ここ最近のライブでお馴染みとなった蔦谷好位置&ヒラマミキオの機材はすでにセッティングされているが、「古い曲だけど……」と言いつつ披露した至上のロック・ソング“悲しみの果て”(96年『ココロに花を』)、「俺と石くんのギターを聴いてください!」(宮本)とハード・エッジなギター・リフとロックンロールでざくざく攻めまくった“勉強オレ”(03年『俺の道』)……といった序盤の楽曲を、まずは4人だけの鋭利なサウンドで、まだ蒸し暑い9月の夕空へと解き放っていく。いきなり6人でのロック・オーケストラ状態の音像に突入するのではなく、まずはロックと徒手空拳で向き合い続けてきた「戦う男」の剥き身の魂を聴かせていく……のだが、何よりその、ばりばりと空気を自然発火させていくような4人の熱量が、オーディエンスの中に「熱狂」とも「快楽」とも違う、静かな情熱の炎をめらめらと呼び起こしていく。
《こんなもんじゃねえだろうこの世の暮らしは。》《恋の始まりは終わりの始め この世は闇の始め》と歌い上げる“無事なる男”(92年『エレファントカシマシ5』収録)の後で「昔の歌なんだけど、笑っちゃったよ。いいこと言ってっから(笑)」と宮本がMCしている間に蔦谷&ヒラマがオン・ステージ。“太陽の季節”(93年『奴隷天国』)、“うれしけりゃとんでゆけよ”(『ココロに花を』)といった楽曲を再現していく、6人編成の圧巻のスケール感! ここ数年の間、幾度となくこの編成でのステージを観ているが、4人→6人のサウンドの変化を自ら比較実験的に解体してみせるような展開を目の当たりにすると、改めて「蔦谷&ヒラマを加えた6人編成だからできたこと」「6人編成での演奏から4人が得たもの」の大きさに気づかされる。そして……特にシングル曲で固めたわけでもない、むしろコアな曲のほうが多いとさえ言えるこの日のアクトが、常に日本のロックの核心を抉りながら死に物狂いで闘い続けてきたエレファントカシマシの足跡をリアルに浮かび上がらせていた。
「……この優しさいっぱいの会場の空気はいったい何だろうね?」と、アンコールで再びステージに現れた宮本も驚いていたくらい、本編ですでに精魂使い果たすような激演を見せた宮本を案じる空気と、「でも、そんな宮本のエネルギーが爆発する場面を観たい!」という期待感が、客席ではでっかくマーブル模様を描いていた。そんなオーディエンスに向け、「東京の生活のリアリティ」の結晶のような“武蔵野”(00年『good morning』)、そして日本人のギリギリの誇りを燃え上がらせる“生命賛歌”(『俺の道』)……と、なおも「今、ここ」に生きる者としてのアイデンティティを聴く者すべてに突きつけていくような熱い歌を、夜空を割るような勢いで響かせていく宮本。《東京中の電気を消して……》と歌い始めた“友達がいるのさ”(04年『風』)の最後、「歩いたって、立ち止まったって、何だっていいんだ! 出かけようぜ!」と拳を突き上げ、「来年も行こうぜ!」と「エレカシ野音・23年目」へ向けての号砲のような絶叫を轟かせたところで、全員ステージを降りる。
鳴り止まないアンコールに応えての再度登場して披露したのは“笑顔の未来へ”(『STARTING OVER』)、“ガストロンジャー”(『good morning』)、そして“ファイティングマン”(88年『THE ELEPHANT KASHIMASHI』)の新旧必殺ライブ・アンセム! “ガストロンジャー”で「勝ちに行こうぜ! 闘っていこうぜ!」と叫び上げ、“ファイティングマン”に満場のクラップで応えるオーディエンスを「エブリバディ、カッコいいぜ!」と空気をばりばりと震わせる絶叫でさらに鼓舞する宮本! 石くん/トミ/成ちゃんと蔦谷&ヒラマの5人とともに、歩みすら覚束ないほど全エネルギーを放出しきったような佇まいの宮本がステージを去り、終了……かに見えた。が、まさかのトリプル・アンコールで問答無用の名曲“今宵の月のように”(『明日に向かって走れ-月夜の歌-』)を熱唱! 血の最後の一滴まで振り絞るような歌を響かせた後の、「絶対輝こうぜ! みんないけるぜ! どーんといこうぜ!」という宮本の渾身のメッセージが、今でも胸に、脳裏に焼きついて離れないままだ。
終演と時を同じくして、約1年ぶりのニュー・シングル『ワインディングロード/東京からまんまで宇宙』とライブDVD『エレファントカシマシ LIVE HISTORY FILMS フェスティバル&イベント 1988-2011(仮)』を11月16日に同時リリースすること、そして2012年新春ライブ=1月6日&7日の渋谷公会堂2デイズ公演がアナウンスされた。エレカシの歩みは、ロックの歩みは、なおも「その先」へと進んでいくのだ。(高橋智樹)