フォスター・ザ・ピープル @ リキッドルーム恵比寿

激しく打ち鳴らされるタムのビートの中、カウベル叩きながらマーク・フォスターが弾むようにステージに飛び出してきた瞬間から、アンコールのラストの一音に至るまで、満員のリキッドルームに吹き荒れる歓喜! アメリカ/カナダのオルタナティブ・チャート6週連続1位、USモダン・ロック・チャート7週連続1位、US iTunesでも1位……とキラー・チューン“Pumped Up Kicks”で大きなうねりを起こしてみせた新星=フォスター・ザ・ピープル。ロックもソウルもエレクトロも粉砕&再構築して極彩色のポップ空間を描き出す彼ら、待望の初来日公演は16日・大阪BIG CAT公演もこの日のリキッドルーム恵比寿公演も、さらに追加公演の18日:代官山UNIT公演も完全ソールドアウト!という期待感過熱ぶりを、マーク・フォスター(Vo・Key・Pf・G・Prog・Perc)/カビー・フィンク(B・Vo)/マーク・ポンティアス(Dr・Perc)の3人にサポート・ギター&キーボードを加えた5人が、完全に満足させるどころか途方もない地平までぶん投げてみせた、至上のアクトだった。

なお、以下にセットリストを掲載しているので、幸運にも18日の代官山UNIT公演を観に行く方は終演までネタバレ回避していただければ幸いです。とはいっても、まだスタジオ・アルバム1枚しか出ていない人たちなわけで、当然ながらアルバム『トーチズ』本編10曲全部やったし、ボーナス・トラックの“Broken Jaw”やったし、異色のピアノ・バラード“Ruby”もやったし、さらに「去年“Pumped Up Kicks”をカバーしてくれたお礼に……」とありったけのリスペクトを籠めて披露したウィーザーの“Say It Ain't So”を含めても、この日のステージは計13曲、1時間強。しかし、むせ返るほどに充満したオーディエンスの熱気と感激の密度は、スタジアム・バンドの2時間3時間のアクトに決して劣らないものだった。

ドラム以外のすべてのポジションに鍵盤がセットされ、タムが無造作に置かれ……とただでさえ雑然としたステージも、その音楽的な神出鬼没感を象徴しているが、実際のプレイはそれ以上にスリリングだ。上記の楽器クレジットを見てもわかる通り、曲によって鍵盤を弾き倒したりピアノを奏でたりハンドマイクでステージ狭しと駆け回って絶唱したりするマーク・フォスターはもちろん、ベースとシンセ・ベースを使い分けるカビー・フィンクに加え、サポートの2人も曲ごとに(というかヘタすると小節ごとに)楽器をチェンジするステージングだけでも十二分に手に汗握るものだ。が、やはりそのスリルの中核を成しているのは、クールでポップなものだけを結晶させた(そしてそれ以外を徹底的に排除した)ような楽曲と、そこに無限のドライブ感を与えていく3人+2人のダイナミックなビート感だ。

“Miss You”の性急なリズムにしても、会場一丸のジャンプと合唱へと導いてみせた“Call It What You Want”にしても、個々のビートやプレイはどれを取っても特別なものではないし、シンセ音にしてもほぼプリセットで用が足りるような定番サウンドながら、鳴った瞬間にフロアを沸騰させる狂騒感を生み出せるのは、自分たちのビートに懸ける迷いなき爆発力もさることながら、とりわけマーク・フォスターのずば抜けた音の選球眼の賜物だろう。エレクトロ・レゲエ的なAメロからコールドプレイかってくらいの目映い風景へと突き抜けていく“Broken Jaw”。ヒートアップする会場丸ごと凛とした多幸感で包んでみせた“Waste”。マーク・フォスターがギターを構えた途端にWギターのバンドに豹変してワイルドな音をぶん回した“Don't Stop(Color On The Walls)”……そのどこを取っても、オーディエンスを灰色の現実に引き戻してしまう興醒めポイントが微塵も見当たらない。あたかも砂の中に埋まったダイヤモンドをあっさり掘り当てるが如く、彼らは音の宇宙の中から真に悦楽的なものだけを掴み出して、自らの楽曲にちりばめていることがよくわかる。MGMT、ミュートマス、果てはストロークスにマルーン5まで、曲ごとに数多のアーティストの残像が浮かんでは、その鮮烈な音とビートの前に消し飛んでいく。

そして何より、観る者の感情を沸点の向こう側まで導いていくマーク・フォスターの、シンガーとして/フロントマンとしての圧倒的にエネルギッシュな存在感! 磨き抜かれたメロディをハイトーン・ヴォイスで高らかに歌い上げつつ、タムを乱打し、フロアを一大ジャンプ&クラップへ誘い、「マイ・ファースト・タイム、エイジア! ソー・アメイジング! キャント・ウェイト・カム・バック!」と力いっぱいの感謝を捧げ、アンコールのラスト“Pumped Up Kicks”ではフロア狭しと沸き上がるシンガロングの中、カウベル叩いてタム鳴らして舞台袖のスピーカーに立ち上がったかと思えば最後はステージを降りてフロアの柵に昇ってオーディエンスを鼓舞しまくり……と1人で10人分くらいのエネルギーを発散しまくって、「まだまだ観たい!」というキッズの想いも完全燃焼させていった。フォスター・ザ・ピープルと僕らのスケールの大きな物語が、最高の形で幕を開けた――そんな実感が、熱気の余韻とともに心と身体にみなぎっていた。(高橋智樹)


[SET LIST]
01.Houdini
02.Miss You
03.Life On The Nickel
04.I Would Do Anything For You
05.Broken Jaw
06.Waste
07.Call It What You Want
08.Don't Stop(Color On The Walls)
09.Say It Ain't So ※Weezer cover
10.Helena Beat
(ENCORE)
11.Ruby
12.Warrant
13.Pumped Up Kicks
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