スピッツ @ さいたまスーパーアリーナ

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『SPITZ JAMBOREE TOUR 2011 “とげまリーナ”』。最新アルバム『とげまる』を携え、今年3月にはメジャー・デビュー20周年を迎えたスピッツの最新ツアー、アリーナ・シリーズである。今回レポートするのは愛知県・日本ガイシホール2デイズに続く、さいたまスーパーアリーナ2デイズ公演の2日目。まだ大阪城ホール公演3連発を残している上、『SPITZ JAMBOREE TOUR “とげまる2011”』の振替公演が9本、11月から12月にかけて控えているのだが、公式の特設モバイル・サイト上におけるセット・リスト公表もあるので、こちらのライブレポートでもセット・リストは文末に記載します。

さて、スーパーアリーナ場内にはステージを包み込むような拍手が沸き上がり、漂うようなギター・フレーズとともに草野マサムネが『とげまる』から“聞かせてよ”を歌い出す。緩やかに舞い上がってゆくような、あるいは場内に染み渡ってゆくような歌声で、《ありふれた愛の歌 歌いはじめる》と、ありふれたどころかスペシャルな一夜の幕開けを告げる。ここでいきなり立ち上がるのは三輪テツヤによる炎のギター・リフだ。“俺のすべて”によって燃え上がるような恋の夏を迎撃する。マサムネは力強くタンバリンを振るい、田村明浩(B.)は早くも大股でステップし、或いはくるっとスピンしてみせていた。さらに『とげまる』モードの焚き付けるようなロック・チューンを続けざまに放ってゆくのだが、ゴリ押しにするようなロック・ボーカルではなくて、あらかじめ楽曲に込められたロック性を伸び伸びと解き放ってゆく感じが素晴らしい。

「今日は貴重な日曜日の夜を、話題のドラマも振り切って、スピッツのためにお集り頂きありがとうございます!」というマサムネのファーストMCの後に投下されるのは“ロビンソン”だ。完璧な夜。この時点で既にそういう予感があった。そしてテツヤのギター・リフと田村のベース・フレーズが絶妙な絡み合いを見せるビート・ポップ“幻のドラゴン”から、﨑山龍男(Dr.)のスネアが鋭角に打ち鳴らされ視界一杯にオーディエンスのスウェイが広がる“メモリーズ・カスタム”へ。そしてエモーショナルなメロディがダイナミックなバンド・サウンドとともに駆け抜けてゆく“TRABANT”。最新アルバム収録シングル曲であるはずの“若葉”や“つぐみ”がプレイされないのは、前回ツアー中までに披露されてしまっていたからなのだろうが、それを差し引いても『とげまる』モードのロック性が全開のステージになっている。

「最新アルバム『とげまる』から“TRABANT”、聴いて頂きました。この曲は仮タイトルが“シャラポワ”だったんですけどね。ロシアっぽい感じで。昨日、残念ながらシャラポワさん、決勝で負けちゃいましたけど。大丈夫ですか後ろの方? こんな感じでいつもどおりやってます。あなたのために歌ってるよ……ちょっと言ってみたかった」とマサムネ。この後には久しぶりに披露されるという1998年のシングル曲“冷たい頬”が、そしてサポートのクジヒロコによるキーボードも映える大らかな、温かく広がってゆくギター・ポップ“猫になりたい”とプレイしてゆく。「月日の経つのは早いもので、この会場で2年半ぶりにやらせて頂いてるんですけど、前回、飲食店での注文が忘れられてしまうという話をして。僕の声は周波数的に、通りにくい声らしいんですね。それと正反対なのが、あの駅のアナウンスの声らしくて」。マサムネ、「埼京セン~お乗り換えの方ハ~」と声マネを聞かせた上で「チキンカツ定ショク~、って言えばいいのか?」さらには“ロビンソン”の一部も歌ってみせて笑いを誘う。やめてくれ、おもしろいけど。テツヤも「スピッツじゃないね」とすかさず突っ込みを入れている。
スピッツ @ さいたまスーパーアリーナ
MCではそんな調子で脱力させるものの、バンドの演奏はすこぶるダイナミックにしてグルーヴィ。曲が始まるたびに舌を巻くほどだ。アマチュア時代のアレンジで披露する“鳥になって”は確かにフレッシュな響きだが、同時にどっしりとした安定感も受け止めさせる。気怠さをサーフィン・ポップ風にグイグイとドライブさせてゆく“ナナへの気持ち”や、前線3人がステージ一杯に広がったポジショニングでプレイされるメジャー・デビュー曲“ヒバリのこころ”も、今のスピッツならではのスケール感に満ちていた。「しっとりめの曲を聴いてください」と届けられたのは“ガーベラ”だ。やはり今回はこういう曲調が少ないせいもあってか、際立った存在感を放っている。ここからヘヴィなグルーヴで展開してゆく“新月”への流れは、個人的には今回のハイライトと言える一幕であった。《変わってみせよう 孤独を食べて 開拓者に 開拓者に》。何も見えないかのような闇夜の中、確かに新たな決意が脈動し始めているこの感覚が最高だ。

開催地ならではの“大宮サンセット”をプレイすると「今はもう無いんだけど、大宮フリークスっていうライブハウスがあって、そこで見た夕陽が奇麗で。そのときのライブに来た友達のお腹に赤ちゃんがいたんだけど、もう大学生でね! びっくりした!」と語り、ここで唐突に猿岩石“白い雲のように”を歌い出すマサムネ。「白い雲のように……シロイクモ……シロイクマ……」と無理やりなダジャレつなぎで“シロクマ”を披露し始める。でも、もしかすると、こんな強引さが成立してしまうところが、今のスピッツのダイナミックなロック性であり、グルーヴなのかも知れない。“どんどどん”から、「もっとホットになってもらって大丈夫ですかね!? スピッツと探検の旅に出掛けよう! OK!!」と、ちらほら漏れ聞こえる押し殺したような笑い声すらぶっちぎって“探検隊”へ、『とげまる』のセルフ・プロデュース曲を並べ立てて傾れ込んでゆく。
スピッツ @ さいたまスーパーアリーナ
スピッツ @ さいたまスーパーアリーナ
スピッツはもともと画一的な「ロックらしさ」と意識的に距離を置くことで独自のフォーミュラを築き上げ成功したバンドだが、もはやブレることのない軸足を信じることで、『とげまる』の野心的かつダイナミックなグルーヴにまで表現のレンジを広げている。そんな『とげまる』のモードで往年の必殺チューン“けもの道”“トンガリ '95”“8823”を連打する終盤はまるで、完封までの数球というカウントダウンのようだった。「いい成分……養分?をもらって、忘れられない日曜日になりました!」。ラストはまさに陽性のエネルギーが頭上から降り注ぐような“君は太陽”へ。アリーナ一杯にオーディエンスの手が振られ、本編をフィニッシュしたのであった。

アンコールではまず、キャリア初期のサマー・ソング“海とピンク”を披露。そしてクジヒロコを含めたメンバー一人一人が挨拶する。とりわけ田村が語った「夢の中で、アイアン・メイデンのベーシスト=スティーブ・ハリスから電話が掛かってきて、アイアン・メイデンに入ってくれと。スティーブ本人は今後バック・アップというかプロデュースに回るから、と言われて。いやでも今度、スピッツというバンドでさいたまスーパーアリーナのライブがあるからちょっと待ってくれ、と言ったら、スティーブが、お前はスピッツを大切にすべきだ!って。だから僕はアイアン・メイデンの分までさいたまスーパーアリーナでやろう!と思ったんです」という話には大きな喝采が巻き起こっていた。それでか。それでなのか。この熱いライブは。

そして最後に、すべてを締めくくるような“空も飛べるはず”が盤石のプレイで鳴り響き、この日のステージは幕となった。2時間半ほどの公演は、夢中になっていたら体感時間が30分ぐらいに感じられた。もう一度最初から観てみたい、と思えるほどだ。ただ、今回の公演では映像収録が行われていたので、いずれ作品化されることになるのかも知れない。期待して待ちたいと思う。(小池宏和)

SET LIST
1 聞かせてよ
2 俺のすべて
3 恋する凡人
4 ビギナー
5 ロビンソン
6 幻のドラゴン
7 メモリーズ・カスタム
8 TRABANT
9 冷たい頬
10 猫になりたい
11 鳥になって
12 ナナへの気持ち
13 ヒバリのこころ
14 ガーベラ
15 新月
16 大宮サンセット
17 シロクマ
18 夢追い虫
19 どんどどん
20 探検隊
21 けもの道
22 トンガリ'95
23 8823
24 君は太陽
EN-1 海とピンク
EN-2 空も飛べるはず
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