BUMP OF CHICKEN@SHIBUYA-AX

2010年には都内でシークレット・ライヴ(当日のレポートはコチラ→http://ro69.jp/live/detail/33216)が行われたりしたものの、本格的なライヴ及びツアーとしては実に2008年の『ホームシック衛星』『ホームシップ衛星』以来3年半ぶりとなる、BUMP OF CHICKENの『GOOD GLIDER TOUR』が遂にスタートした。これは東京・SHIBUYA-AXの2デイズを皮切りに2012年1月いっぱい、全国のライヴ・ハウスを廻るというもので、その後4月から7/14の仙台まで、アリーナ・ツアーとして『GOLD GLIDER TOUR』が控えている。ファンにとっては待ちに待った「やるときはとことんやるライヴのターム」というところだろうか。

今回のレポートはAX2デイズの2日目。ツアー開始直後ということもあり、開演前の会場に充満した期待値は、ワクワクする高揚感を通り越して文字通り沸騰寸前の緊迫感をひしひしと受け止めさせるものであった。チケット争奪戦が熾烈を極めたことについて、バンプのメンバーはステージ上から「ごめんね」と気にかけていた。興奮するのも無理はない。が、いざ参加しても積もり積もった待望感が体調不良や怪我という結果を招いては誰よりも本人が悲しい思いをしてしまうので、今後の公演に参加予定の方は、その待望感をどうぞバンブが届けてくるすべての楽曲と言葉と一挙手一投足を余さず受け止めるためのエネルギーにして欲しい。というか、今回のツアーはオーディエンスとして、一瞬たりとも集中力を欠いてはいけません。そういうステージになっています。

右手に握った2本のスティックを振る升秀夫(Dr.)を先頭に、チャマこと直井由文(B.)はグッズのタオルを広げて掲げ、そして増川弘明(G.)と、ワンテンポ間を置いて最後に登場した藤原基央(Vo./G.)はそれぞれにギターを高く掲げて一層大きく沸く歓声を浴び、いよいよ開演である。もちろん演奏曲についてはなるべく伏せる形でレポートを進めるが、さしあたってオープニング・ナンバーは“三ツ星カルテット”。おおおお、これだけでも一年待ったぞ。藤くんによる、ラテン・フレイヴァーを漂わせながら宇宙空間へと誘うかのような流麗なアルペジオに、いきなり肌が粟立つ。

まず『COSMONAUT』は、藤くんのソング・ライティングがリズム面で劇的な進化・深化を果たした作品だった。バンプの歴史においてこういう局面は何度かあって、つまりその度に楽曲が升のドラム・プレイを追い込み、新しいスタイルを獲得させてきたのである。なぜ升が追い込まれなければならないかというと、彼が藤原基央というソングライターにして歌い手の「呼吸を知り尽くしている」ドラマーだからだ。だから僕は、ライヴで披露される“三ツ星カルテット”を聴きたかった。素晴らしかった。これからの長いツアーの中で、更に素晴らしいパフォーマンスとなってゆくだろう。

そして、鋭く激しく美しい音響によって楽曲に込められたエモーションを彩ってゆくヒロのギターも、一層存在感が大きくなっている。もちろん楽曲によっては彼がリード・ギターを務める場合はあるのだが、近年の楽曲群はもとより往年のナンバーにおいても、今のバンプのバンド・サウンドはこうである、という手応えを受け止めさせるのは、彼の豊かなギター・サウンドに依るところが大きい。ときには「どこのベテラン・バンドですか?」と言いたくなってしまうような、迫力のアンサンブルを叩き付けてくることもある。いや、キャリアで言えば既にバンプはベテランの内に入るのかも知れないけど、なんか相変わらず若々しく見えてしまうところがあるのだ。フロアから「かわいー」という声が飛んで、「もう32歳だからね!」と受け応えしてたし。チャマが。

そんなふうにオーディエンスとのやりとりも含めて、4人はライヴの空気を体いっぱいに吸い込むように楽しんでいた。若い頃から密室的な遊びが好きだったというこの4人が、なぜこれだけ多くの人々に渇望され、風通しの良い優れたパフォーマンスを見せることが出来るのだろう。その理由は、チャマが零したこんな一言に集約されていたのではないか。「ずっとレコーディングしてました。ギリギリまで。僕ら、聴いてくれる人のことを思い浮かべながら、誰かに届けたくて音楽やってるんで。じゃあ、新曲、聴いてください。“グッドラック”」。アリーナ・ツアーと同時に発表された、1/18リリース予定のニュー・シングルだ。ゆったりとしたマーチング・ビートに、離別を恐れながら寄り添って歩く、人との関係において安直な結論を決して求めない藤原節だ。抱えたアコギとともに優しく、しかし振り絞るように歌われるナンバーであった。バンプの歌があなたを支えるだけではない。今度はあなたが、バンプの歌を支えろ。

ライヴで聴くとこんなに激しいロック・ナンバーなのか、という曲があった。いま聴くからこそ受け止め方がまったく変わる、思わず涙を誘われるような素晴らしい曲があった。びっくりするぐらい懐かしい曲も披露された。しかしどうやら、今回のツアーのセット・リストは、核となる楽曲群と、流動的に入れ替えられる楽曲群とがあるようだ。というのも、事前に受け取っていたセット・リストと、実際に披露された楽曲とでは、ところどころ異なっている部分があったから。リストが間違えているということはほとんど考えられないので、バンドが直前に演奏曲を差し替えた、つまりそれだけ演奏曲が用意されている、ということになる。藤くんは「アンコールでやる曲を、昨日も今日も迷ってる」と言っていたから、ツアー中ずっと迷っているのだろう。今後の各公演、楽しみにしていて欲しい。今回のアンコールの最後で、僕はびっくりした。びっくりした理由を細かく書くと演奏タイトルがバレそうだが、要は余りの名曲ぶりを改めて突きつけられてびっくりした、ということだ。

藤くんは「倒れてる人いませんか。大丈夫ですか。大丈夫な人は大丈夫って言えんだよ(笑)」と、チャマは「冬に暑いなんて聞かないからね。ちゃんと汗ふいて帰ってね」とそれぞれにオーディエンスを気遣い、ヒロは、藤くんやチャマのMCと同じことを話していた。升は、ニコニコしながらなぜかマイクを通さずに「ありがとう」と告げた。よし絶好調だ。終演後、名残惜しそうに最後までステージに残っていた藤くん「じゃあ、いってきます」。始まったのだ。グッドラック、バンプ。(小池宏和)
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