「2年ぶりの開催となりますPUNKSPRING!」と威勢よく語り始めるお馴染みMC:Saschaが続けて「よくぞ辿り着いてくれました! ありがとう!」とオーディエンスに呼びかけたのは伊達でも何でもなく、この日は首都圏を襲った暴風により公共交通機関が軒並み運転中止ないしは遅延に追い込まれ、もともと強風に弱い最寄りの京葉線のみならず、幕張メッセへの移動手段のバックアップ的存在である総武線(幕張本郷駅)まで一時ストップするという異常事態だったからだ(これを書いている自分も、新小岩で電車が動かなくなったためタクシー移動した)。身体が飛ばされそうな暴風の中、運営サイドもたまらず開演を15分繰り下げざるを得なかったほどだったが、どうにかこうにか会場に辿り着いたキッズの安堵感はすぐに尋常でない熱気へと変わっていったし、メッセは交通機関の運転再開に伴ってあっという間に人で埋め尽くされていった――昨年は震災の影響によって開催中止となっていたパンクの祭典『PUNKSPRING』、2年ぶりの開催。今年は3月31日・東京:幕張メッセ9・10・11ホール、4月1日・神戸:神戸ワールド記念ホールの2ヵ所での開催となる。
というわけで3月31日、幕張メッセ。前回(2010年)開催時の「メイン・ステージ×2=[RED STAGE][BLUE STAGE]と、壁一枚隔てて第3のステージ=[GREEN STAGE]」の計3ステージに総勢26組のアーティストが入り乱れるという状況と比べると、今回は[GREEN STAGE]がなくなった分「2ステージ・12組(coldrainは出演キャンセルになったので11組)」とステージも出演アーティストも数だけ見れば少なくはなってはいるが、かつて[GREEN STAGE]のあった場所を飲食&休憩エリアとして特化したおかげで場内の機能と動線が整理され、誰もがより集中してメイン・ステージ×2に集中することができるようになっていた。そして、外の混乱によるざわつきを「最高の1日にしようぜ! かかってこいやー!」というFear, and Loathing in Las Vegas・Soの甲高い絶叫がリセットし、1曲の中に天国と地獄を詰め込んだような“Chase the Light”のハイブリッド・スクリーモ・サウンドがメッセを震わせ、巨大な空間に『PUNKSPRING』の強烈なヴァイブを吹き込んでいく……カオスの中で迎えた、最高のスタートの瞬間だった。
この日の大トリを飾った『PUNKSPRING』初出演:THE OFFSPRINGが[RED STAGE]で噴き上げたエネルギーはまさに圧巻! 飄々と自然体のまま無敵の歌を放射するデクスターといい、メッセ丸ごとばりばりと引き裂くようなヌードルズのギター・プレイといい、もはやポップ・パンクもメロコアも関係ない図太いポジティビティがとんでもないスケールで渦巻いているような堂々のステージ。観客のあまりの熱狂ぶりに、演奏開始早々にステージ前のバリケードが壊れるというハプニングもあったが、“All I Want”の爆裂疾走パンクから“(Can't Get My)Head Around You”のようなソリッドなナンバー、“Pretty Fly(For A White Guy)”のアゲアゲ・パンクまで、文字通りキャリアのすべてを1時間強のライブの中に凝縮しきってみせた。一方、[BLUE STAGE]のヘッドライナーとして登場したのはSUM41! 昨年の震災・原発事故以降、海外のアーティストが軒並み来日中止・延期を決める中、震災後初めて仙台でライブを敢行した洋楽アーティストでもあるSUM41、“Over My Head(Better Off Dead)”やったし“We're All To Blame”やったし“In Too Deep”やったし……と見応え十分のはずのこの日のアクトだが、明らかにデリックが本調子ではなかった。『PUNKSPRING 09』でヘッドライナーを務めた時の、切れ味鋭い楽曲にさらにキレと攻撃性を与えていくあの感じではなく、あたかも酔いどれブルース・シンガーのようにビートを追いかけながら歌うデリック。「この日が8ヵ月ぶりのライブ戦線復帰公演」というせいもあるのかもしれないし、ギターなど機材のトラブルが本人のモードに影響していたのかもしれない。とはいえ、熱気沸き立つオーディエンスを指差しながら「ユー! ユー! ユー・アー・アメイジング!」と叫びながら会場を煽り倒すデリックの佇まいは、それ自体が十二分にパンクのノー・フューチャーとエネルギーに満ちたものだった。
「サンキュー・ジャパン! ウィ・ラブ・ユー、『PUNKSPRING 2012』!」・―[BLUE STAGE]のトリ前には、前回(2010年)にも出演したNEW FOUND GLORYが登場。5人全員ジェット・エンジン的な爆発力でもって、最新作『Radiosurgery』の“Anthem for the Unwanted”からラモーンズ“Blitzkrieg Bop”カバーまで次々に叩き出したアクトの最後は、「去年、大変なことがあったが、日本は強い国だ」というメッセージとともにGREEN DAYのカバー“Basket Case”、そして“My Friends Over You”。幕張メッセが感激に熱く震えた瞬間だった。そして、[RED STAGE]トリ前にはONE OK ROCK! 「今日ヤバいよ! 俺らの後がSUM41で、俺らの前がNEW FOUND GLORYで。こんなバンドに挟まれてライブできると思いませんでした!」(Taka)というMCの通り、この日のラインナップの中でも日本代表的なポジションを務めるということもあって、いきなり“LOST AND FOUND”で炸裂するソリッドでダイナミックな音からあふれる、Takaはじめ4人の壮絶な気迫! “アンサイズニア”では会場丸ごとコール&レスポンスへ導き、“NO SCARED”で沸き上がるシンガロングを「お前たちの力はこんなもんじゃないだろ!」とさらに煽り……と、強烈な存在感をアピールしてみせた。
『PUNKSPRING 2012』のもう1つの目玉と言えるのが、なんと今回が初来日(!)となるパンク・レジェンド=DESCENDENTS! 70年代末カリフォルニアで「パンク」と「ポップ」を直結してみせた彼ら。今や50歳目前、半袖シャツに眼鏡のマイロの町内会長的な風貌とは裏腹に、最初の一音を鳴らした瞬間の4人の、巨大な弾丸が目の前を通り抜けたような迫力! どこまでも荒々しくささくれたマイロの歌というか咆哮も、人間発電機の如きパワフルなビルの巨体から繰り出されるビートの推進力も最高。“Rotting Out”に“I Wanna Be A Bear”に“I'm Not A Loser”に……80年代パンクの歴史が「今」にジャック・インされ、むせ返るような熱量を生み出していた。さらに、ハードコア・パンクとスラッシュ・メタルとファンクの接点から怒濤のカタルシスを生み出す西海岸の異才=SUICIDAL TENDENCIES! マイク・クラークのギターが強靭なリズムを刻み、ディーンのライトハンド・ソロがメッセに妖気を充満させ、スティーヴの6弦ベース&エリックのタフなビートが地面を揺さぶり……と各楽器のポテンシャルを最大限にブーストさせたようなハイ・エナジーな響きを、モッシュピットに飛び込んでは何度も「ST! ST!」コールを巻き起こすマイク・ミューアの絶叫が狂騒の彼方へとぶん投げていった。
「今日いろんな人が海外から来てるから、いいとこ見したってや!」という闘志と「去年の(震災の)あの日からいろんなことを経験して、憶測を覚えて、疑うことを覚えて。自分や大切な人を守れるようになった分、幸せになれるチャンスも失っていって……難しいな」と震災以降の苦悩が混在するTAKUMA自身のモードを“STONE COLD BREAK”“RIVER”“super stomper”“淋しさに火をくべ”“1sec.”“その向こうへ”“風”“goes on”といった選曲にそのまま投影してみせた10-FEET。目映いばかりのエモーションと剛性を備えたポップ・パンク・サウンドとは裏腹に、ステージに上げた女性客に「みなさんのことを愛してます! コンサートが終わった後、みなさんと赤ちゃんを作りたいです!」というMCを翻訳させたりして下世話の限りを尽くしながら、それでもフロアを狂喜乱舞させてみせたのはALL TIME LOW。この日の出演バンドの中で唯一の女性メンバー=テイラー(Vo)を擁するNY州発のWE ARE THE IN CROWDは、ヘヴィ&クリーンな轟音とテイラー&ジョーダンのWヴォーカルで鋭利なポップ・パンク・ワールドを展開してみせた。「日本のバンドなんてオマケみたいなもんでしょって言われて、何も言い返せない自分が悔しくて。いつかメイン・ステージでやれるバンドになるって思って。『洋楽と邦楽の壁を壊す』っていうんじゃなくて、俺たち日本人もやれるんだってことを見せたいと思います!」と涙ながらに想いを語ったのはTOTALFAT・Shun。最後に鳴らした“OVER DRIVE”が、ひときわ熱く、強く胸に残った。ちなみにこの日、Fear, and Loathing in Las Vegasとともにトップバッターを務めるはずだったcoldrainはMasato(Vo)の帰国が遅れたため残念ながら出演キャンセル。Masato以外の4人が登場、4月15日に新木場スタジオコーストで無料ライブ(『PUNKSPRING』の半券で応募可能。詳しくはオフィシャルサイトをご参照ください)を敢行することを発表していた。
「ジャンル別音楽フェス」の1つとして『PUNKSPRING』が『Springroove』(R&B/ヒップホップ系)、『LOUD PARK』(ヘヴィ・メタル/ラウド・ロック系)が生まれたのが2006年。今年の『PUNKSPRING』も、パンクの「歴史」と「今」が「その先」の未来へ向かってどどどどーっと並走しているのを目の当たりにするような決定的瞬間に満ちていた。4月1日(日)には神戸ワールド記念ホールにて、THE OFFSPRING/SUM41/ONE OK ROCK/NEW FOUND GLORY/ALL TIME LOW/TOTALFAT/Fear,and Loathing in Las Vegas/KNOCK OUT MONKEY(Opening Act)の8組を迎えて開催! そして、2009年まで『PUNKSPRING』と連日で開催されていたR&B系フェス『Springroove』が今年は3年ぶりに復活開催! その模様も、ここ幕張からお伝えします。(高橋智樹)
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