意してあるので「ゲストでも来るのか?」と思ったら、何のことはないコステロ本人が「立って歌う用」と「座って弾く用」の2セットだった)次々に披露していくのである。当初から「パンクとロックをピカピカにカスタマイズしてみせるポップ・アーティスト」としての側面と「枯れ草薫るカントリーetcへのリスペクトを濃厚に滲ませるルーツ・ミュージックの人」という側面を併せ持っていたコステロだが、その両面をどっちも手放すことなく、50を遥かに超えた今、ギター1本のアンサンブルに再構築して体現する術を身につけてしまっていることに、改めて驚きと感激を覚える。

そして何より、コステロの歌がすごい。特に、エモーショナルに高音を歌い上げた時のあのハスキーな弾け方! さすがに低音&中音域を歌っている時は、年相応の燻し銀テイストを醸し出してはいるのだが、ポーンと高音に抜けていく瞬間の、聴いてるこっちの感情をぐっと掴んで高揚感の頂へと引っ張り上げていくような極彩色の輝きとパワーには震えがくるほどだったし、“エブリデイ・アイ・ライト・ザ・ブック”のめくるめくファルセットや“スロウ・ダウン~”の完全オフマイクの熱唱でオーチャードホールを掌握してみせる姿は、まさに音楽に選ばれたアーティストとしての存在感にあふれていた。

アンコールでは真っ暗なステージ上に、なぜか工事現場とかで見る赤い誘導灯を振り回しながら現れたコステロ御大。最新作のタイトル曲“ナショナル・ランソム”の大胆リアレンジ・バージョン“ナショナル・ランソムNo.2”を、ド派手なトラックをバックにカラオケ状態で披露し、呆気にとられたような2000人超のオーディエンスを残して悠然とステージを後にするコステロ。鳴り止まないアンコールの声! そして御大再度登場、2度目のアンコールではいきなり“スマイル”から“SHE”へ雪崩れ込む嬉しい反則技を見せつけ、“レッド・シューズ”で大団円!……でも十分だったはずだが、轟々たるスタンディング・オベーションに応えて「もう1曲!」とばかりに人差し指を立てるコステロ。さらなる大歓声! そこから“ピース・ラヴ&アンダースタンディング”をやり“アイム・ア・メス”をやり、というたびに割れんばかりの歓喜の声を浴びるコステロ。結局、さらに“オリヴァーズ・アーミー”をやったところでアコギを置いた……と思ったら今度はフルアコを手に取る。うおおおお!という怒濤の喝采を受けてのグランド・フィナーレは、オーバードライブ・サウンドとともに披露したエネルギッシュなロックンロール“パンプ・イット・アップ”! 40代以上のベテラン・リスナーが大勢を占めていた客席が、3階席まで丸ごとハンドクラップに包まれ……御大はにっこり笑って、再び誘導灯を振り回しながら去っていった。会場でも販売されていた追加公演=2日のチケットには長蛇の列。スマッシュのサイトによれば当日17時から当日券も出るらしいのでぜひ。(高橋智樹)
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