エイジアン・ダブ・ファウンデーション @ Shibuya O-EAST

ADF、2008年のフジ・ロック以来の来日公演。単独としても同年に来てくれているので約3年ぶりということになるが、今回はザ・ケミスツが帯同する、新旧のUK人力ドラムンベース・バンド競演となった。これは、嬉しい。どちらも身体と脳に直接揺さぶりをかけてくれるライブ・アクトとして、絶大な信頼を置かれているバンドだからだ。盛況なO-EASTのフロアには、同じ人力ドラムンベース・バンド繋がりということなのかペンデュラムのTシャツを着たお客さんも目についた。5日に名古屋、6日に大阪での公演を控えているので、参加予定の方は以下ネタバレにはご注意下さい。ほぼ開演時間ちょうど、まずはザ・ケミスツからパフォーマンス開始である。

こちらは昨年11月のニンジャ・チューンの面々が大挙して押し寄せたイベント以来の公演だから、結構な頻度で来日してくれているケミスツ。かつてはプログラミングを使わない生バンドとしてのドラムンベースのライブが特徴として挙げられていたが、現在は元々ベーシストのダンがシーケンサーやサンプラーを操るスタイルにシフトしている。もともとDJとしてのキャリアがあったりするので、その辺りはいろいろと実験をくり返しながらスタイルを磨き上げているのだろう。シンガーとMCの2人の男性ボーカリスト、そしてソウルフルな女性シンガーもゲストに招き、アップリフティングなナンバーを次々に投下してフロアを早々に波打たせる。

王道ロック・サウンドのダイナミズムとはギターとドラムスのコンビネーションなのだ、ということを証明するかのごとく、ドラムンベースのリズムの中でリアムのギターとレオンのドラムスが共に強烈なリフを叩き付けてゆく。けたたましい同期サウンドが、ほとんど調味料のように使われているのが面白い。オーディエンスを煽り立てるゲスト・ボーカリスト達の表情とは裏腹に、バンドの3人はまるで職人のような面持ちだ。クラブ・シーンと深く交わり、若手ミュージシャンをフック・アップする現代型の王道ロック・バンドとして、その存在感を独特のものにしているキャリアが伝わってくるステージ。フロアはオープニング・アクトなのにこんなに盛り上がってしまって大丈夫か、と思うほどのモッシュがくり返される。作品ではエンター・シカリをフィーチャーしていた“テイク・イット・バック”まで40分ほどの短いセットではあったが、しっかりと期待に応えてくれたケミスツだった。

さあ、転換を終えて、DJのパンディット・Gとパーカッショニストのプリトパルが定位置についたところからADFのショウがスタートだ。ギタリストのチャンドラソニック、そして彼の実弟であるベーシストのマーティンが加わり、まずは前作『パンカラ』から“ブライド・オブ・パンカラ”をプレイしてゆく。最後にボーカリストのアルとアクターヴェイターが「コレカラミンナデ、サワギマクレー!」と煽り立てながら姿を現した。『タンク』からのハイ・ヴォルテージな“テイク・バック・ザ・パワー”が披露され、続いてはアルの味わい深い節回しにチャンドラソニックが高速のユニゾン・ギターを加えてゆく最新作『ア・ヒストリー・オブ・ナウ』の収録曲“アージェンシー・フリークエンシー”と、新旧織り交ぜてのセットで畳み掛けてゆくのだった。

照明が渦状の模様をステージに描き出す、メロウでサイケデリックなムードの中でアクターヴェイターがマイクを握った“スピード・オブ・ライト”を経て、「次の曲をチュニジア、エジプト、リビアの人々に捧げよう!」と披露されたのは、《息を吸って、気をしっかり持て/抑圧解放行動のギアを入れるボタンを押せ》と高速ラップの応酬でまくしたてる扇動的な新曲“ア・ヒストリー・オブ・ナウ”だった。『パンカラ』から『ア・ヒストリー・オブ・ナウ』にかけてのADFの最新モードは、ドラムンベースやUKテクノ、ヒップ・ホップの一面的な枠には留まらない、オリエンタルなテイストの作曲とサウンドのエッセンスを多く導入した、豊かなミクスチャー感が特徴だ。

バングラやその他彼らのルーツであるアジアの音楽を多く取り入れてゆく作業はADFにとって自然なことに思えるかも知れないが、伝統音楽をやることと、伝統音楽を素材にしてキャッチーなミクスチャー・ポップを作ることとは決定的に違う。自らのルーツを客観的に見つめて、ある程度デフォルメ化する決意がなければ、それを素材として扱うことなどできないからである。日本人の立場でたとえるならば、髷を結って刀を脇に差したままギターを弾いたり、着物を着て重ねた座布団に座ったまま英語でラップするぐらいのことを、ADFはやっている。ちょっと違うかも知れないが、つまりADFがやっていることは伝統保持でなく伝統破壊なのである。でもいいのだ。彼らの音楽がもはやUKアジアンのためのものではなく、世界のあらゆる人々のためのレベル・ミュージックであるという意味において、またまさに『今現在の歴史』に立ち向かうための武装であるという意味において、ADFのやっていることは一貫して正しい。

終盤はさらに“フライオーヴァー”や“ネクサライト”、アンコールでは“フォートレス・ヨーロッパ”などの名曲群でひたすらシンガロングを巻きながら盛り上げ続けるベスト・オブ・ADFなステージになった。強い個性を持ったボーカリストが何度も交代してしまうキャリアはADF唯一のウィーク・ポイントと言えるが、そんな自らのキャリアすらも利用して「今」を戦おうとする姿勢がまた彼ららしい。ブリトパルが伝統打楽器のドールを担いでもの凄いソロ・プレイを披露したり、パンディット・Gが機材をアルに預けて自らマイクを握り前線に飛び出て歌いながら(彼もまたいい声なのだ)「自分自身を解き放てよ!」と煽るなど、祝祭闘争楽団ADFここにあり、という天上知らずな加熱ぶりであった。今夏はまたフジ・ロックに来てくれたりするだろうか。期待して待ちたい。(小池宏和)

エイジアン・ダブ・ファウンデーション セット・リスト
1:Bride of Punkara
2:Rise to the Challenge
3:Take Back the Power
4:Urgency Frequency
5:Target Practice
6:A New London Eye
7:Speed of Light
8:A History of Now
9:Futureproof
10:Burning Fence
11:Flyover
12:Dhol Rinse Jam
13:Nexalite
14:Oil
EN-1:Fortress Europe
EN-2:Rebel Warrior
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする