モリッシー @ ZEPP SENDAI

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モリッシー @ ZEPP SENDAI
モリッシーの10年ぶりの来日ツアー、その初日となる仙台公演を観に行って来た。言うまでもなく仙台はモリッシー初上陸の街だ。「こんにちは仙台、はるばるやってきたよ」とモリッシーは言った。ZEPP SENDAIの閉鎖についても言及した。そんな彼が10年ぶりの来日の第一歩を刻む場所に仙台を選んだ理由については、1年前のあの大災害を引き合いにだして改めて推測するまでもないだろう。

モリッシーは仙台の他にも福岡、そして広島にも赴く。まさに、全国縦断の行脚ツアーなのである。モリッシーの行脚は5月3日のオーラス恵比寿ガーデンホールまで、なんとこれから2週間も続く。モリッシーがこんなに長期間日本にいるのも、もちろん初めてのことだ。これから各地でモリッシーとの感動の再会を果たす人、衝撃の初対面を果たす人が続出することと思うので、まずはシンプルに、昨晩仙台で何があったのかについて記しておきたいと思う。

アンコールまで含めて全19曲、“エヴリデイ・イズ・ライク・サンデー”で始まり“ゼア・イズ・ア・ライト”で終わる約90分のショウだった。直近のツアーでもモリッシーは毎晩だいたい20曲前後の曲を演っているので、これが今回の来日ツアーの基本フォーマットになってくると思う。開演前にはステージに白い幕が下りていて、そこにニューヨーク・ドールズの映像etcがプロジェクターで映し出されている。

そしてほぼオンタイム、その白い幕がばさっと落ちたところでモリッシーとバンドが登場する。モリッシーは透け感のある黒のシャツの前をはだけさせ、十字架のネックレスを垂らしている。ボズ(G)はなぜか女装していて、ボズ以外のバンド・メンバーは全員上半身裸、そしてムキムキの胸筋のあたりに黒マジックででかでかと「男」と書いてある。そんな面子が肩を組み、深々と客席に一礼してから“エヴリデイ・イズ・ライク・サンデー”は始まった。

モリッシーってこんなにフレンドリーな人だっただろうかと驚くほどにのっけから客との物理的・精神的距離が近い。直近の記憶が10年前のサマーソニックのステージになるのだけれど、あの時の彼は客の顔などほとんど観ずに終始キレ気味にくねくねしていた。しかし今夜の彼は客を見渡しながら、語りかけるように、説得するように歌う。歌声はこぶしが効きまくっていて、時折「ガルル」と唸り声に近いドスさえ響かせる。そして早くも手を伸ばすと、最前列の客と握手を始める。フロアのあちこちで揺れていたグラジオラスが、ぐわっとステージ前方に押し寄せていく。

ふと眼を遣ると、バストラの真ん中に赤い丸が描かれていて、バストラ自体が日の丸のデザインを模していることに気づく。ドラムセットの後ろには巨大な銅鑼、そして上手には直径1メートル以上はゆうにある巨大な太鼓が設置されていて、このリズム隊が随所で大きな効果を生んでいく。特に“ハウ・スーン・イズ・ナウ?”のアウトロへと至るドラム・ソロは凄まじいド迫力で、モリッシーは点滅するライトの中でそれをうずくまって聴いている。曲が終わるとすくっと立ち上がり、「どうだすごいだろ」みたいな顔で胸を張るモリッシーが妙に可愛らしい。

そんな彼がタンバリンを鳴らし始まったのが“ユア・ザ・ワン・フォー・ミー,ファティ”。直前までのヘヴィネスと対照的な跳ねるポップネスが眩しいナンバーだ。ここからの中盤は躁鬱気味に明暗アップダウンのコントラストが効いた曲とパフォーマンスが交互に並んでいく。「モリシー! モリシー! モリシー! モリシイィィィィィ!」と、曲間には客席から絶え間ない絶叫が続く。その呼びかけに対してモリッシーは律儀に「ハイ?」「イエス」「ホワット?」と相槌を打っていく。御機嫌である。誰が叫んだのか、叫び主の顔を探そうとすらする。

モリッシーが「This Is A Song!」と叫んで始まった“Scandinavia”、ベース・イントロが超絶格好良い“ワン・デイ・グッドバイ・ウィル・ビー・フェアウェル”とハードめな曲が連打されたところで、駄目押しのように“ミート・イズ・マーダー”が始まる。明らかに、間違いなく、この日最も重く、激しく、そして直球のメッセージが投げかけられたのがこの曲だ。スクリーンには屠殺場の映像が繰り返し映し出され、点滅する赤いライトは血を、そしてギターのフィードバックノイズはチェインソーを想起させながら、「食肉は殺人である」という逃げ場のないメッセージが轟いていく。この牛タンの街で!

モリッシー @ ZEPP SENDAI
モリッシー @ ZEPP SENDAI
そんな“ミート・イズ・マーダー”の途中でステージから消えたモリッシーが、再び戻って来る。そして仕切り直しのように軽快に“ウィジャボード,ウィジャボード”が始まる。さっきまで「食肉は殺人である」と言っていた人が今度は「こっくりさん(Ouija Borad)」にお願いし始める、このギャップはなかなか目眩がするが、これでこそモリッシーだ。“Ouija Board Ouija Board”はグラマラスなギターのアレンジが効いている。

“プリーズ・プリーズ”、モリッシーは棒立ちでこの歌を歌う。あえて棒立ちを心がけているように見える。指先だけが忙しなくリズムを刻み、そしてアウトロで、悲壮な表情と共に膝から崩れ落ちるモリッシー。一遍の即興劇を観ているような時間だ。そのまま小走りで上手幕内に走り去った彼は、しばらくすると真っ赤なシャツに衣装替えして再びステージに現れる。直前までの棒立ちが嘘のように身をくねらせ、手拍子を促し、そして最後にはがばっと赤いシャツを脱ぎ捨てる。モリッシーの半裸は、意外にも6パックに綺麗に腹筋が割れている。でも、目茶苦茶むっちりもっちりもしている。その赤いシャツは悲鳴巻き起こるフロアに投げ込まれる。そして、白いシャツに着替えて再登場したモリッシーが歌った本編ラスト・ナンバーは“アイ・ウィル・シー・ユー・イン・ファー・オフ・プレイセズ”。「サヨナラ!」と叫ぶモリッシーは、汗だくで微笑んでいる。

アンコール、モリッシーはまたもや衣装替え、今度は黄色いシャツに着替えている。そして客席から投げ込まれた日の丸を一瞥すると、おもむろにその日の丸をエプロンのように腰に巻きつけ始める。日の丸のエプロンをしたモリッシー、その姿は遠目に見るとちょっとラーメン屋の店主みたいなことになってしまっている。

そしてモリッシーは、日の丸を腰に巻いた彼は、こう言った。「これから何処へ行こうとも、何が起ころうとも、ぼくのことを、けっして忘れないでください」。“ゼア・イズ・ア・ライト”のイントロが始まり、場内は歓声のような、悲鳴のような、とにかく腹の底から振りしぼられたオーディエンスの声が轟いていく。最後、再びモリッシーはシャツを脱ぎ捨て、「サンキュー」を繰り返しながらステージから去って行った。終演後、客電が付き、ステージ上ではとっとと機材の搬出作業が始まった。それでも多くのファンはアンコールの拍手を止めず、殆ど呆然とフロアに立ちつくしていた。それはモリッシーを再びステージに呼び戻そう、もう1曲演ってほしい、という熱意の表れというよりも、「ついに、今、ここで、彼を観てしまった」奇跡を反芻する作業に等しかったんじゃないだろうか。しかも、ついに私達が観てしまった彼は、今こそ観るべき必然に満ちた、いや、今こそ日本の我々に自らを120%見せつけるべく最高のコンディションでやってきた、モリッシーその人だったのだ。モリッシー10年ぶりの日本公演が、ついに始まった。(粉川しの)

1. Every Day Is Like Sunday
2. First Of The Gang To Die
3. You Have Killed Me
4. How Soon Is Now?
5. You Are The One For Me Fatty
6. Black Cloud
7. Action Is My Middle Name
8. Speedway
9. Last Night I Dreamt That Somebody Loved Me
10. I'm Throwing My Arms Around Paris
11. Scandinavia
12. One Day Goodbye Will Be Farewell
13. Meat Is Murder
14. Ouija Board Ouija Board
15. People Are The Same Everywhere
16. Please,Please,Please Let Me Get What I Want
17. Let Me Kiss You
18. I Will See You In Far-off Places
(encore)
19. There Is A Light That Never Goes Out
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